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 誰もいない病院というのは、思っていた以上に不気味だった。時折、まるで海のように徐々に暗くなっていく廊下の向こうから、咳き込むような声が聞こえてくる。


 激しい咳の後に続く苦しげな呻き声に、啓介は粟立った腕を無意識にこすっていた。何の前触れも無く突如として唸りをあげた自動販売機のモーター音に、彼は小さく肩を跳ねさせる。


 待合室の椅子に座って、啓介は処置室を眺めては溜め息を繰り返す。暖房が効いているとはいえ、さすがに夜は冷え込む。カーテンの引かれていない窓際であれば、なおさらだ。


 処置室から父親と薬王木の声が漏れ聞こえていた。おかげで孤独感はなかったが、いたたまれない思いや、やりきれない思いが込み上げてきて、彼は握り締めた手のひらに力を込めていた。


 刑事が見ている目の前で、医師でも何でもない啓介が直人の処置に手を出すわけにはいかない。かと言って金銭の絡む複雑な話に、啓介の出番はない。


 その場にいても邪魔なだけだと誰に言われるまでもなく分かりきっている啓介は、早々にその場を後にした。


 今は父親の話が終わるのを待つ以外にすることもない。直人の傍にいようかとも思ったが、直人を見ていると確実に何かしら処置をしたくなってしまう。行き場のない思いが、胸のうちを駆け巡っていた。


「よお。飲むか?」


 ひたすら項垂れていた啓介の頭上から、聞き覚えのあるダミ声が降ってきた。視線を上げれば、目の前に缶コーヒーが差し出されていた。つい受け取ってしまう。触れてみると、アイスだった。


 何ともいえない表情で矢沢を見上げれば、全く同じ銘柄の缶コーヒーを飲んでいた。コートの端で包むようにして持っているのを見れば、あちらの缶コーヒーはホットだと分かる。


「いらねえ」


 ぶっきらぼうに言って、アイスコーヒーを突っ返す。笑いながら受け取った矢沢は、彼から少し離れた位置に腰掛けた。


「佐々木直人だったか? お前の友達、随分大変そうだな」


 コーヒーを飲みながら、矢沢は世間話でもするように言ってきた。


「おまけに母親がアレだ。まったく、何を考えてんだか」


 今現在、保護者抜きで直人の治療方針を話し合っている処置室の扉を眺め、矢沢は呆れたような口調で語る。その意見にだけは、啓介も同感だった。


「ここだけの話、直人くんの母ちゃんは今、幸せ真っ最中らしいぜ」


 突然何を言い出したのかと怪訝な顔で矢沢を振り向けば、彼はニヤリと意地悪そうに笑って見せた。自分が反応してしまうのを見越したかのような態度に、啓介は少なからず不快な思いを味わっていた。


「十歳年下の恋人と同棲を始めてちょうど一ヶ月だとか何とか。場合によっちゃあ結婚するんじゃねえのかな」


 啓介は自分の顔色が変わるのを自覚した。そんな彼を見やり、矢沢がいかにも驚いたと言わんばかりに瞠目する。


「息子の病気が無ければ、そろそろ再婚したっていい頃合いだ。長年、女手ひとつで育て上げてきた息子ももう十八。立派に仕事もしてる。自分の幸せをもう一回追求してもいいんじゃねえかって思ってもおかしくはないさ。だいたい、お前が怒る筋合いはねえだろう」


 啓介の方をチラリと見た矢沢は、どこか興味深そうな顔で自分を観察していた。気まずさと苛立ちが湧き上がり、啓介はただ視線を逸らす。


「まあ、それはともかく。ここだけの話のついでに余計なことを教えておいてやる」


「知りたくねえよ」


 吐き捨てるように言って、行く当てもないまま立ち上がった背中に、矢沢の変わらない口調の声がかけられた。


「知っとけ。佐々木直人の他にも不可解なハエウジ症に罹ったヤツが四人いる」


 啓介は思わず足を止めていた。


「最初が九月、次に十月。それから時間が空いて、今月に二件。確認できた話によると、体調を崩してから三日、だ」


 矢沢を振り返った啓介は息を呑む。次の言葉を聞くのが恐ろしくもあり、そうでないと確認するためにも聞いてみたいという思いが込み上げ、結果的に青白い顔で硬直していた。


「三日以内に、全員が死亡している」


 人を食ったような表情しかしない男だと思っていた矢沢が、その時ばかりは真剣な眼差しを注いでいた。さながら猛禽類のようなその双眸は、直視しているだけで冷や汗が流れ出す。


 理由のない恐怖を覚え、啓介は視線を逸らしていた。気取った言い方をするならば、ギリシャ神話の怪物メドゥーサと対峙してしまった哀れな人間。有り体に言うなら蛇に睨まれたカエル。今の啓介はまさしくそんな状態だった。


「薬王木の先生も知らない情報だがな。まあ、自分が他人より少しでも利口な人間だと信じたいなら誰にも言わないことだ。で、こっからが重要だ。耳の穴かっぽじってよく聞け。穴に虫は詰まってねえな?」


「シャレになってねえよ」


 自分の声が震えているのが分かった。そんな自分に驚いた後、啓介は唇を噛み締めた。


「このハエウジ症が自然に発症したモンだっていうなら、問題ない。あ、いや、問題がないわけはないが、少なくとも警察が動いたりはしない」


「……ちょっと待て、それって」


 顔色を変えて、啓介は矢沢に詰め寄っていった。慌てたように、矢沢は声を抑えるように指示してくる。


「現時点で疑われてんのは、お前のじいちゃんだ」


 啓介は目を見開いた。反論しようとして口を開いたところを、再び矢沢に黙らされた。


「じいちゃんの容疑を晴らしたいなら協力しろ。今後、お前のじいちゃんが連絡してきたら、俺に電話してこい。時間は何時になってもいい。言っておくがな、法律の専門家でも無けりゃあ、こういう事態が起きたときに頼りになる知り合いもいねえお前みたいな素人が下手に容疑者を庇うとロクな結果にはならねえぞ」


 怒鳴られたわけでもないのに身が竦む。その場から逃れたい一心で、啓介はひたすら頷いていた。ほんの数秒の後、矢沢の雰囲気が変わったのを気配で察した啓介は、ゆっくりと視線をあげる。


 何か言いたそうに口を開いた矢沢だったが、結局何も言わずに口を閉ざした。


「ケータイの番号だ。イタズラはするなよ」


 差し出された紙切れを無言で受け取る。頭の中が整理しきれないまま、啓介は踵を返して矢沢に背を向けた。


「じいちゃんは、犯罪者なんかじゃない」


 音にならないような小さな声で、彼は呟いた。


「証明してやる。それから、直人も絶対に死なせたりしない」


 一度だけ振り返った矢沢は、感情の読めない微妙な表情で啓介を眺めていた。



「容疑って何のことですか?」


 啓介の足音が消えてしばらくたったころ、今のやりとりをこっそり聞いていたらしい黒木が、艶めいた唇に苦笑を乗せながら姿を見せた。


「睦月教授はまだ容疑者ではないはずですが」


「嘘も方便ってヤツさ。ロクにニュースを見ない高校生に、被疑者と容疑者の区別なんかつくワケねえだろ。聞きなれた単語の方が信じ込ませるにはちょうどいいってだけさ。まさしく、藁をも掴む思いってやつだよ。何か動きがあればいいが」


 会話を録音されたわけでもなければ報道関係者にメモを取られたわけではない。そんなことを思い、矢沢は軽く笑った。


「啓介くんが教授をうまくせっついてくれるといいですね。人為的に寄生させられる、という話になれば、大きく事態が変わります」


 矢沢は曖昧な返事をして、腕組みをしながら空中を見上げた。


「鬼が出るか蛇が出るか、だな」


「出るのはウジだけですよ」


 その時、処置室のドアが開いて啓介の父親が姿を現した。どこか複雑な表情を浮かべ、薬王木に見送られるようにして出てきた彼は、矢沢たちに声をかけるより先に暗い廊下を見渡した。


「啓介くんなら、さっき先に帰りましたよ」


 黒木が気を利かして告げると、睦月は途端に申し訳なさそうな顔をして頭を下げた。


「失礼ながら、佐々木敏子さんから少しだけ事情は聞きました。息子さんの友人とは言え、他人の医療費を肩代わりされるとは、また勇気のある決断をされたものですね」


 心底、尊敬すると言わんばかりの口調で言ってみると、睦月は曖昧に笑った。


「……その話はまだどうなるか分かりません。インフォームド・コンセントをしたくとも肝心な時に保護者がいない。病状が病状なだけに先生の独断で治療を進めるわけにもいかない。困ったものです」


 その意見に関しては、同感だと思った。


「とりあえず、国内で認可されている寄生虫病の特効薬を使って様子を見つつ、今後の治療は保護者と相談する、と先生はおっしゃっていました。副作用も少ない、安全な薬だということで、何もしないよりはマシなはずだと」


 彼の言葉に、矢沢は複雑そうな顔で頷いてみせた。内心、様子を見るような時間があればいい、と思ったが、口には出さなかった。


「随分、息子さんを気にかけてらっしゃるんですね」


 では、私もこれで……と、睦月が言いかけたその瞬間、矢沢は話の接ぎ穂を無理やり挿入した。ほんの一瞬でさえ不快な表情を見せなかったのは、さすがだと矢沢は内心で嘆息する。


「一人息子さんですか?」


「いえ、上にもう一人いますが」


「そうなんですか。いや、てっきりそうだと。お父さんがとても大事にされているように見えましたので」


 そうでなければ息子の親友の治療費を実質的に肩代わりする相談に乗ったりすることはないだろう、と言外に含ませたつもりで、矢沢は処置室を見やる。


 ついでに言うなら、幼い子供ならばともかく高校生にもなった子供を「大事にする」というのはただ甘やかしているだけではないのかという含みもある。


「言い訳の仕様もありません」


 矢沢の言葉をどう受け取ったのかは定かではないが、睦月は特に眉間に皺を寄せることも無く、ただ困ったように笑っただけだった。


「啓介くんは、今おいくつですか」


「十八になりました。もうじき、高校を卒業します」


 睦月は軽く額を押さえ、その表情に疲労を滲ませながら答えた。息子の将来を案じていないわけではない、と矢沢は推測し、そこで敢えて口元に笑みを浮かべて見せた。


「素直ないい子ですよ、啓介くんは」


 矢沢に言われて、初めて睦月の表情が変わった。驚いたような、それでいてどこか嬉しそうな、そんな本音が一瞬だけ垣間見えた。


「何と言いますかね。長年、刑事をしていると、いろんなタイプの連中と顔を合わせる機会があるんですわ。いろいろすぎて一概には言えませんがね。で、当然その中には罰金だけじゃ済まされない罪状を言い渡される連中もいます。背伸びしすぎた若いヤツには、そう珍しい話じゃない。ただ、その時の反応は二種類に分かれるんですよ。不思議なことにね」


「二種類、ですか」


 睦月が話に乗ってきたのを確認し、矢沢は相手に極度な不安を植え付けないように笑顔を保ったまま言葉を続けた。


「そう、星の数ほどの犯罪者がいるっていうのに、その反応はたった二種類なんです。例えば……思いあまって人を刺したとしましょう。その直後、自分に与えられる刑罰のことを考えて恐れ慄くか、それとも人を刺したっていう事実そのものに恐れ慄くか。どうやら、人間は自分で期待しているほど複雑な生き物じゃあないようです。昔から言われている通りの反応ですよ。まさしく、罰を恐れるか罪を恐れるか。罰を恐れるやつはすぐに慣れる。だから再犯率も高い」


 父親ならば、矢沢以上に分かるはずだ。啓介のようなタイプは、確実に罪そのものを恐れる。矢沢から視線を逸らした睦月の表情は硬直したまま床をじっと見つめていた。


「付き合いがあるわけではないですから、普段の彼のことなど知りませんがね、少し話しただけでも分かることもありますよ。ああいう子は、ちゃんとした社会の中で生きていった方がいい。悪い道に逸れても、本人が傷つくだけです」


「それができるなら……」


 言いかけて、睦月は口をつぐんでしまった。その心情を察し、矢沢は小さく溜め息をつく。


「最近はいろいろと面倒ですよ。それこそ、私が子供のころは、何か悪さをしたらオヤジにガツンと一発殴られて小言を食らって終わりだった。今の時代に同じことをしたら、場合によっちゃあ児童虐待だなんだと通報されちまう」


 通報する方も善意ばかりの者ではない。近所付き合いがギスギスしている場合などは、たまにこういった手段で嫌がらせをすることがある。


 本当に保護が必要な児童の家を訪問した際には門前払いを食らってそれで終わるというのに、児童相談所の職員は通報された家庭に上がりこんで長々と事情を聞きだし、家族を不快にさせて帰っていくこともあると聞く。


「母親が教育熱心で神経質だったりした場合は、ちょっとした会話や態度にも、とにかく気を使わなきゃならないとか何とか。うちの署の若いのがボヤいてましたよ。そいつに言わせてみりゃあ家にいると監視されている気分になるそうです。職場じゃあ監視する立場にあるくせにね。リビングのドアを閉め忘れただけで烈火のごとく怒鳴り散らされるから気が抜けない、とか何とか」


 睦月は軽く笑った。


「確かに、子供との会話は気を使いますね。自分の家で自分の子供と話をするのが、どうしてこんなに疲れるんだろうと思ったことはあります。啓介の場合は、特に、その……いろいろと複雑で」


 言葉を濁した睦月に、矢沢はそれ以上を追求しなかった。語りたくないと相手が感じていることを無理に聞き出しても意味がない。それも、大して意味のない情報である場合はなおさらだ。


「他人がこういうことを言うのもどうかと思いますがね、睦月さんは立派に務めを果たされていると思いますよ。このご時勢に、あれだけの邸宅を構えてらっしゃる。それだけで、あなたがどういう方か、だいたい察しはつきます。啓介くんのことは、よほどの事情があるのだろう、ということもね」


 睦月は特に表情を変えない。思ったとおり、安易な褒め言葉に乗ってくるような単純なタイプというわけでもないらしい。


「いっそのこと、啓介くんを放り出してみたらいかがですか?」


 そう言われて、睦月は一瞬唖然とする。しかし、数秒後には苦笑の交じった笑い声をあげた。


「いや、冗談で言っているわけじゃあないですよ。正直、最近の親御さんは子供に構いすぎるっていう印象があるんです。親は良かれと思っているんでしょうがね、それが本当に子供のためになるかどうかと聞かれれば謎です」


 黒木に睨まれながら偉そうなことを言ってみると、睦月が微かに表情を強張らせたのが分かった。面の皮が厚いものほど、本心を言い当てられた時には何かしら不快気な反応を示すものだ。


「失礼な言い方になりますが、最近の若い連中を見てると井の中の蛙なんていう言葉が浮かんでくるんですよ」


「それはまあ、同感ですが」


 睦月は視線を逸らしながら口元に酷薄な笑みを浮かべる。どうやら思いあたる節はあるらしい。


「私の個人的な考え方ではありますが、本物の井の中の蛙ってヤツは自分がカエルだってことさえ知らない気がするんですよ。両親、祖父母から大事に大事に育てられたせいで、なんか勘違いしちまってるんでしょうね。まさしくオレ王国の王子サマですよ。冬に温かく夏に涼しい井戸の中で育った自称・王侯貴族が、世間っていう荒波に揉まれて無事に生きていけるんでしょうかね」


 途中まで笑いながら聞いていた睦月だったが、矢沢の言葉が終わるころには目の奥に剣呑な光を宿していた。


「あなたはまだ若いでしょう。働き盛りのその年じゃあ、本当に体がついていかなくなるっていう感覚はまだ分からないはずだ。だが、生きてる限り、あんたもいずれ六十代、七十代になっていく。人それぞれとは言え、退職した男の末路は哀しい話の方がよく耳に届く。今はあって当然のものが無くなったとき、あんたは自分の子供を今のように守ってやれるんですか」


「それは……」


「金の話じゃあないですよ。財産を残してやるつもりだとか、そんなことをしても金の使い方を知らなければ意味がない。こういう言い方をすると真面目なママさんたちから顰蹙を買っちまいそうですがね、親の役目は子供を守ることじゃあないと思うんですよ。小さな子であれば話は別ですが、自分の身の回りのことができる年頃になったら、今度は生きていく術を教えていってやるのが親の務めなんじゃあないかとね。守るではなく、育てる。親は、子供の顔色を窺ってはいけないんですよ」


 睦月は俯いて、微かな溜め息を零した。改めて矢沢を見つめるその目つきには、明らかな不快感が滲み出ている。


「息子が何かしらご迷惑をおかけしたようで、申し訳ございません。啓介には私の方からよく言っておきます。それでは」


 軽く頭を下げて、睦月は颯爽と二人の前から立ち去ってしまった。怒鳴り返されてもおかしくないようなことを言っただけに、睦月のその態度には感心していた。


「怒らせるようなことばっかり言ってましたが、どういうつもりですか?」


 廊下を歩み去っていくその足音が完全に消えたころ、黒木が遠慮がちに問いかけてきた。


「睦月教授に頼まれただろ? 孫をどうにかしてくれと。親に任せるのが一番だと思っただけだ」


「いっそのこと放り出してみたらどうかと言ってた人の言葉とは思えませんが」


 黒木に言われて、矢沢は渇いた笑い声をあげた。


「それは突っ込んじゃあいけねえところだ。突っ込みを入れるとしたら、あそこだよ。カエルの話が出ただろ? カエルの子はカエル。言い換えれば、カエルの親はカエルってことさ」


 黒木は納得したような表情で軽く頷いた。


「闇社会ってのは、しょせん人でなしの落ちる場所なのさ。言葉通り、人のままじゃあ渡っていけねえ。最近は一般企業の上役だの上司だの、そういった連中の方がヤクザよりよほどえげつないって言うがな、えげつないっていうだけで本物のヤクザとは違うよ、その本質ってヤツが。少なくとも、俺はそう思ってる」


 啓介の友人だという佐々木直人。その母親はヤクザのオンナ。矢沢は苦笑いを浮かべていた。


 警察官同士が殴り合いの喧嘩をすることなど日常茶飯事だし、デモ対策訓練などした日にはいつの間にやら味方同士で殴り合い、流血沙汰になっているなどという光景など、決して珍しくは無い。


 何のために命を張っているか、という根本的な心情が違うだけで、警察官とヤクザは本質的に似ているのだ。似ているからこそ、分かることもある。


 実際、ヤクザと同じくらい警察官は一般人に嫌われている。警察にあまり馴染みのない者にしてみれば、交通課も刑事課もみな同じ警察官である。よって交通違反で多額の罰金を支払わされた経験がある者であれば、むしろヤクザよりも警察官の方に敵愾心を抱いている傾向があるかもしれない。


 しかしながら、仮に一般人がヤクザと金銭関連のトラブルを起こし、警察に相談したとして、それを無事に解決に導いたとしても警察の株は決して上がらないのである。警察官の心情は、その懐と同様にいつだって寂しいのが実情だ。


「さて、あとは問題児がどう出るか、だな」


 矢沢はぽつりと呟いた。

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