5 マーベル夫人
いろいろと調べるうち、ハイディは自分と同じようにウィート伯爵によって愛する者を奪われた事実があることを知った。
密かに接触を試みることにし、まず近づいたのがマーベル子爵夫人だった。
マーベル夫人が参加するお茶会の招待状を手に入れ、顔見知りになったのち、徐々に距離を縮めていった。
非業の死を遂げたマーベル夫人の娘は、誰もがため息を漏らすほどの美人だったそうだ。
しかしマーベル子爵家には先代が残した莫大な借金があり、そこに目をつけた傲慢な商人の男に言い寄られた。マーベル夫人の娘は何度も断っていた。マーベル夫人も嫌悪を表し、夫にも進言して拒否の姿勢を貫いていた。
そんなとき、ウィート伯爵と相手の商人が懇意になる機会があった。
商人は伯爵に協力を仰ぎ、応じた伯爵は子爵家を訪れ、「商人と婚姻を結ぶことで得られる援助で子爵家を立て直すしか方法はなかろう」と主張し、「私がご令嬢と商人との仲を取り持とう、何も心配はいらない」と、にこやかに提案してきたのだ。
マーベル夫人にしてみれば、娘を売るような真似などできるわけがない。
断り続けるが、あろうことか伯爵はうぶな娘が素直になれないだけだと勝手に解釈し、商人に「令嬢は恥ずかしいらしい。もっと強引にいったほうがよかろう」と誤った後押しをした。
お墨付きを得たとばかりに、商人は強気に出る。
そしてある夜会でマーベル夫人の娘の純血を無理やり奪おうとしたが、娘が暴れたため、誤って殺してしまう。
そのことを知ったウィート伯爵は自分にかかる火の粉を恐れ、商人と口裏を合わせ、マーベル夫人の娘は事故死だと偽り事実を揉み消した。
「……どうあがいても、誰も取り合ってくれませんでした」
マーベル夫人は目に涙を溜めてそう言った。
ハイディとマーベル夫人が初めて胸のうちを語り合った日のことだ。
夫人の身を包む黒い喪服は、娘を守れなかった己への戒めだと聞いている。娘の無念を晴らせないまま、マーベル夫人の夫は病で亡くなってしまった。
「どれだけわたくしが真実を口にしようと、誰も彼も笑ってあしらうだけでした。こうしてお話を聞いてくださったばかりでなく、信じていただけるなんて……」
夫人は崩れ落ちるように膝をつき、嗚咽を漏らした。
それはまさにハイディの心情そのものだった。
ハイディは手始めに、マーベル夫人の娘を手にかけた悪質な商人にそれ相応の報いを受けさせることにした。
それとなく誹謗中傷の噂を広め、仕入れ先に手を回し、身動きが取れないようにしてから、自ら破産するよう仕向けた。
高位貴族のハイディにとって、一介の商人を潰すのは造作もないことだった。






