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22話 狐の怒り

◆九尾の狐視点


 九尾の狐は体を震わせる。


「うぅ……何なんじゃ、あの犬は! わちきを味見しよった!」


 冷静に考えればあいさつ代わりに舐めただけだろう。

 しかしあの犬に恐怖を抱いており、さらには突然間近にいた驚きもあって、彼女は冷静に考えられなくなっていた。

 彼女の頭に、このまま今日は帰ろう、という考えが過ぎる。

 しかし彼女は首を振ってその考えを消した。


「いや、いつあの不気味な男が帰ってくるか分からんのじゃ! それに帰ってきたとして、再びあの男がいつ里を出るかも分からん! やはりやるなら今しかないのじゃ!」


 自分を奮い立たせる九尾の狐。

 彼女は再び里が見える場所までやって来る。

 当然犬の警戒は怠らない。


「よし、犬はおらんな。それじゃあ始めるかのお」


 九尾の狐は炎を吐き出して、今度は芋虫の幻影を作る。

 その数は優に百を越えている。

 当然一体一体精巧に作られており、それぞれが独立して動いている。

 これを見れば誰だって卒倒するだろう。


「完璧じゃの。これを空から投げつければ、里は阿鼻叫喚の嵐じゃ!」


 その様を想像して彼女は、くっくっく、と笑い声を上げる。

 するとぬりかべが一人で歩いているのを見つけた。


「ちょうどいいのお。あやつに芋虫の雨を降らせてやるのじゃ」


 九尾の狐は幻影を操り、ぬりかべの頭上からそれらを全て落とした。


◆ぬりかべ視点


 ぬりかべは一人歩きながら怒っている。


「かぱ蔵のやつめ。見つけたらとっちめてやらあ、スットコドッコイ!」


 ぬりかべは先ほど河童に芋虫を投げつけられたばかりだ。

 そのため彼を追いかけていたのだが、残念ながら見失ってしまった。


「この辺りにいるはずだが……。おい、かぱ蔵! 出てこいってんだ、スットコドッコイ!」


 再び芋虫を投げつけられないように辺りを警戒しながら歩くぬりかべ。

 すると突然、上から芋虫の雨が降ってきた。

 それを受けたぬりかべは……驚かない。


「何度も同じ悪戯には驚くかってんだい、スットコドッコイ!」


 そういって上を向く。

 すると屋根の上に河童がいるのを見つけた。

 河童は慌てたように口を開く。


「い、今のはおいらじゃないんだな! 森のほうから急に……」

「うっせえぞ! いい加減諦めろってんだ、スットコドッコイ!」


 ぬりかべは地を蹴って屋根のうえに飛び乗る。

 そして河童の頬を掴んだ。


「さあ、かぱ蔵、観念しろってんだ、スットコドッコイ!」

「ぎゃあああああ! 痛いんだなあ!」


◆九尾の狐視点


 そんな二人の様子を見ながら、九尾の狐は唸り声を上げる。


「ぐぬぬぬ……。なぜじゃ! なぜ驚かんのじゃ!」


 彼らの会話は九尾の狐のところまで聞こえてこない。

 そのため彼女から見ればぬりかべは芋虫の雨を無視したように見えたのだ。


「誰も驚かんし、一体どうなっておるんじゃ!」


 九尾の狐は前足で行き所の無い怒りを、地面に向かってテシテシと叩きつける。


「こうなったら最終手段じゃ! 腰を抜かして泣き喚くほど驚かしてやるんじゃ!」


 そんなことをしたら里に住まわせてもらうどころか、誤解を解くことが難しくなってしまうだろう。

 しかし今の九尾の狐は散々驚かすことに失敗したため、何が何でも驚かしてやろうという気概に満ちている。

 そのため躊躇することなく最後の手段に出た。



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