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【改稿中】転生したヒロインと、人と魔の物語 ~召喚された勇者は前世の夫と息子でした~  作者: 田尾風香
第一章 魔王の誕生と、旅立ちまでのそれぞれ

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剣技

 暁斗は騎士団長と向かい合った。

 ちなみに、剣は木剣で勘弁してもらった。いつかは覚悟を決めなければならないが、もう少し待ってほしいというのが本音だ。


 そして中段に構えたのだが。


(これダメだ)


 暁斗は速攻で白旗を揚げた。

 昨日のアレクとは比べものにならない。いや、あれが運動じゃなければ、アレクもきっとこうだったはず。


 威圧がすごい。呼吸を整えて何とか動こうとするものの、金縛りにあったみたいに体がまったく動かない。何もできず、ただ相手の剣が振り下ろされるのを待つだけ。


「――ふんっ」


 だが、そんな暁斗に騎士団長が楽しそうに笑った。その瞬間、それまで感じていた威圧が弱くなる。


「こんくらいなら動けるか?」


 からかうように言われて、暁斗はムッとした。確かに動けるが、完全に手玉に取られているようなのが、腹立たしい。無言のまま、思い切り打ちに行った。



 ――そして。


「つよいなぁ……」


 ムキになる間もなく叩きのめされて、暁斗は地面に転がった。さすが異世界だと思う。なぜ異世界転移した主人公たちは、ゲーム感覚でいられたんだろうか。これが現実だと分かっていなかったわけではないが、早々に夢が壊された気分だ。


「そりゃそうだろ。これでも俺の剣の腕は、この国のトップレベルだぞ? Dランクがどうだとか言ってる奴が敵うわけねぇ」


 騎士団長に笑われても、差がありすぎて悔しいとも思えない。まったくその通りで、手も足も出ない。これがトップレベルかと思う。


「アレクとかバルもそんなこと言ってたけど、どっちが強いんですか?」

「ヤなこと聞くんじゃねぇ。――今んとこは互角だよ。そのうち追い越されると思ってっけどな」


 顔をしかめつつも答えてくれた。


(互角かぁ。じゃあ昨日は本当に、オレの運動に付き合ってくれたんだ)


 昨日のアレクとの打ち合い。無理矢理終わらせようと思えば、いくらでもできたはず。しかしアレクはそれをせずに、暁斗が満足するまで相手をしてくれたのだ。



「アキト殿、剣の講義始めるぞ。そのままでいいから聞いてろ」

「は、はい」


 真面目に言われて体を起こす。そのままでいいと言われても、さすがにそれはできない。


「いいっつったのに。まぁいいか。――剣で攻撃するに当たって、攻撃方法が三つある」

「三つ?」

「ああ。一つは普通に剣を振るう方法。二つ目は、魔法を剣に纏わせてから剣を振るう方法だ」

「魔法っ!?」


 暁斗が身を乗り出した。アレクやバルがあまり使わないと言っていたので、期待してなかったのだ。だがいきなり話が出て、暁斗の期待度が一気に上がる。


「おう。付与魔法、エンチャントっていってな、それを使うと……いや、実際に見てもらった方が早ぇな。アレク、バル、いるだけじゃ暇だろうからやれ」

「いや、暇って……」

「諦めろ、アレク。親父に文句言ったって、聞いてもらえるわけねぇよ」


 話を振られたアレクとバルは、文句を言いつつ立ち上がる。そして二人が抜いた剣は、当たり前だが本物の剣だった。


「『風よ。剣にまとい、宿りて、その力を示せ』――《風の付与ウインド・エンチャント》」

「『土よ。剣に纏い、宿りて、その力を示せ』――《土の付与(アース・エンチャント)》」

「うわぁ、すごい……!」


 二人が詠唱し、魔法を唱える。その結果に暁斗は感嘆の声をあげた。アレクの剣の周りには風が渦巻き、バルの剣は土で剣の厚みと長さが増している。


「これがエンチャントだ。魔法だから、発動できるのは自分が持つ属性だけだが。そういや、アキト殿はどの属性を持ってんだ?」

「え? えっと、四つ」

「四つだぁっ!?」


 騎士団長が声をあげて、もう一人知らなかったバルも驚いた顔をしている。


「……全部じゃねぇか。マジか」

「残念ながら本当だ」


 そのバルのつぶやきに、アレクが返す。

 属性を二つ持つ者は多い。だが、三つとなるとその数は激減し、四つ全部持つ者は数えるほどしかいないとされている。リィカがその四つ持ちであるだけでも驚きなのに、暁斗もそうなのだ。驚くなという方が無理だ。


 騎士団長は、バルより一足早く驚きから立ち直り、大きく息を吐いた。


「……さすが勇者様ってことか? 属性ごとにエンチャントの特徴も違うから、状況に応じて使い分けできるってのはいいことだ」


 風は鋭さと早さが増す。土は質量が増して、切るというよりは殴る感じになる。そうした特徴を、まずは理解することが必要となる。


「難しそう……」

「そう言うなって。やってりゃ慣れてくる」


 そうだといいなと思う。持っている属性が多いというのは、考えることも増えるということなのかもしれない。


「ただし、魔法を使うには詠唱が必要だ。――って、この後レイズクルスから魔法を習うんだっけか? まぁいいや。相手と剣をやり合ってるときに詠唱するってのは、キツイっつうか無理だ。だから、使える場面は結構限られる」

「えー……」


 暁斗は不満そうにする。だからアレクやバルはあまり使わないのかと理解したが、どうせならバンバン魔法を使いたい。


「詠唱しないと使えないんですか?」

「ああ。魔法ってのは、詠唱して魔法名を唱えて初めて発動する」

「……そっかぁ」


 この世界では詠唱必須なのかと、暁斗は少し落ち込む。アニメなんかでの詠唱場面をカッコイイと思ったことはある。しかし、あれはアニメだからいいのであって、実戦の場でいちいち詠唱するのは面倒だと思う。


「ま、でも詠唱しねぇで魔法を使う奴もいるらしいけどな」

「えっ、そうなのっ!?」


 必須なのかと思った矢先の、騎士団長の言葉だ。できるならやりたい。そう思って騎士団長を凝視すると、笑いながらその視線がアレクたちへと向かう。


「旅に誘ってるリィカって子がそうだろ?」

「……実際に見ても、信じられないけどな」


 アレクが大きく息を吐いたのを見て、暁斗は不思議に思う。


「そんなに信じられないこと?」

「ああ。普通に考えたらあり得ない。だが魔物と戦うのに、詠唱が必要ないのは頼もしいけどな」


 そりゃそうだよなぁと暁斗は思う。先ほどのような詠唱を、いちいちしてたら大変だ。


「やれるんならやってみたいなぁ」

「そう思うのは自由だがな。――ただアキト殿、それをレイズクルスに対して、絶対に言うなよ」

「なんで?」


 聞くなら、魔法を教えてくれるというレイズクルスだと思ったのだ。嫌な人ではあるが、自分から教師を名乗り出たわけだし、聞けば教えてくれるだろうと思ったのだが。


「詠唱しないなんてとんでもない、と怒り出すからさ」

「……?」


 何のことか分からない。だが、騎士団長は曖昧に笑った。


「色々教えてもいいんだが、あんまりやると後でうるさくなりそうだから、勘弁してくれ。詠唱なしで魔法を使いたいと言わなきゃ、それでいい」

「……分かりました」


 色々あるのかと思うと、ますます面倒になる。そうでなくてもレイズクルスに教わるのが憂鬱なのだ。他に誰か教えてくれないかなぁと思ってしまう。


「――で、話を戻すぞ」


 騎士団長の声に、とりあえず暁斗も意識を戻す。


「三つ目の攻撃方法が、剣技を使っての攻撃だ」

「剣技っ!」


 それも魔法と同様に、なかなかに心が躍る言葉だ。


「かなり昔に召喚された勇者様が編み出したと言われる方法だ。剣なのに魔法みてぇな力を発揮する。しかも、こっちは詠唱も必要ねぇしな。使い勝手はエンチャントよりよっぽどいいから、こっちの方が断然使う機会が多い」


 暁斗は首を傾げた。


「そんなのがあるなら、エンチャントっていらない気がする」


「剣技は一度放つと終わりだが、エンチャントは発動させればしばらく効果が続く。だから状況によっては、エンチャントの方がいいこともあるんだ。つまりは、その場に合わせて使い分けろって話だ」


「うわぁ……」


 暁斗は顔をしかめた。エンチャントの魔法だけの判断だけではなく、そこに剣技も加わる。考えなければならないことが多すぎる気がする。本当に、異世界だ勇者だと浮かれてる場合じゃない。


「剣技も使うときに魔力が必要だから、自分の持っている属性の剣技しか使えねぇ。つまりは、アキト殿はどの属性でも使えるってことだな」


 ニヤリと笑われて、暁斗は泣きたくなった。それはつまり、考えることが増えるということだ。


「悲観的な顔すんじゃねぇって。剣技はそんな複雑じゃねぇ。どの属性であっても、剣技は同じタイプの四種類だ。名前は違うがな」

「……?」


 どういうことだと思った暁斗に、騎士団長が説明した。



 一つ目。

 剣を左から右に横に薙ぎ払って発動。三日月型の弧を描く衝撃波を発生させて、遠方の敵に攻撃できる。早さのある剣技だ。


 二つ目。

 剣を上から下に切り落とし、縦に長い衝撃波を複数発生させることができる。これも遠方の敵へ攻撃できる。


 三つ目。

 直接相手へ攻撃する、近距離で発動する剣技。命中した瞬間に、爆発的な威力が発生して攻撃する。


 四つ目。

 剣で突きをするときに使う剣技。近距離で発動するが、三つ目の剣技よりは発動距離はやや長め。命中した瞬間の攻撃の威力が上がる。



 この四つを、騎士団長が解説しながらアレクやバルが実演して見せてくれる。どの属性の剣技もこの四種類だから、確かにそんなに複雑ではない。ただ、早さのある剣技を風属性で発動するとさらに早くなる、などの特徴があるくらいだ。


 暁斗はほんの少し安心する。その一方で、剣技の名前が気になった。あまり異世界っぽくないからだ。


「剣技を編み出した勇者が考えた名前だからじゃねぇか?」


 暁斗が口にした疑問に、騎士団長がそう答える。

 勇者が故郷の言葉で付けた技名を、そのまま使っている。当然、勇者の故郷の言葉など読めないから、この世界の文字に書き直しているそうだが、勇者が書いたものを書き写したものならあるとのことで、見せてもらった。


(あ、やっぱり日本人?)


 その紙に書かれていたのは漢字の羅列。そして、丁寧に読み仮名をひらがなで振ってある。日本語が達者な外国人という可能性もあるが、少なくとも地球の人であることは確かなようだ。


「なんでも、全部の技名に動物の名前が入ってるって話だな」

「……あ、確かにそうかも」


 動物というか、生き物全般の名前がそれぞれ入っている。これを考えた人は中二病だ、と思ったらおかしくなり……、そこでふと疑問を覚えた。


(かなり昔の勇者なんだよね? そんな昔の人が、こんな名前を考えるのかな?)


 うーんと考えたが答えが出るはずもなく、後で泰基に話してみようと思う。


「これで講義は終了だ。あとはとにかく剣を振ってくぞ。アキト殿、構えろ」

「は、はいっ!」


 弾けたように暁斗は立ち上がる。木剣を構えて、そして容赦なく打ち負かされたのだった。


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