武器商人
コルバ郡主エッセンは出口へ向かって走っていた。
彼はもちろん、このコルバ郡主という肩書を捨てることなど、ましてや官憲に出頭する気なんて毛頭なかった。欲に任せて何でもあくどいことをやってきたこの男にとって、叩けば出るほこりなどいくらでもあるのだ。裁判にかけられれば死刑は免れない。
しかし郡都に戻れば、残してきた兵隊たちがいる。そいつらを率いて、天帝を名乗っていたペテン師諸共、あの場にいた人間を抹殺してやればいい。そうすれば自分を告発できる人間は誰もいなくなり、ついでにダンジョンの宝も手に入る。あれだけの宝があれば、エイダーム王国官僚への上納金に相当な額を充てられるだろう。その暁には、こんな田舎の領主じゃなくて、同じ国の官僚に取り立ててもらえるかもしれない。そのまま上り詰めて、いずれは大公、王女と婚姻ともなれば、私が次期国王。そしてすべてを牛耳ってやる。私だけの国を作るのだ。
ダンジョンの入り口が見えてきた。洞窟の暗がりを照らす日の光は、まさにこれからの自分にやってくる希望を象徴しているようだ。
そして洞窟から出た矢先、一人の痩せた男と鉢合わせた。赤紫色の山高帽子とスーツを羽織り、顎には細くて長いひげがカール上に巻かれている。
「おやあ、これは領主様。護衛もつけずに、どちらへ行かれるのですかねえ?」
「武器商人! 貴様ぁ……私をだましたな!?」
エッセンは顔を真っ赤にして武器商人と呼んだ男へ詰め寄った。
「はて、なんのことでしょうねえ」
「とぼけるな! 貴様が私に売りつけた魔道具、最後に出てきた上位種の魔物には何の役にも立たなかったではないか! 貴様の売りつけた武器の分だけの兵力があれば、ダンジョン攻略など容易だと、確かに貴様は言ったぞ!?」
「ああ、そういえばそんなことも言ったかもしれませんねえ」
武器商人は切れ長の目をにたりとゆがめる。
「嘘に決まっているでしょう。お前たちをダンジョンの糧とするためにそそのかしたのだから、本当に攻略されたら意味がありませんのでねえ」
「……!? 貴様、何のためにそんなことを――」
「でも結果はこのザマですねえ。所詮ゴブリンとはいえ、ロードともなれば相当強かったはずですが。どうやって攻略したんですかねえ?」
「ふん、それだったら急にやってきたおかしな奴らが倒したよ!」
武器商人の眉がぴくりと上がる。
「おかしな奴ら……? 詳しく教えていただきたいですねえ」
「話を逸らすな! そんなことはどうでもいい、貴様に支払った金は全額返してもらうぞ、それにせっかく集めた兵士を失った分の補償もだ!」
「ふふっ、おかしなことをいいますねえ」
「ああ? 何を言って――」
武器商人は領主の頭に手を載せた。
すると、領主の体が一瞬にして漆黒の炎で包まれた。
「ぎゃああああああああああああああああああああ!!!」
「地獄に金は持っていけませんよねえ」
領主の体はすぐに燃え尽き、灰だけが残った。
「ダンジョンを攻略した者のことは気になりますが、坊ちゃんに報告するのが先ですか……はあ、気が重いですねえ」
そして男の体は絞った雑巾のようにねじれたかと思うと、跡形もなくその場から消え、そのときに吹いた一陣の風によって、領主の灰は空に舞った。




