25.暁斗②
これまでちょいちょい出してきた、剣技の説明が入っています。
とはいっても、上手く説明ができた気がしませんが、雰囲気を何となく感じてもらえればと思います。
朝食を食べ終われば、魔力量と適性を見るということで、移動。
水晶に、ただ手を置けばいいらしい。その辺はありがちな設定だ。
神官長さんが見てくれるそうだ。
緊張しながら手を置くけど、水晶に変化はない。あれ、と思っていると、神官長さんから手を離していい、と言われた。
「アキト様は、火・水・風・土の四元素、どれも使えますね」
魔力量も多め。神官長さんと同じくらい、と言われた。
あのレイズクルスよりは少ないけれど、アレクやバルと比べれば、ずっと多いらしい。
父さんも同じように水晶に手を置くと、神官長さんの顔がちょっと驚いた。
属性が一つ、水だけ。しかし、魔力量はレイズクルスよりも多いらしい。
魔力量が多いと最低でも二つの属性は持っているから、逆に一つしかないのは珍しいと言っていた。
それが終われば、今度は剣の稽古だ。
――緊張してきた。
ちなみに、父さんはこの時点で分かれて、癌の治療に入った。
ユーリもそっちに行っている。アレクとバルは、オレと一緒だ。
「んじゃ、改めて、ラインハルト・フォン・ミラーだ。よろしくな。勇者様」
そう挨拶された。……確か、バルの父親だ。
「よろしくお願いします。――それで、あの、勇者様じゃなくて、暁斗って呼んで欲しいです」
「そうか……? じゃ、さすがに呼び捨てってわけにいかねぇから、アキト殿で勘弁してくれ」
「……分かりました。それでいいです」
呼び捨てはダメなのか。ああ、でも考えてみれば、あのレイズクルスにも教わる訳で、あいつに呼び捨てされたら腹が立ちそうだ。
「そんで、昨日アレクとやり合ったんだろ? どうだった?」
その話、知ってるんだ。どうだ、と言われても。
「……やり合ったって言えるレベルじゃなかったと思いますけど」
アレクが本気だったら、オレは一撃で終わってたと思う。
「そうか。じゃ、アレク、お前は?」
「いや、だから別に実力を見ようとしたわけじゃないって言っただろう」
「それでも、分かんだろ?」
そう言われてアレクは困ったような顔をして、
「……どのくらいって言っていいのかが分からない。打ち合っている時に思ったのは、兄上の数百倍は強いな、だけど」
「アークを基準にするな。何の参考にもならん。魔物の強さで計ってみろ。どのくらいの相手に通じそうだ?」
アレクは少し考える様子を見せた。
「多分、ゴブリンと一対一なら、余裕で勝てる。ただ、おそらく一対多数の戦いには慣れてなさそうだから、群れで来られるときついだろうな。
Dランク相手でも、一対一ならきちんと対策して当たれば、勝てると思う」
ゴブリンって……、あのよく小説とかで出てくるゴブリン?
大体、弱い分類に入る魔物だよね? そっか。それには勝てそうなんだ。
「……でも何で、一対多数の戦いに慣れてない、って分かるの?」
「何となくだけどな。全く周囲を警戒していない、とか、少しでも視界から外れると対処できていない、とか、そんな所から、そうじゃないかと思ったんだが」
「ほう。ちゃんと見れてんだな。そうやって評価すりゃぁいいんだよ」
騎士団長さんは満足そうだ。
これ、もしかしてオレじゃなくて、アレクへのテストだった?
アレクもそう思ったのか、表情が強張ってた。
「よし。どっちにしてもアキト殿の直接腕前は見させてもらうからな。まぁでもアレクの評価を聞いて安心したぜ」
「……あ、やっぱり直接見るんですね」
やるしかないよね。少なくともガッカリされるレベルではなかったことにホッとした。
そして、騎士団長さんと向かい合った。
真剣でやろうと言われたが、使ったことないと言って、今日の所は木剣で勘弁してもらった。
それにしても。
(――すごい、威圧……)
中段に剣を構えながら、そんなことを思う。
きっと、昨日のアレクも、あれがただの運動なんかじゃなかったら、こうだったんじゃないかと思う。
呼吸を整えて、動こうとするけれど、金縛りにあったみたいに、まったく身体が動いてくれない。
「――ふんっ」
そんなオレを見てどう思ったのか、騎士団長さんは面白そうに笑うと、フッと威圧が弱くなった。
「――こんくらいなら、動けるか?」
からかうようにそう言われて、ムカッときた。
無言で、思い切り打ちに行った。
「――……つよい……なぁ……」
昨日みたいにムキになる余裕もなく、ただ純粋にそう思いながら、地面に寝っ転がった。
「そりゃそうだろ。これでも、俺の剣の腕はトップレベルだぞ? Dランクがどうだと言ってる奴が敵う訳ねぇ」
トップレベルと聞いて思い出した。確か、アレクもバルもそんな事を言われていた。
「……アレクとどっちが強いんですか?」
「ヤなこと聞くな、お前。……今んとこ互角だよ。そう経たないうちに追い越されると思ってっけどな」
「……互角」
つまり、昨日は本当にオレの運動に付き合ってくれていただけか。
ムリヤリ終わらそうと思えばできたのに、わざわざ最後まで付き合ってくれてたんだ。
「アキト殿、剣の講義始めるぞ。そのままでいいから聞いてろ」
「え、あ、はい」
いきなり真面目にそう言われて、身体を起こす。さすがに寝たままで聞くのは失礼すぎる。
「――そのままでいいっつっただろうに。まあいい。剣で攻撃するに当たっては、主に三つの方法がある」
「……三つ? どういうことですか?」
「まず一つは、普通に剣を振るう方法。二つ目は、魔法を剣に纏わせてから剣を振るう方法」
「……魔法!?」
オレは思わず身を乗り出した。昨日、アレク達が魔法はあまり使わないと言っていたから、そんな期待はしていなかったんだけど。
「おう。付与魔法……エンチャントって言ってな。それを使うと……実際に見てもらった方がいいか。アレク、バル、そこにいるだけじゃ暇だろ。やれ」
「いや、暇って……」
「諦めろ、アレク。親父に文句言ったって聞いてもらえるわけねぇよ」
そんな事をつぶやきながら、二人とも剣を抜いた。
当たり前だけど、木剣じゃない。ホンモノの剣だ。
「『風よ。剣に纏い、宿りて、その力を示せ』――《風の付与》」
「『土よ。剣に纏い、宿りて、その力を示せ』――《土の付与》」
「うわぁ、すごい……!」
オレは思わず声を上げた。
アレクの剣の周りには、風が渦巻いていて、バルの剣は、土で剣の厚みと長さが増している。
「これが、エンチャントだ。自分が持ってる魔法属性のエンチャントしかできねぇが、アキト殿は四つ全部もってっから、好きに使える」
風なら鋭さと速さが増すし、土は質量が増して、切ると言うより殴る感じになるらしい。状況に応じて使い分けできれば、すごいと思う。
「ただし、魔法を使うには必ず詠唱をしなきゃなんねぇ。――って、この後レイズクルスから魔法習うんだっけ? まあいいや。
相手と切り結びながら詠唱して魔法を唱えるってのは、かなりキツい。だから、使える場面は結構限られる」
「詠唱しないと使えないんですか?」
「それが常識だな。詠唱して魔法名を唱えて使う。それが魔法だ」
それはめんどくさい。
小説とかじゃ、人によっての好みだったり、練習すれば詠唱なしで使えるようになったりするものもあるけど、ここでは詠唱が必須なのか。
「――とはいっても、最近無詠唱で魔法を使う奴が現れたらしいがな」
「……えっ?」
できるの? と思ったら、騎士団長さんがアレクとバルを見てる。
「……リィカが、無詠唱で魔法を使うんだ」
「……実際に見ても信じられなかったな」
アレクとバルがそうぼやいた。
リィカって、一緒に行きたいって言ってた人だよね?
「無詠唱使うのって、もしかしてその人だけなの?」
「「ああ」」
二人の声がそろった。でも、できるんだったら、オレも挑戦してみたい。
騎士団長さんが、ゴホン、と咳払いして、
「話が逸れたから、元に戻すぞ。とにかく、エンチャントが二つ目の方法。そして、三つ目が、剣技を使う事だ」
「剣技……!」
それもなかなかに心躍る言葉だ。
「かなり昔に召喚された勇者様が編み出したと言われる方法だ。剣なのに、魔法みてぇな力を発揮できる。しかも、こっちは詠唱も必要ねぇしな。使い勝手はエンチャントよりよっぽどいい」
「……逆に、エンチャントの使い道がよく分からないんですけど」
「剣技は一度放つとそれで終わりだが、エンチャントは一度発動させれば、しばらくその効果が続く。剣技だって魔力を使うから、使いすぎは禁物だ。結局は、状況に応じて使い分けろって話だな」
話は分かったけど、実際にやるのって難しそうだ。
剣技は、火・水・風・土、それぞれの属性ごとに、四つずつある。
全部、技の名前は違うそうだが、種類は同じだそうだ。
一つ目。
剣を左から右に横薙ぎに切り払って、三日月型の弧を描く衝撃波を発生させて、遠方の敵を攻撃する。速さのある剣技。
二つ目。
剣を、上から切り落とすことで、縦に長い衝撃波を発生させて、遠方を攻撃する。これは結構自由度が高く、例えば複数の衝撃波を出したり、一本を大きくしたりできるらしい。
三つ目。
直接攻撃系の剣技。相手に命中した瞬間に、爆発的な威力が起こる。
四つ目
突き技。剣で突きをする時に使う剣技。
どの属性もこの四種類。
編み出した勇者様が名前も考えたそうで、自らの故郷の文字を使ってつけた名前を、この世界でそのまま使っているそうだ。
どんな文字なのか、と聞いてみたら、過去、勇者様が書いたものを書き写したものがある、と言うことで、見せてもらった。
見事な漢字の羅列、プラス読み仮名まで振ってある。――うん、日本人だね。
「なんでも、全部の技名に動物の名前が入っているって話だな」
と言われたとおり、確かに何かしらの動物……というか、生き物の漢字が入っている。
(これ考えた人、中二病だなぁ。――あれ、でも、かなり昔の勇者なんだよね?)
そんな昔の人が、こんな名前を考えるのか?
エンチャントはもちろんだが、剣技にしても、剣に魔力を纏わせる必要があるので、まずは魔法を使えるようにならなければ、できるようにならないらしい。
なので、講義の後は、普通に剣の稽古で終わった。




