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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
十章
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開死

音使い最終章です。20〜30話で終わります。

 埃臭い部屋で目を覚ました。

 視界いっぱいに光が飛び込んでくる。長い夢からやっと目が覚めたかのような感覚だ。


 俺は目を細めながら、なんとか体を起こし、辺りを見回した。

 その時、キィィィィンと激しい耳鳴りがした。

 顔を歪めながら慌ててOFFの状態にすると、その耳鳴りは多少マシになる。


「…………」


 一体、どうなったんだ。

 目を瞑って記憶を辿る。

 ボスの裏切り……、仲間の死、組織の壊滅。地面に叩きつけられたのを最後に、俺の記憶は途切れている。

 耳鳴りは、能力を過剰に使役したための反作用だろうか。


 ……整理しなければならない情報は多いが、とにかく俺は助かったらしい。

 その事実に一旦安心し、俺は脱力した。

 しばらく呆けた後、両手を持ち上げてみると、体の傷が完治していることに気づく。


 千薬さんなき今、こんなことができるのは、治癒加速の能力を彼女からコピーした空蝉さんだけだ。

 ということは、あの人も生きているんだな。良かった。


 ……しかし、あの傷を完治させることができるくらいの時間が経ったということか。

 あれだけの傷、完治には付きっ切りでも時間がかかるはず。俺は一体どれくらい眠っていたんだろう。


 フーと息を吐き、俺は今一度辺りを見回してみる。


 殺風景な部屋だ。ベッドと、木製の丸椅子にテーブル、後は部屋の隅にある小さなテレビ……、それ以外は何もない部屋。

 だがこの間取りには見覚えがあった。

 ここはおそらく、宵闇さんの住むアパートの一室……。

 ロールが、俺を連れて宵闇さんのところまで逃げてきたのだろう。


 それにしても、よくここまで辿り着けたな。ここを当てにしたロールも、相当切羽詰まっていたんだろう。あのアジトからはそれなりの距離があったはずだ。

 他に行く当てはなかったのだろうか……。


 まあでも、宵闇さんを頼るというのは良い判断だったかもしれない。

 ここなら安全だ。宵闇さんには、ボスも安易には手を出せないだろう。


 そんなことを考えていた時、ガチャリと玄関のドアが開く音がした。

 そして足音がこちらまで近づいてきて、やがて部屋の扉が開く。


 そこに現れたのは買い物袋を片手にぶら下げた金髪の女性。ロールだ。

 しかし、その容貌は俺の知るロールとは少し違っていた。つば付きのニット帽を深く被っていて、良く見えないが、腰まであった長い金髪が肩より下のところで雑に切り揃えられているように見える。


「あ……!」


 ロールと目が合う。

 彼女は、しばらく呆然とした後、買い物袋を雑にキッチン台に起き、俺の元まで駆け寄ってきた。

 そしてロールはしばらく唇を震わせた後、俺の腰に抱きついた。


「死音、良かった……!」


 その時、ズキンと体の節々が痛む。

 反応を抑えはしたが、やはりロールを誤魔化すことはできないらしく、彼女は慌てて俺から離れた。


「ごめん!」


 どうやら、体の傷はまだ完治していないらしい。外傷は完治しているけど、中の方はまだのようだ。


「いいよ。ロール、無事で良かった」


「それはこっちのセリフよ……」


 沈黙。なぜか気まずい雰囲気が流れる。

 ロールの心中は察せられる。色々あったのを俺は思い出していた。


「ロール、その髪どうしたんだ?」


 とりあえず、俺は一番最初に気になったことを聞いてみることにした。


「ああ、これはね。私達今指名手配されてて、それで長いと目立つから切ったの。似合わない?」


「へぇ。似合わないってことはないけど、俺は長い方が好きだな」


 というか、目立つという理由なら今更すぎる気がする。


「……そう。ちょっとショック。嘘でも適当に褒めてくれたらいいのに」


「ああごめん。似合ってる」


「遅いわよ」


「……で、指名手配ってのは、どういうことなんだ?」


 大体察しはつくが。

 ロールは少し考える仕草を見せてから、テーブルの上にあったリモコンでテレビの電源を入れた。

 画面の右上に表示されている時刻は午前の七時すぎくらい。ロールがチャンネルを回しても、番組は天気予報か下らないニュースばかり。

 しかし、その中に一つ目を引くニュースを報道している番組があった。

 番組では自衛軍への取材を行っているVTRが流れていて、その取材を受けている人物には見覚え……いや、断言しよう。

 脳裏に焼き付いて離れないその人物が、取材を受けていた。


「ボス……」


 テロップには、「酒井辰巳、大将への昇格。対策支部今後の方針は」と書かれてあり、ボスが今後の反社会的勢力への対応について受け答えしている。


「あいつが私達を指名手配したから、変装無しで町に出ればすぐに通報が飛んで自衛軍が駆けつけてくるわ」


 正体を知ってる俺達を消そうとしてるのか。


「Anonymousを壊滅させた酒井大将が、もう実権を握りつつあって、世間の注目は今あいつに集中してる」


「そうか」


 だろうな。これまで苦戦させられてきたAnonymousが酒井によって壊滅させられた。その実態はAnonymousの首領だった酒井の自演だが。

 とはいえ、そうなればもちろん酒井中将は一気に評価され、大将へと昇格した。これまでボスの目論見通りだ。

 そしてボスの能力は事象をほぼ改変可能。そのための手回しを今までしてきたから、誰にも疑われない。

 あとは、ボスがボスであったと証明しかねない俺達を消すだけ。


「一つ気になることがある」


「なに?」


「俺ってどれくらい寝てたんだ? かなり時間が経った感じがするけど」


「10日よ」


「……長いな」


「空蝉がアンタの治療を後回しにしたからね。そのせいで死音はしばらく生死の境を彷徨うことになった。

 まあその辺を含めて色々話すことがあるから、みんなを集めてくるわ」


 そう言って、ロールは部屋を出ていった。

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