急転
バトルシーンは難しいという気持ちがよく分かった、バトルシーンでした。
ここから、シリアスが加速していきます。
「おお! 驚いた! オレっちたちが魔族って分かるんだ?」
「みぃんな、お前達は一体なんだ、だったのに、おっどろきぃ~」
キャラキャラ笑いながら、目の前の魔族は、わざとらしく驚いてみせる。
「――……なぜ、魔族がこんな所にいる。まだ、国は落ちていないはずだ」
二人を睨み付け、アレクが絞り出すような声を出した。
剣を持つ手が震えている。
「さぁて、なんでだろうねぇ?」
女の魔族は、そんなアレクの反応を面白がるように、小馬鹿にしたような態度しか見せない。
「でも、んー、キミも悪くないけど、アタシはあっちの男の子の方が好みだなぁ。――って、アレ?」
女の魔族が目を向けたのは、暁斗だった。
目を向けられた暁斗は、身体がビクッとする。
(何なんだよ。これが、魔族? ――人と、変わんないじゃん)
歯がガチガチと音を立てる。聖剣を持つ手が震える。
こんなのと戦わなければいけないのか。
(……ムリ。そんなこと、できるはずない)
だって、相手は人だ。
そして、暁斗のすぐ近くにいた泰基もまた、魔族の姿を見て、血の気が引くのを感じていた。
「ねぇねぇ、ポール? 黒髪に黒目、それにあの剣って、例の聖剣とかいう奴じゃなぁい?」
「……おお、確かにそれっぽいな。へぇ、じゃあ、あんたら冒険者とかじゃなくて、もしかして勇者様ご一行とか? 面白ぇじゃん」
二人の視線を浴びて、さらに暁斗の震えがひどくなる。
「アハハ。震えちゃって、かーわいいの。安心して? このパールちゃんが、優しくしてあげるからね。――《炎の槍》!」
何の脈絡もなく放たれた魔法に、誰も動けなかった。
「《防御》!」
しかし、ただ一人、リィカだけが動いて、暁斗を魔法から守った。
《防御》と《炎の槍》は、ぶつかって双方ともその威力が消滅する。
リィカは、そのまま魔族から守るように暁斗の前に立った。
「なぁに? あんたはポールの相手してりゃいいんだけど。邪魔しないで」
「パールさん、と言いましたっけ?」
リィカは、不敵に笑ってみせた。
「わたしが誰の相手をするかは、わたしが決める。女同士、とことんやり合いましょうよ」
「イイコト教えてあげる。――アタシね、あんたみたいな生意気な女、大っ嫌いなの」
正面から突っ込んできたパールを、リィカは迎え撃った。
※ ※ ※
「あちゃあ。可愛い子ちゃん、パールに取られちゃったか。残念」
そんな残念そうな様子もなく、あっけらかんと言うポールを、アレクたちは睨み付ける。
「でも、勇者が意外だなあ。魔国にある勇者の話って、大体おっかない話ばっかだけどなぁ」
暁斗は身体の震えが止まっていなく、泰基も顔面蒼白だ。
そんな二人を目の端で捕らえて、アレクは小さく指示を出す。
「(ユーリ。お前は、二人を頼む)」
「(分かりました)」
「(バル。お前は俺と一緒に、こいつを片付けるぞ)」
「(……リィカは、いいのか)」
「(持ちこたえられると信じるさ。さっさとこっちを片付けて、助けに行くぞ)」
バルがうなずくのを見て、改めて魔族を睨み付ける。
「お、相談終わり? オレっちって優しいだろ? ちゃんと待っててやったんだぜ?」
「――優しいついでに、何でこんなところにいるのか、教えてくれると有り難いんだが?」
「アッハッハ。懲りないねぇ。――ニンゲンは、オレっちたちが真っ正面からしか攻めてこない、と信じてるんだからさ」
その言葉に、アレクも、バルも、ユーリも、その表情を険しくさせる。
少なくとも、今までは真っ正面からしか攻めてこなかったはずだ。
だが、もし、そうでないのなら。
――世界中に、すでに魔族が潜り込んでいるのか。
※ ※ ※
「【隼一閃】!」
戦いの火蓋を切ったのは、アレクの剣技だった。
だが、高速で迫る三日月型の斬撃を、ポールは、右手だけで受け止めた。
「…………なっ!」
「へぇ。いいねぇ、あんた。これ、ニンゲンが使う剣技だかってヤツだろ? 他のヤツが使ったのは、ただのそよ風だったけど、ちゃんとあんたのは痛かった……ぜ?」
最後の言葉と一緒に、地面を蹴り、一気にアレクとの距離を詰める。
繰り出されるパンチを慌ててかわす。と、今度は左足で強力な蹴り技が飛んできて、後ろに飛んで、距離を置く。
「……格闘技?」
そういうものがある、ということは知っていても、実際に見たのは初めてだった。
周りにいたのは、剣を使う人たちばかりだった。
「躱してばっかじゃ、勝負になんねぇぜ!」
もう一度突っ込んでくるポールの前に、バルが立ちはだかる。
「――ハン! 今度はあんたが相手ってか?」
繰り出された拳を、バルは剣で上から切り下ろそうとして……、
ガキ!
まるで固い石に切りつけたかのような感触に、眉をひそめる。
見れば、剣が当たったはずの腕には、傷一つ付いていない。
「……どういうことだ」
「さあ? どういうことでしょう?」
思わずつぶやいたバルに、ポールが返すのは小馬鹿にした物言いだ。
――その時。
「『風よ。剣に纏い、宿りて、その力を示せ』――《風の付与》!」
アレクが、エンチャントを唱えた。横から斬りかかる。
慌ててポールが躱そうとしたが、アレクの方が早かった。脇腹を少し切り裂く。
「……くそ!」
「『水よ。剣に纏い、宿りて、その力を示せ』――」
バルも同じく、エンチャントを唱える。
詠唱中、バルに攻撃をしかけようとしたポールを、アレクが遮り、袈裟切りにする。
「《水の付与》!」
ギリギリで躱されたが、バルの詠唱が終了した。
水のエンチャントは、水で質量が増し、さらに鋭さをアップさせる。
「俺たちを舐めているから、魔法詠唱される余裕なんて与えるんだよ!」
アレクが斬りかかる。
受け止めようと出された右腕を、肘から切り落とす。
「ぅぎゃああああああああああああああああ!」
悲鳴を上げながら距離を取ろうとするポールに、バルが追撃し、袈裟懸けに切り付ける。
「……………ぁ……?」
自分の身体から流れる出血を信じられないように見つめながら、ポールは絶命した。
「「ふうぅぅ」」
アレクとバルは、そろって息を吐き出した。
剣で切れない相手には、剣技よりも、エンチャントで鋭さをアップさせて、攻撃した方がダメージが通る。
冒険者時代、魔物相手に何回かやったことがあるからこそ、すぐにその手段を選ぶことができた。
「よし。後はリィカを……」
「待て、アレク。リィカもだが、アキト達もいねぇぞ」
慌てて周りを見れば、暁斗も泰基も、二人についているはずのユーリも、そこにいない。
リィカは、戦いながら場所を移動していっただけか?
戦いに集中していて、全く気付かなかった。
(どこに行った)
アレクが気配を探せば、すぐに見つかった。
「森の方だ。行くぞ!」
二人は駆け出した。




