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【第6夜 ~秘石盗難の裏で~】(改)

翌日の昼。


祭りの後も、警備の為に村に残っていた騎士団の1人が早馬を走らせ、王宮を目前にした一行の元に駆け付ける。


「急報です!!!」


息を切らした団員が大声で知らせる。


「どうした?何事だ?」


フィンがそれに応える。


「今朝がたより村人が多数騒いでおりまして、


 何事かと問いただしたのですが…。」


息が続かない団員がじれったいフィンは、


「なんだ?早く!何があった?」


急かす。


「むっ、村人の所有する宝石をはじめ、


 全ての秘石が…なくなった…という事です!」


話を聞いていた周りの団員の顔色が変わる。


「なんだって?全ての家の…か?」


フィンも例外なく、焦りの表情で聞く。


「はい。最初に気づいたのは村の金貸しの嫁で…、


 毎朝金庫の確認と、石の数を確認するらしいのですが…、


 石だけが紛失していることに気づいて…、


 外に出て騒いでいたそうなんです。


 不審に思った村長が、それぞれの家でも確認するようにと伝えたところ…、


 全家庭の「秘石」がなくなっていたということです。


 石のほかに盗まれたものはなく、


 荒らされた形跡もないとのことでした。」


何とか全て言い終えて、安堵の表情で息を整える団員。


「なんだと?」


「どういうことだ…?」


次々に発せられる疑念の声。


ロイとフィンは顔を見合わせる。



この星では〈石〉が重宝されている。


この星で採れる〈石〉には力があり、その力により人々の生活が守られている。


魔物から人々を守る〈魔よけ石〉やケガや病気を治す〈治癒石〉、火力をもたらす〈火石〉、光を生み出す〈光石〉、そしてごくまれに…、


人に特別な力を与える〈魔石〉が存在する。


これらの石はそれぞれの家で代々伝わり、大切に奉られているもので、家から持ち出すことはそうはない。


これらは総じて、その力ゆえ『秘石』と呼ばれている。


「祭りで村人が家を留守にしたときに盗まれたのでは…。」


「いやしかし、村人の警護はもちろんですが、


 村内への魔物や部外者の侵入もしっかりチェックはしておりました。」


「確かに村の警備、人の警護はもちろん、


 全体の状況把握と連絡、報告に抜かりはなかったと思われます。」


「じゃあ、どういうことだ?」


騎士団の議論が続く中、ロイが口を開く。


「敵の目的は、人間の拉致と〈石〉の収集ということか…。


 この狙いが何なのかはまだ分からないが…、


 もし〈石〉の力を欲しているなら次の狙いは…、


 【秘石採掘場】だろう。


 今、この国で産出されている〈石〉の多くが…、


 あの採掘場から掘り出されている。」


それを聞いたフィンが続く。


「〈石〉の収集が目的とあらば、昔に比べて産出量が減ったとはいえ、


 採掘場を狙うのは手っ取り早いのは確かだよね。


 ロイは国王に報告でしょ?


 俺はその間に準備を始めておくよ。」


付き合いの長さゆえ、言わずともロイの望み通りの提案をするフィンに、ロイは満足げに微笑んで、


「ああ、頼む。国王の承認を得次第、採掘場に向かう。


 西地区レファに派遣している5部隊のうち3部隊、


 東地区カジームの7部隊中3部隊を採掘場に向かうよう伝令を。


 中央部隊は1~4部隊に出動を指示。


 王への報告から戻り次第、我々も出る。」


「はっ。」


その場に招集された部隊の隊長たちは一斉に動き出し、出動の準備に取り掛かる。



それからほどなくして、先ほどの早馬の団員が村に戻り、私と凱に出動要請を伝える。


いつでも出動できるように準備をしていた私達だったが、騒動からこんなにも早く要請が来るとは思ってはいなかった。


「俺たちにとっては初の出動だ。


 つまり初陣。


 今までの訓練とは話が違う。


 【生きるか死ぬか】だ。


 下手すれば、もうここに戻れないかもしれない。」


凱は剣を磨きながらいつになく、ゆっくりとした口調で話す。


その凱の様子から、実戦に向けた恐怖が、自分の中で少しずつ大きくなっていくのを感じる。


『生きるか死ぬか…。』


死を意識せずにはいられないその緊張は、躊躇なく私を飲み込んでいく。


『今までの訓練はただの遊びではない。


 私のように剣術を始めたばかりの人間にとっては、


 敵を倒すことよりも、


 どう生き延びるか…を考えなくてはならないのは分かっている。


 でも、私は実戦形式の訓練を十分といえるほどにしてきてはいない。


 実戦は訓練とは違い、何が起こるか予想がつかない。


 だから、その場での判断が全てだ。


 私のレベルでは実戦にはまだ早すぎでは…。』



死の緊張の沼にはまり込み、迷いも生じた私の心境を察した凱が手を差し伸べる。



「莉羽、恐怖に押しつぶされるな。


 俺がいるから大丈夫。


 俺が必ずお前を守る。


 何があっても俺を信じろ。」


澄んだ凱の目が、1ミリもそらすことなく私を見つめている。


「凱…。」


その目にすがるように頷く私。




このシュバリエにおいて、私が騎士団になることを決めたあの日、ロイ団長に言われた言葉を思い出す。


それは村中から、蔑まれ、虐げられていた日々から私を救ってくれたロイ団長、フィン副団長があの事件の調査を終え、この村を去るときに私たち二人にかけてくれた言葉。


その言葉は小さな私たちに、大きな決意を与えてくれた。




「君たちを見てると、無限の可能性を感じるんだ。


 いや、大げさな話ではないよ。


 何だろう…、すごく感覚的なものでうまく言えないんだけれどね…。


 君たちそれぞれに、とてつもないポテンシャルを感じる。


 二人が一緒にいると…、


 その力が何倍にも何十倍にもなるイメージが浮かぶんだ。


 二人なら、きっとなんでもできる、そう思わせる力が…。


 俺たちが騎士団を率いることになったとき、


 君たち二人が私たちを支えてくれる、その日を楽しみにしているよ。」


その言葉を受け、私たちは騎士団に入団することを決めたのだった。


そしてその時、凱は私に言った…



『莉羽には俺がいる。俺がお前を守る。それを忘れるな。』



その時の凱も、今と同じ澄んだ目で私を見つめ話してくれた。



『そう、私には凱がいる…。


 どんな時も必ず、一番近くで見守ってくれている凱がいる。


 だから大丈夫。


 だから戦える。


 自分の力に揺るぎない自信を持とう。


 私自身を、そして凱を守るために…』


ロイとフィンが送ってくれたこの「かけがえのない言葉」と、揺るがぬ凱の思いが、初陣を前にした私の心にじわじわと襲ってくる緊張と恐怖を、振り払ってくれるのだった。




曇天の空の元、戦いの準備を終えた何万という部隊が、次々と採掘場に向かう。


これだけの大規模な移動は近年例を見ない。


というのも、この星の歴史では魔物以外との戦いが、ほぼ皆無と言って等しい。


数百年前からこの星を荒らしていた盗賊も、以前は騎士団と肩を並べるほどの勢力を誇っていたが、時代の変遷とともに、シュバリエから南国のウィルドアに本拠地を移し、今では存在すら怪しい。




この星ゲルバルドには23の国が存在し、それぞれ国王が治める王制国家だが、私のいるシュバリエが、この星の面積の60%を占め、面積ならず、その勢力も、この星最大を誇る状況である。


そのため、他国はシュバリエの属国のような形で存在し、シュバリエの采配で他国の勢力図も変わる。


この国に反旗を翻した国々は、ことごとくシュバリエ国騎士団の脅威を、身を以って体験することになり、和平の道を選ぶ事を余儀なくされてきたのだった。


このシュバリエの歴史を知る者で、シュバリエを敵にまわそうとする愚者は、まず存在しなかったし、これからも現れることはないだろう。 


しかし、その栄華は、騎士団の力によるものだけではない。


このシュバリエの歴代の国王の統治手腕の賜物であったことは言うまでもない。


歴史を学び、人を学び、国王のたゆまぬ努力のおかげでこの星は長年平穏に統治されてきた。


ときたま勃発する小さな争いはあっても、国家間の大規模な戦争には及ぶことはまずなかった。


 

そのため騎士団は、魔物討伐を主な仕事とし、さほど大規模な部隊編成を取ることがなかったのである。




「ここまでの人数が動くのは初めてなだけあって、この景色は圧巻だな。


 ロイもなかなか大胆な作戦を立てたものだ。」


マグヌスも初めての大舞台に興奮気味に話す。


「敵が何者か分からないが故の対策なんでしょうか?」


初めて身に付ける、真新しい防具の着心地を確認しながら私が聞くと、


「そうだな。未知の敵と戦うプレッシャーは大きい。


 万が一のことも考えての作戦だ。


 莉羽も凱も、俺から離れるなよ。


 初陣は体が緊張と恐怖で動かないものだ。


 もし、敵が「人」となった場合…、


 対人訓練を受けていないものは、普段の力の半分出せれば…、


 まだましなほうだろう。魔物を相手にするのとは訳が違う。


 『人を傷つける』なんて甘っちょろいもんじゃない…。


 『人を殺す』…、その覚悟がないと自分がやられるんだ。


 その恐怖にうち勝てないものには…、


 『死』が待っている。


 自分との戦いなんだ…。


 だから、あえて言わせてもらうが…、


 自分の力を決して過信するなよ。」


真剣な面持ちで話すマグヌスの言葉に、この場の空気が張り詰めてくる。


「莉羽、お前は俺とマグヌス隊長の間に入れ。」


凱も、マグヌスの言葉にいつになく緊張の色を見せながら話してくる。


「うん。分かった…。」


私は手綱を引く自分の手が、震えるのを感じながら答える。


『そうか…、人を殺す覚悟…。』


私の後ろから隣に移動してきた凱は、まっすぐ前を見ながらも、震える私の手に自分の手をそっと重ねる。



分厚い雲間から差す一筋のまばゆい光に、私と凱はこの初陣の無事を祈り、馬を走らせるのだった。

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