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13話 ショベルアーム

◆綾斗視点


 雲ひとつない空から陽光が激しく照らしつける。

 しかしそれに反して森の中は涼しく、木々から溢れる清々しい香りが爽やかな風に運ばれてくる。

 辺りでセミたちが緩急をつけて元気に鳴いていた。


 ウメ達がやってきて早くも一週間が経った。

 綾斗と半蔵はシャベルを持って土を掘っている。


「悪いな、手伝わしちまって」

「なんの、気にしないでいいでござるよ」


 彼らの傍には樹齢500年を越すツツジの大木がある。

 その周りを彼らは掘っていた。

 もちろん平家の埋蔵金を探すためである。

 すると半蔵が口を開いた。


「そういえば綾斗殿。お主はこの時代にどうやって来たのか心当たりはあるでござるか?」

「ああ。姫越峠を越えたときに視界が一瞬おかしくなった。多分そのときだろう」

「なるほど、実は拙者もあの峠を越えた時に視界がおかしくなったでござる。やはりあの時でござったか。ではあの峠を越えれば元の時代に帰れるやもしれぬでござるな」


 綾斗は手を止め、半蔵を見た。


「元の時代に帰りたくなったのか?」


 すると半蔵は勢い良く綾斗の方に向き、首を激しく横に振る。


「とんでもないでござる! あの時代には拙者、二度と帰らないでござる!」

「そ、そうか」


 そこには異常なほどの必死さがあり、綾斗は深く追求せずにそう言うだけに留めた。

 二人は再び手を動かす。

 すると半蔵が口を開いた。


「拙者はただ単にいつこの時代に来たのか知りたかっただけでござるよ。というのも、拙者は幼い頃から忍術を叩き込まれていたというのは前に話したでござろう?」

「ああ、出会ったときにそう言ってたな」

「それがとても辛かったのでござるよ。十にも満たないにも関わらず一日中池に沈められたり、火に耐えられるようになるためにその上を走らされたり……」

「……よく死ななかったな」


 遠い目をしながら半蔵はそう言った。

 綾斗は言葉が続かない。

 半蔵は続けて口を開く。


「自分でもそう思うでござる。だから拙者、常日頃から普通の百姓になって穏やかな暮らしがしたいと思っていたのでござる。そしてある時、その生活に耐えられずに任務に行くと見せかけて家を出たのでござる」

「それで峠を越えたらこの時代に来てたってわけか」

「そうでござる」


 半蔵は頷き、手を止める。

 すると綾斗の方を見て笑顔で口を開いた。


「でもそのおかげで今では、りかちゃん殿に普通の家を作ってもらい、普通の暮らしができているでござる! 幸せでござるよ!」


 その笑顔を見て綾斗もまた頬を緩ませる。

 半蔵が口を開いた。


「綾斗殿は元の時代に帰りたいと思わないでござるか?」


 すると綾斗は地面に視線を戻し、手を動かしながら答えた。


「今は思わない」

「今は、でござるか? ということはいつかは戻ると?」

「ああ、埋蔵金が見つかったら俺は戻るつもりでいる」

「そうでござるか」


 半蔵はそういうと、彼もまた手を動かし始めた。

 そのまましんみりした様子で口を開く。


「綾斗殿が帰ってしまうと、寂しくなるでござるなあ。サキ殿なんかは特に悲しむでござるよ」

「そうか?」


 綾斗の脳裏に天真爛漫な少女が浮かぶ。

 しかしそれを振り払うように綾斗は話し出した。


「俺にはある人との約束があってな。絶対に破ることができない、いや、破りたくない約束なんだ。だから俺は必ず埋蔵金を見つけ出して帰らなきゃならない」


 その声には強い意志が宿っており、誰にも変えることなどできないとわかるものだった。

 茂みが揺れる。

 半蔵はそこに悲しそうな目を向けながら口を開いた。


「それなら、仕方ないでござるなあ」


◆サキ視点


 サキは走った。

 綾斗に気づかれるかもしれない、という考えも抜け、ただただ涙を流しながら全力で走った。


(綾斗さんがいつか帰ってしまうの!)


 最初はただの好奇心だった。

 綾斗がもし未来に帰れるならどうするのか知りたかっただけだった。

 だが自分で聞くのは何故か勇気がいる。

 そこで半蔵に頼み、自分は近くに隠れて聞き耳を立てることにしたのだ。


「ぐす……うぅ……」


 涙が止まらない。

 心のどこかでは綾斗が帰らないだろうと思っていたのだろう。

 太陽が傾き、空が赤らみ始めていた。


◆綾斗視点


 綾斗と半蔵はシャベルを片手に里に向かう。

 半蔵が口を開いた。


「無かったでござるなあ」

「この辺りにはツツジが呆れるほどあるんだ。他をあたるしかない」

「穴を掘る妖力を持つ妖怪がいれば、こんなに時間をかけずともすぐに掘れるのでござるが……」


 妖力とは妖怪が一人につき一つ持つ不思議な力である。


「たしかにな。だがひょん爺に聞いたが、そんな妖力を持つ妖怪はいないらしい」

「ではダイキチ殿の風を操る力で土を吹き飛ばしてもらうのはどうでござるか? ひょん爺殿が乗る馬車ごと自身も浮かしてしまうでござるから、きっとすぐに掘れるでござる」

「たしかにそうかもしれないが、そうすると埋蔵金ごと吹き飛ばしてしまいそうだ。ダイキチは細かな風の制御はできないらしいからな」


 綾斗がそう言うと半蔵は考え込む。

 そして再び口を開いた。


「では、かぱ蔵殿の水を操る力で土を吹き飛ばしてもらうのはどうでござるか? かぱ蔵殿なら器用でござるし、きっと埋蔵金を吹き飛ばさずに済むでござる」

「かぱ蔵ならたしかにできそうだな。でもかぱ蔵の力は水辺が近くにないと使えないらしいからなあ」

「むぅ、そうでござったな」


 再び考え込む半蔵。

 そんな彼に綾斗はシャベルを持ち上げる。


「結局は人力で掘るしかないんだよ。まあ、このシャベルも一本だたらの能力で作られた錆びない強靭な金属でできているんだ。作業効率は普通の鉄で作られた奴より高いはずだ」


 綾斗がそういうも、半蔵はなお考えながら口を開く。


「……では穴を掘る呪具を探すのはいかがでござるか? 呪具は通常妖力が宿っている道具でござるが、人が作った物もあるとひょん爺殿から聞いたことがあるでござる」

「いや、そんな無さそうな物を探す方が時間かかりそうだろ」

「むむ、たしかにそうでござるな……。では、綾斗殿の万能工具は穴を掘る道具にならないのでござるか?」

「そんなものがあればとっくに……」


 綾斗は言葉に詰まり、立ち止まった。

 そして愕然としながら口を開く。


「あるじゃねえか! 完全に忘れてた!」


 綾斗はベルトに挟んでいる万能工具を取り出し、ボタンを押す。

 すると瞬く間に棒状の先端が土を掬い取る形になった。

 綾斗がそれを地面に当てる。

 それを見た半蔵が驚いた声を出した。


「おお!? 勝手に動いて土をどんどん掬い取っていくでござる!」

「ショベルアームって言っていうんだ」


 そうして離している間にもショベルアームはどんどんと土を掘り、穴を広げていく。

 綾斗は口を開いた。


「シャベルで掘ることばっか考えてたから、これの存在を忘れてた。思い出させてくれてありがとな」



 それから彼らは里に着いた。

 綾斗は家に帰る。

 すると彼の家からウメが出てきた。

 彼はウメに声をかける。


「婆さん、どうしたんだ? りかちゃんに作ってもらった家に引越しする時に忘れ物でもしたか?」

「おや、綾斗じゃないかい。そうじゃなくて、あたしゃあんたを探していたのさ。少し頼みごとがあってね」

「俺に? それなら晩飯が終わってからでいいか?」

「ああ、構わないよ」


 そう言って二人は綾斗の家の中に入る。

 するとウメが小声で綾斗に話しかけた。


「さっきサキちゃんが走って帰ってきたんだけどね、泣いていたんだよ。聞いても教えてくれないし、何か知っているかい?」

「サキが? いや、知らないな。後で聞いてみるよ」


 しかし食事時に綾斗がサキにそれとなく聞いてみても、彼女に特に変わった様子は無く、何でもないの! と、という返事が返ってきた。

 食事が終わり、ウメと二人きりになったときにそれを伝えると、彼女は腕を組んでため息を吐いた。


「そうかい。まあ、あの子が話したくないならそうさせるさね。でも綾斗も気にかけておいてやってくれ」

「ああ、もちろんだ。それで俺に頼みって何なんだ?」


 綾斗がそう聞くと、ウメは一度深呼吸をしてから口を開いた。


「綾斗。あんた、あたし達がいた村にもう一度来

てみないかい?」



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