4 令嬢ハイディ
ウィート伯爵は、世間では誰もが尊敬する人格者で通っていた。
しかしその実態は、恐ろしいまでに自分の正義を振りかざす偽善者でしかなかった。
プライドが高く、虚言癖があり、自分の都合の良いように事実を曲解する。ときに達者な弁で他者を巻き込み、自分の正論で世間を欺く。
いくら真実の声を上げようとも、「ウィート伯爵がそんなまさか……」と世間は一笑して終わる。
そのことがハイディは悔しくて仕方なかった。
ハイディは侯爵家の息女という貴族としての高い身分に生まれたが、ハイディの母はそうではなかった。
弱小子爵家の出身で家格が不釣り合いにもかかわらず、母を愛した侯爵家嫡男の父は周囲の反対を押し切り、強引に婚姻を結んだ。
そのため姑は母をひどく疎んだ。暴言を吐き、親しい貴族夫人らを招いた茶会では、嫁である母から嫌がらせを受けていると涙を堪えながら吹聴し、母を貶めた。
そしてそれを助長させたのが、ウィート伯爵だった。
元々姑に恩があった伯爵は深い同情を示し、姑の味方をした。到底信じられないような嘘の話をさも真実のように社交界で語り、人々の好奇心を煽るよう故意に広めた。中には母が不貞を働いているという根の歯もない作り話まであった。
第三者であり、人格者としても知られるウィート伯爵が口にした話を誰もが真実だと受け止め、噂はまたたく間に広がった。
やがて心を壊したハイディの母は、崖から身を投げた。
しかしその事実は、公にも娘のハイディにさえも伏せられたため、母は不幸な転落死だったとハイディはずっと信じていたのだ。
それなのに──。
母の死の半年後、母の日記が見つかった。
何も知らなかったハイディは、それを読んでがく然とする。
母が置かれていた苦悩がそこには綴られていた。
急いで祖母に真実を問い詰めたところ、祖母はハイディの手から母の日記を奪い取り、燃え盛る暖炉の中へ投げ捨てた。
「そんな戯言を信じてはなりません! あの女は嘘つきなのです!」
必死の形相でそう叫ぶ祖母の態度がすべてを物語っていた。
それからハイディは何度も祖母に詰め寄り、罪の意識があるなら真実を語って母の汚名を晴らすべきだと訴えた。
しかしそれは叶うことなく、祖母は熱病であっけなくこの世を去ってしまう。
死に際でさえ、母への謝罪の言葉はなかった。
そのあとのことだ。
ハイディがウィート伯爵への復讐を固く決意したのは──。






