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"紫電隊"のキセキ  作者: ぺい督
結成! "紫電隊"
9/12

チェックポイント・イーグル

(´ω`) < 大変遅くなりました。これにて既存話分のストーリーを書き終えたことになります。

 夜の帳が降りきって、前照灯(ライト)と月明かりだけが地表を照らす。

「こうやって、ゆっくりと夜空を見上げるのは」少将が、煙草の灰を落として「久々かもしれんな」と呟く。

いつの間にかハッチに戻って、縁に上体を預けながら、タバコをくゆらせていたセルゲイが「どうしてです?」と身を乗り出して少将に聞く。

「決まってるさ」月明かりに、かすかに紫煙がたなびくのが見えた。「書類漬けだったからなァ」

「あぁ、書類が溜まっている時は最悪だった!」文字を見るのも、描くことにもうんざりするんです。俺がそう言ったら、少将がけらけらと笑い出した。

「大隊長にもなったら」そう言った少将の声は、車内から響くザクセンの声で遮られた。「もうすぐ到着するっス!」

おっと、少将がそう声をあげて、俺に「そろそろ降りる用意をしようか」と告げた。

軍帽を被り直して、自分の持ち物を確認し始める。帽子は被った、煙草は懐、拳銃はホルスターに。つい数時間前に使ったばかりの地図が内ポケットに入ってるのを、服の上から触って確認した。

「そういや」俺がふと疑問を口にする。「どうやってザクセンは、基地の近くまで来たのを確認したんだ?」

「あぁ、それは」ハッチを閉めようとしていたセルゲイが、ふたたびハッチを押し開けて答えてくれる。「路肩に目印があるんです」

白い線を横に入れた岩がところどころにあるんです。セルゲイはそう言って、ハッチを閉めて車内に戻った。


 車上でがたごとと、暫くの間揺られて。俺は遠くに、ぼんやりとした灯りを見つけた。

「少将、アレは一体?」俺が指さすと、少将の代わりにザクセンの声が下から響いてくる。「俺たちの目的地っス!」

「あぁ、本当だ」少将が、灯りからほんの少し外れた位置を指し示す。よくよく目を凝らして見ると、確かに鉄条網らしいものが、ずっと向こうまで設置されているのが見て取れた。

チェックポイント(検問所)か?」少将が呟いて、体を起こして眺めていた。

ザクセンが、車内から声を上げた。「チェックポイント・イーグルっス!」


 伝令車(ランナー)が検問所に入ると、歩哨の兵士がライフル片手に走ってきて、「止まれ!」と叫ぶ。

速度を落として、伝令車ランナーがその場に止まったのを感じて、俺と少将がひらりと車上から飛び降りる。

砂地で足を滑らせて、俺がそのまま、ずべしゃぁと倒れこむ。

「はは、だいじょうぶか?」少将が笑いながら手を差し伸ばしてくる。

その手を掴んで、体を起こした。

「砂だらけだ」と文句を言いながら、ズボンの尻についた砂をぱんぱんと叩く。

走ってきた兵士が「所属は?」と俺たちに聞いてくる。

「第74機甲師団、第一旅団所属、第三重装甲連隊の第ニ大隊だ」

ザクセンが側面のハッチを押し開けて、徽章を見せながら続ける。

「第二中隊付連絡班です。通っても?」

ぱたぱたと詰所からもう一人の兵士が走ってきて、手に持った書類をめくる。

「第74の3-2-2(3の2の2)、えぇ、確認できました」

書類をばさりと閉じてこっちを向いて、「それで、そっちの二人は」灯りに照らされた階級章が目に入ったのか、はっと口を閉じる。

「中佐殿に少将殿、ですか!」の声に、応対してくれていた兵士も、慌てて敬礼をする。


 念のためですが、と書類を持っていた兵士が口を開いた。「お名前と、所属をお聞きしても?」

「トマス・テイラー、第五歩兵師団長を務めてる」少将が軍帽を直して、答礼を返す。

俺も続いて「オースティン・エヴァンス、第一〇五」まで言って、ぐっと一度口を閉じた。咳払いをして言い直す。「あー、第五歩兵連隊の、一歩兵大隊長だ」

「トマス少将殿に、オースティン中佐殿、ですね」書類を持っていた方の兵士が繰り返す。「ご用件は?」

俺が言葉を選んでいる間に、ずいと少将が前に出てくる。おほんとわざとらしい咳払いをして、無精ひげを撫でた。

「准将に()()()()()()()はずだが」少将がやや演技がかった口調で、ぴしりと背を伸ばして告げる。

書類を持っていた兵士が数瞬、ぽかんとした表情を浮かべた。すぐに真剣な表情を浮かべて、何かを決断したような表情に変わった。

「あぁ」とわざとらしく声を上げて、兵士がにやりと笑みを浮かべる。

「そういえば、そうでしたね!」書類を持っていた兵士がそう断言する。

「サミュエル、どうした?」心配そうな表情を浮かべて、ライフルを片手に持っている兵士が何事かと走り寄ってきた。

「サミュエル。何も問題はないぜ」書類を持っているホレーショーが、ライフルを担ぎ直したサミュエルに告げる。

「それで」サミュエルが口を開く。「彼らはどうするんだ?」

ぐいとヘルメットを指で押し上げて、サミュエルがホレーショーに告げた。「通しても大丈夫さ」


 冗談じゃない!ホレーショーが慌てたように、口を開く。「まだロクに話も――」

そこまで言って、何かに思い当たったようにホレ―ショーは黙りこくってしまった。すぐにサミュエルと同じように、「あぁ!」と声を上げる。

「そういえばそうだったな」ホレーショーがこっちを向いて「すみません」と謝罪をする。

「構わないさ」少将がにこやかな笑顔を浮かべて、続ける。「そうだ。君たちの名前を聞いても、構わないかな?」

「ホレーショー・ウィルソン特技上等兵です」バインダーを持っていて、ホレーショーと呼ばれた兵士が答える。

「えぇと」もう一人の、ライフルを手に持っていた兵士が言葉を選んで、口を開く。「サミュエル・ヒギンズ上等兵です」

そうか、と少将が呟いて「彼らと一緒に行ってもいいかな?」と伝令車(ランナー)のほうを指差す。

「えぇ、勿論」サミュエルがそう言って、車輛のハッチから顔を出して、コッチを見ていたザクセンに手を振って叫んだ。「少将殿を載せてってくれ!」

「もとより、そのつもりっスよ!」と、ザクセンが大声で返す。


 少将が梯子に足をかけて、ひょいと1段飛ばしで車上に飛び乗るのを見て、俺はホレーショーに声をかけた。「なぁ」

詰所に戻ろうとしていたホレーショーがくるりと振り返って、「どうしました?」と聞き返してくる。

この検問所(イーグル)の由来って、あるのか?」

「えぇ」ホレーショーがにこやかな表情を浮かべる。

「"イーグル(鳥の王)"が守ってくれるなら、心強いったらありゃしない。そういう()()でしょう?」

はは、と俺は声を漏らした。「願掛けか?」

「こんなご時世じゃァ、頼りたくもなるもんです」

そう言って、ホレーショーが小走りで、詰所へ戻って行った。

さてと。そう呟いて、俺も梯子に手をかけて車上に戻る。

「さて」車内からザクセンの声が響いてくる。「発進するッス、しっかり掴まってて下さい!」

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