表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第一章改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/679

36.ユーリッヒ

小さい頃から、大抵のことはできた。

豊富な魔力量を持っていて、魔法を使うことも簡単だった。


自分はきちんとできている。

それなのに、魔法を使っていると、父に注意をされることが多かった。

それが、不満だった。




「あれ? 何でユーリ様、教会に出てるんですか?」


そう言われて顔を上げると、そこにいたのは、僕の婚約者のエレーナ・フォン・サロモンでした。

魔王討伐の旅の出発まであと少し。会いに行こうと思っていたのですが。


「なぜエレーナがここにいるんですか? 僕、サロモン男爵家に訪問の連絡、しておいたと思いますけど」


「はい、連絡ありましたよ? でも、ユーリ様お忙しいだろうから、だったら私が来ちゃえって思って、来ちゃったんですけど。なんで普通にお仕事してるんですか」


それには答えず、まさに魔法治療中の人の状態を確認。終わったことを伝えます。

教会では、お布施をもらうことで、怪我や病気などの治療を引き受けています。僕は、その対応をしていた所でした。


「しばらくやってませんでしたから、ちょっとした気分転換です。――それよりもすいません、エレーナ。もっと早くに伺うべきでした」

「いいですよ、別に」

そういってエレーナはニカッと笑いました。




エレーナは、教会の祝福を受けた女神官です。

家族が怪我をした時に、自分で治したい、と祝福を受けました。


祝福は無料ですけど、怪我の治療はお金が掛かってしまいます。

逆に言うと、自分が治療を施せば、その分収入になるので、お金を稼ぐ手段の一つでもあります。

サロモン男爵家は、それほど裕福ではないそうなので、良い収入源だそうです。




父様は、僕に神官と婚約させたいとよく言っていました。

おそらく、色々探していたんでしょうけど、その前に僕が、彼女の飾らない態度が嬉しくて、婚約者にと望みました。

何か言われるかと思いましたが、相手が神官であれば問題ない、という言い方で、婚約を許してくれました。




「ねえユーリ様。旅から帰ってきたら、おいしい食べ物がどこにあるか、教えて下さいね」

「……僕が何しに行くのか、分かってます?」

「各国の、おいしいもの食べ放題旅行!」


食べるのが好きなエレーナらしい言葉ではありますが、流石に呆れてもいいでしょうか。


「……まあ、余裕があれば、気にしておきますよ」

「絶対ですよ? 約束ですよ? ……破ったら、泣きますから」

その言葉に、ようやく分かりました。要するに、心配してくれていたんですね。


「分かりました。……約束します」

そう言うと、顔がパッと明るくなります。


「あ、でも。ユーリ様、一緒に旅する人の中に、すごく可愛い子がいるって聞いたんですけど。……浮気、しないで下さいね」

「しませんよ」

エレーナもそうですが、アレクにも睨まれる未来しか思い浮かびません。


「……旅、怖くないですか」

「そうですね。怖いと言えば、怖いですかね?」

「それでも、行くんですか?」

「ええ、もちろん」

「……分かった」


聞かれるままに答えていたら、不意に声が暗くなりました。


「エレーナ?」

「……泣いて困らせる前に帰ります。ユーリ様、約束忘れちゃ駄目ですよ!」


それだけ言い放つと、僕が何か言う前に、走り去っていきました。




「ユーリ」

後ろから声を掛けられると、いたのは父様でした。


「……追い掛けていった方がいいんでしょうか」

「必要ないと思いますよ。自分の気持ちは、自分でしか決着をつけられませんからね」

父様らしい言葉です。魔法で心は治せない、とよく言っています。


「ユーリは、決着ついているんですか? 旅が怖い、とは初めて聞きましたよ」

「大丈夫です。問題ありません」

笑って、そう答えました。




アレクとバルが冒険者をやっている、と聞いた時、そこに自分も便乗させてもらいました。


思い出すのは、ワイルドボアと対峙した時。

たった一発の攻撃を受けただけで、結界がボロボロになりました。


しかも自分はそのことに気付けずに、アレクとバルを危険に晒すことになってしまった事がありました。


それまで、自分の魔法に自信がありました。

その自信を粉々に打ち砕かれて、悔しくて、もう一度勉強し直して。そうしたら、それまで自分がどれだけ適当に魔法を使っていたのかを、思い知らされました。


そうして、本気で魔法に取り組んでいったら、いつしか、父様から注意を受けることもなくなっていました。




「ユーリ。これを持って行きなさい」

そう言われて、差し出されたものを見て、驚きました。


「マジックポーションですか!? しかも、三本も!?」

一本手に入れるのでさえ大変なものを、こんなに?


「もったいなくて、なかなか使えなかったんですが、幸いでした。一本は、新たに手に入れましたが、二本は昔手に入れたものですよ。――持って行きなさい。あって困るものではないでしょう?」


「……ありがとうございます」

恐る恐る受け取るのを、父様は笑って見守っています。


「行ってきなさい、ユーリ。――大切な友達を、守りたいのでしょう? マジックポーションは、その役に立てなさい」

「はい」




アレクとバルを、危険に晒してしまった自分が許せませんでした。

だから、必死に強くなりました。

無茶しがちな二人を、守るために。




「行ってきます。――父様」


今度は絶対に、失敗しません。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ