3 三人の集う者たち
首都のマイウスフェア地区にある、広大な敷地に建つ白亜の屋敷。
早咲きのバラが咲き誇る見事な庭園の一角、大理石でできた東屋に、その人物たちは密かに集っていた。
しわひとつない真っ白なテーブルクロスがかけられた丸いガーデンテーブルの上には、繊細なバラ模様が描かれたティーカップが三人分置かれている。
優雅なティータイムでも始まるかのように、カップからは淹れたての紅茶の上品な香りが漂っている。
「さっそく昨夜のことが載っていますわ」
淑女らしく優雅に腰かける貴族の若い令嬢が言った。
彼女は若いながらも、この屋敷の令嬢として客人を出迎えるにふさわしい品格を見せている。
絹の手袋越しの華奢な指先が、高級紙ザ・デイリー・タイラズの端をついと撫でる。
「ええ、大衆紙でもこんなに大きく書かれています」
そう言って自身が持参した大衆紙ザ・スターレイを広げてみせたのは、令嬢よりもいくつか年上の平民風の青年だった。
「本当にどこもかしこも、さすがは英雄だと賞賛しておりますわね……」
次いで口を開いたのは、喪服に身を包む貴族夫人。彼女は黒いレースのハンカチを目頭にやり、時折溢れ出る涙を拭っている。
「恐れながら、そちらの紙面を拝見してもよろしいでしょうか」
青年は高級紙に目をやりながら令嬢に尋ねる。自分の立場を理解している彼は、階級の異なる相手に対する慇懃な態度を崩さない。
「ええ、もちろんです」
令嬢は手のひらを見せ、青年を促す。
失礼いたしますと言って、青年は高級紙に手を伸ばして広げ、さっと一読したあとで読み上げ始めた。
「『ウィート伯爵は知人と会うためにホテルを訪れていた。同刻爆破予告があり、ホテルにいたレストラン客や宿泊客などは外へと避難したが、幼い子どもがいないことに気づいた母親がいた。彼女は子どもを探すためにホテルへ引き返そうとしたが、ウィート伯爵が引き留め、代わりに彼がホテルの中へと入っていった。
しばらくして、子どもはひとりで外へ出てきた。出てきた子どもに聞けば、ウィート伯爵が自分をここまで連れてきてくれたという。しかし出入り口のそばまで来たとき、なぜかウィート伯爵はひとりで来た道を引き返していった。
これは推測の域を出ないが、伯爵はほかにも残された客人に気づき、救出のために危険を承知で戻ったのではないだろうか。強い使命感を持つ伯爵であれば十分あり得ることだ──』、とありますね」
「ええ、世間的には英雄として華々しく散ったのです。ウィート伯爵も本望なはずですわ」
令嬢は喪服の夫人とその隣の青年、ふたりの表情を見やったあとで、小さく頷く。そしておもむろにすっと姿勢を正すと言った。
「ご協力感謝いたします。マーベル子爵夫人、ミスター・ヘイズ」
わずかに頭を垂れ、長いまつげに縁取られた瞳を恭しく下げた。
彼女は侯爵家の令嬢だ。
集まった三人の中で一番年下ながらも格上である若い彼女がとった礼に、子爵夫人である喪服姿のマーベル夫人と平民の青年ヘイズは慌てて首を横に振る。
「いいえ、ハイディさま」マーベル夫人が涙を浮かべて言う。「わたくしこそ、貴女に感謝を申し上げねばなりません。これで娘も少しは安らかに眠れますわ……」
それに深く同意するようにヘイズが胸に手を当て、深く頭を下げる。
「ハイディさま、私からも。父の汚名を晴らせただけでなく、父の仇まで打てたことを心より感謝申し上げます」
日頃から感情をあまり表に出さないヘイズですら、その目には込み上げるものが見てとれる。
ハイディと呼ばれた令嬢はふたりの顔を交互に見つめたあとで、胸の内を堪えるようにきゅっと唇を結ぶ。
「ええ、わたしの母もきっと……」
そう言って、まぶたを伏せた。
ここに集まった三人は、ウィート伯爵によって愛する者を奪われた人間だった。
マーベル子爵夫人は、娘を。
平民のヘイズは、父を。
そして、侯爵令嬢のハイディは母を死に追いやられた──。






