21話 一本だたら
◆九尾の狐視点
犬から逃げてきた九尾の狐は里が見える別の場所にやって来た。
既に彼女が生み出した幻影は全て消されている。
「一体あの犬は何なんじゃ。この辺りでは見かけたことのない犬じゃったぞ……」
犬に酷く怯える九尾の狐。
しかし彼女は気を引き締めなおして再び里の住人達を驚かせるために幻影を作り始める。
「このくらいでええかのお」
しばらくすると、彼女の目の前には数匹の蛇が生まれた。
それも普通の蛇よりも大きく、体長は三メートルもある。
「これなら人面を付けんでも、十分驚くじゃろ」
白と緑の斑模様の蛇はしきりに舌を出し入れしており、完成度の高さが伺える。
九尾の狐はそれを見て満足げに頷くと、早速里に向かって進ませた。
彼女はその姿を見ながら再び茂みに隠れ、里の様子を見る。
すると開けたところに一本だたらと子供達が遊んでいるのが見えた。
蛇の幻影をそちらに向かわせる。
「くっくっく。どんな反応をするかのお?」
一本だたら達がみっともなく腰を抜かして慌てふためく様子が頭に浮かび、九尾の狐は思わず笑い声を上げる。
しかし残念なことにそうはならなかった。
蛇の幻影に気づいた一本だたらが子供達を守るように前に出て、一方的に蹂躙したのだ。
威嚇するように体を持ち上げた蛇達の幻影を掴み、殴り、高く飛んで踏み潰す。
すると幻影達は燃え尽きるように消えていった。
一本だたらは他の蛇がいないことを確認すると、再び子供達と遊び始める。
それを見て九尾の狐は驚愕した。
「な、なんていう奴じゃ……。大蛇相手にああも勇敢に攻め込み、さらには蹂躙して見せるとは……」
するとそんな彼女のすぐそばで鳴き声がした。
「わん!」
ビクリと体を震わせながら、そちらを恐る恐る見る。
するとそこには舌を出し、尻尾を激しく振っている犬がいた。
先ほど彼女の幻影を全て消し去った犬だ。
彼女が恐怖で固まっていると、その犬は無造作に彼女の顔を舐めた。
ゾゾゾ、と悪寒が背中から首筋まで駆け上がる。
彼女は思わず悲鳴を上げて駆け出した。
「ひゃああああああ!」
◆一本だたら視点
一本だたらはハナと勘衛門と遊びながら考える。
(……はて。この辺りにあんな蛇はいたかのお?)
長いことこの辺りに住んでいるが、白と緑の蛇は見たことが無い。
それにあれだけの大蛇が一度に襲ってくるのも不自然だ。
(……一度森の中を見回った方がええかもしれんのお。子供達を危険な目に合わせるわけにはいかんけえのお)
そんなことを考えていると子供達が森の方を指差した。
そちらを見ると耳と尻尾を垂れさせ、とぼとぼと歩いてくるハチがいた。
一本だたらはハチの頭を撫でながら声をかける。
「……どうしたんじゃ。いつも元気なハチにしては珍しいのお」
「くぅん」
ハチは尚も頭を下げ、しょんぼりとしている。
どうやら余程ショックなことがあったらしい。
ハチはそのまま足を止めることなく去って行った。




