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14話 村へ

「あの村に? 俺は余所者を問答無用で殺すような村にはもう行きたくないぞ」


 綾斗は顔を顰めながらそう言った。

 しかしウメは食い下がる。


「そのことはこの間悪かったって謝っただろう? あんたには今の村を見てほしいのさ。それでどうすれば村を良くできるか意見が欲しいんだよ。村人たちにはあたしから襲わないように言うからさ」

「そうは言っても、あんたは既に村に捨てられた身だろ? それなのに何で村の事を考えるんだよ」

「そりゃあ、あたしがあの村を好きだからに決まっているさね。あそこはあたしの故郷だからねえ」


 ウメからしてみれば村は、どんなに貧しくても互いに食料を分け合い、助け合ってきた仲間たちが住むところだ。

 そのため彼女はそこが好きであり、助けられることなら家族同然の村人達を助けたいらしい。


「そうは言われても、俺にできることなんてたかが知れてるぞ。とても村一つを救えるなんて思えない」

「それでもいいのさ。少しでも村を救えるのなら、未来の知識に頼らせてほしいんだよ。」


 ウメはこれ以上ないほど真剣な顔をしてそう言った。

 それを受けた綾斗はしばらく考えた後、再びため息を吐いて口を開く。


「……はあ。わかったよ。でもできることなんて料理を分けるくらいだ。それでもいいか?」

「もちろんさ」



 翌日、馬車に料理を乗せ終えた綾斗はウメとサキ、ぬらりひょんとキチを連れてダイキチが引く巨大な馬車に乗った。

 馬車の中は広々としており、たくさん積まれてる荷物の他に椅子や机がある。

 綾斗は椅子に座り、外にいるダイキチに声をかけた。


「ダイキチ、頼んだぞ」

「おう! 任せとけ!」


 ダイキチは拳を握って気合いを入れ、彼は力強い足取りで馬車を引き始めた。

 やがて彼と馬車は宙に浮き、凄まじい速度で森の上を駆ける。

 すると馬車の中で外を見ていたサキとウメが驚き、目を見開いた。


「わあ! 空を飛んでるの!」

「話には聞いていたけど、なかなか怖いねえ!」


 サキは飛行機に乗った子供のように窓に張り付いてはしゃいでおり、ウメは戦々恐々としながら椅子の背もたれにピッタリと体を固定している。

 その様子を見た綾斗とぬらりひょんは二人を宥めるように口を開いた。


「まあ、とりあえず落ち着けよ。婆さんはともかく、サキはまだこの馬車に乗ったことが無かったか」

「ほっほっほ。ウメさん、安心して座っとるとええぞ。ダイキチがおるし、この馬車は呪具じゃからのう」


 そうして馬車の中で過ごしていると、あっという間に村に到着した。


「ほら、着いたぜ!」


 ダイキチの言葉と共に馬車が止まる。

 綾斗達が外に出ると、そこには村人達が鎌や鍬を持って待ち構えていた。

 皆一様に頬がこけ、目がくぼんでいる。

 さらに着物から覗いている胸には肋骨が浮き出ている。

 綾斗達の姿を見て村人達はざわめきだす。


「イタチの馬車から人間がでてきたぞ」

「あいつ、この前来たバテレンじゃないか?」

「おい、ウメさんとサキちゃんもいるぞ!? 生きてたのか!?」


 様々な反応を見せているが、皆一様に驚いていることは確からしい。

 そして知っている人間が出てきたからか、彼らは武器を下ろした。


 それに対して綾斗は、飢えている人間がどういうものなのか初めて見たため思わず唾を飲み込んだ。

 するとウメが口を開く。


「皆、ひさしぶりさね。色々言いたいことがあると思うけど、捨てられたあたしとサキちゃんがこうして村に戻ってきたのは、この村を豊かにしてくれる人を連れてきたからだ」


 彼女の言葉に村人達は静かに耳を傾ける。

 すると綾斗はウメに目配せされたので、彼女に変わって前に出た。

 そして口を開く。


●侍視点


 五平の家にいた侍の一人が窓の外を見て、村人達が騒いでいることに気がついた。

 続いて他の侍達もそれに気づき、彼らは窓から外の様子を眺める。

 そして妖怪とウメを見て驚愕をあらわにした。


「老婆がいたぞ! あれだけ探し回ったのに、ここに現れやがった!」


 すると彼らと同じように窓の外を見た五平は思わず口を開いた。


「あれは、サキか!? 生きていたのか!?」


 するとそんな彼に向かって一人の侍が声をかける。


「生きていた、とはどういうことだ?」

「御侍様、あそこにいる童女がこの間捨てたサキでございます!」

「何!? あの童女が!? そうか、つまり捨て人達はあのバテレンが匿っていたのか! おのれ、よくも……。必ずバテレンを殺してやる!」


 侍達は憤慨する。

 すると別の侍が口を開いた。


「ならば五平にやらせよう。それで村人達にバテレンを殺させるんだ。向こうに妖怪がいようと数で押せば関係ない」


●綾斗視点


 綾斗が自己紹介をしていると、村の中でも一際大きな家から一人の男がやってきた。


(あれが村長の五平か。婆さんはあいつは体が膨らむ奇病だって言ってたけど、普通の肥満体に見えるな)


 綾斗がそんなことを思っていると、彼は近くに来て大声で怒鳴った。


「何をやっているんだ! バテレンを殺して全ての金品を奪うんだ!」


 すると村人達は下ろした武器を再び構える。

 どうやら五平の方が立場が上のため、逆らえないらしい。

 するとウメとサキがすかさず叫んだ。


「五平! 今すぐあの子達に武器を下ろさせな!」

「綾斗さんは村を助けてくれるの! だから襲わないでほしいの!」


 しかし五平はそれにとりあわない。

 彼は更に怒鳴り、村人達に命令した。


「あの二人の言葉は戯言だ! たった一人で村を救えるわけが無い! バテレンを殺せ! 金品を奪い取るんだ!」


 いくらウメの言葉を聞いた村人達でも、五平の言っていることの方が正しいと思ったのだろう。

 彼らは一斉に綾斗めがけて走り出した。


(ちっ、マズイな)


 綾斗は内心舌打ちし、咄嗟に考えを巡らせる。


(一人、二人ならどうにかできる自信はあるが、纏めて来られると流石に無理だ。どうしたらいい?)


 そうして考えていると、村人たちの行く手を阻むかのように地面が抉れる程の突風が吹いた。

 ダイキチが自らの存在を知らしめるように口を開く。


「おいおい! 綾斗だけじゃなくて俺達もいるんだぜ!」

「今のはダイキチがやったのか。助かったよ」

「いいってことよ! 気にすんな!」


 するとぬらりひょんが口を開いた。


「ほれ。皆それぞれ事情があるじゃろうが、今は忘れるんじゃ。そして家にいる者も全員ここに連れてくるんじゃ。綾斗がこの村のためにありったけの料理を作ってくれたからのう。それと病人が家におる者はここにいるキチに言いなさい。すぐに治してくれるからのう」


 その言葉と共にダイキチが馬車の扉の中を村人たちに見えるように動かした。

 その中には巨大な鍋がいくつもあり、そこからよだれが出るような匂いが溢れ出ている。

 ぬらりひょんは言葉を続けた。


「この通り料理はたくさんあるからのう。焦らんでも無くならんわい。落ち着いて家の者を呼びに行き、そして一列に並ぶんじゃ」


 ぬらりひょんがそう言うと村人たちの間から歓喜の声が滲みだし、やがて大きな一塊となって空高く響く。

 その様子を見ながら、ダイキチが満足気な顔をしているぬらりひょんに向かってひっそりとため息を吐いた。


「はあ。相変わらず人間相手になると見栄を張りやがる」



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