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音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
九章
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褪の崩壊

 会議室のあるB3Fも人で混み合っており、辿り着くのに少しの時間を要した。

 俺は部屋の前にある内部呼出しのボタンで室内に到着を知らせる。

 そうして中から施錠されていた鍵が解錠され、扉は開いた。

 扉を開けたのは溜息さんだった。


「来たか」


「こんにちは」


 口ぶりからして、俺が呼ばれていたのは本当のようだ。できれば空蝉さんのイタズラであってほしいところだったが。

 会議室の中を覗き込むと、円卓の周りには幹部メンバーがまとまりなく非等間隔に座っていた。


「中に入れ」


 言われて中に入る。そしてもう一度円卓を見回すと、俺はそこにボスと詩道さんがいないことに気づく。

 空蝉さんと百零さんは円卓の上に足を乗せ、向かい合うように座っており、煙さんと千薬さんは二人共入り口に近い所に座っていた。

 何とも言えない雰囲気が漂っている。


「よォ死音」


 わざとらしく空蝉さんが手を上げたのを、俺は無視する。


「溜息さん、ボスと詩道さんはどうしたんですか?」


「あの二人はまだ来ていない。それで会議が遅れている」


「へぇ」


「まあ、座れ」


 空蝉さん以外の各幹部に会釈して、俺は奥の方の席についた。

 溜息さんが俺の隣に座ったので、俺の視線の延長線上にいた空蝉さんは見えなくなった。


 その後、会議室は静まり返った。

 会議が始まる前の沈黙だろう。前の時もボスが話し出すまではこんな感じだった気がする。

 俺はなぜ呼ばれたのだろうか。隣に座った溜息さんに聞きたいところだったが、誰もが無言なので口を開くのが躊躇われた。


 しかし。


「オイ死音、アレどうなったんだよ?」


 空蝉さんがそんな言葉を発したので、俺の頭は真っ白になった。全員の視線がこちらに移ったのが分かった。

 無視を決め込むことにしたが、空蝉さんは俺にだけ聞こえるように音を飛ばしてきた。


『そういやこんな話し方もできるのか、俺達には』


 これなら会話していてもバレることはない。

 正直話したくなかったが、俺は空蝉さんに合わせることにする。

 何も話さない俺を見て、幹部の面々はそれぞれ視線を戻した。それを見計らった俺は空蝉さんに音を飛ばす。

 

『何考えてるんですか。カードキー盗んだこと煙さんにバレますよ』


 もしかしてもうバレているのか?

 だから俺を巻き込もうとしている?


 いや、それならこんな話し方をしなくてもいい。


『んなもんどうせバレるから大丈夫だ。で、あの女はどうなったんだ?」


 何が大丈夫なんだよクソ。さっきは俺がチクるからとかなんとか言って解放しなかっただろ。

 駄目だ、こいつめちゃくちゃすぎて何考えてるのか分からない。


『放置しましたよ、関わる気ないんで。俺は何も見てませんし、何も聞いてません。というかあの場にはいなかった。それで通してくださいね』


『オイオイ、放置したのかよ。それじゃ俺に面倒事が回ってくるだろーが』


『元々アンタの責任だろ』


『ハァ? ナメてんのかお前』


『ナメてるのはそっちでしょ。俺はしらばっくれますからね』


『OKOK。じゃあこうしようぜ。運良く会議のおかげで俺達のオイタはまだバレていない。

 だから、これが終わったら二人でアレを処理しに行こう。ああいうのは基本書類もんだからマズイ。侵入はバレてもいいが、あの女だけは片付けるぞ』


 何が俺"達"のオイタだ。


『空蝉さんが全部なんとかしてくれたらいいじゃないですか。幹部だからビビることはないんでしょ?』


『チッ、面倒くせぇなァ。わぁーったよ、一人でやればいいんだろ?』


 当たり前だ。

 その言葉を空蝉さんに伝えることはなかった。

 再び会議室に真の沈黙が訪れて、10分程が経つ。


「いくらなんでも遅すぎないか? 30分近く遅れるなんてありえねー」


 しびれを切らして口を開いたのは百零さんだった。


「お前が言うか百零。もう少し待て」


 煙さんが百零さんを窘めるが、俺も遅いと思う。ボスと詩道さんがこんなに遅れるなんてあり得るのか?


「まあ確かに遅いよな。俺トイレ行ってきていい?」


 そう言って空蝉さんは立ち上がり、誰も許可を出さないうちに部屋を出ていった。

 部屋にまた静寂が戻る。百零さんが貧乏ゆすりを始めた。


 煙さんは椅子に深く座ってじっと待ち、千薬さんは机に肘をついてどこかをぼーっと眺めていた。

 隣の溜息さんにも視線を移すと、彼女は両手をだらんと垂らし、背もたれに頭を乗っけて顔を天井に向けていた。


 当初は多少あった緊張感がなくなって、話し出してもよさそうなだらけた雰囲気になっている。

 俺は溜息さんの腕をちょんとつついて話しかけた。


「溜息さん」


「なんだ……?」


「俺ってなんで呼ばれたんですか?」


「今日の会議では、お前を幹部にするかどうか、という議題もあるからな」


「嘘でしょ……?」


 なりたくねぇ……。いくらなんでも俺は器じゃないだろ。

 ……というか、本人のいる前でそんな議題をするってことはほぼ決定ってことなんじゃないのか?


「本当だ。良かったな」


「良くないですよ全然」


 俺がそう言うと、溜息さんはフッと笑って先程の体勢に戻った。

 いや、謙遜したわけじゃない。


 しかし面倒なことになったな……。幹部を検討されるのは有り難いことだが、今回は辞退させてもらおう。


 そう思っていると、室内にポーンと呼出音がなった。

 立場的に俺が行くべきか。

 立ち上がり、扉の自動ロックを解除すると、部屋の扉がガタンと開いた。


「オイ、消えてたぞ」


 扉の向こうから現れた空蝉さんは、ヒソヒソ声で俺に言う。

 

「消えてたって……?」


「あの女だよ」


『嘘でしょ』


 話の意味が分かって、俺は音の行き先を限定した。

 何食わぬ顔で席に戻る俺。

 なるほど、空蝉さんはトイレに行ってた訳じゃなかったのか。


『お前、ホントは処理してたのか?』


 同じく席に着いた空蝉さんは聞いてきた。


『してませんよ、そんなこと』


『あいつ、気を失ってたよな?』


『はい。マズイですね』


 この数十分の間に目を覚まして、どこかへ消えたというわけか。

 つまりは、俺と空蝉さんがあの部屋にいたことを知っている唯一の目撃者ということだ。


『消すか口止めするかだな』


『だけど、あの娘多分組織の人間じゃないと思いますよ』


『なんで分かるんだ。見たことないだけだろ?』


『アジトに出入りする構成員の顔はほとんど全員覚えてますから。あんな目立つ容姿をしていたんだし、構成員なら忘れるはずがない』


『よく放置したなァ、お前』


 それは確かに俺の失態かもしれない。

 いや違う。俺はあの場にいなかった、そうだろ? なら放置したのは空蝉さんだ。

 名目上はそういうことになるのだ。


『これはどう考えても空蝉さんの責任だと思いますけどね』


『いや、責めてんじゃねェよ。おかげでちょっと面白いことになってきたじゃねぇか』


 何言ってんだこいつ。


『そういえば、あの娘カードキーを持ってませんでした』


 確かに鍵を開いて入ってきたというのに。


『うっそだろ。能力かァ?』


 ヤバイな。名目上は空蝉さんのせいとはいえ、かなり怪しい奴を放置してしまったのか? 俺は。

 だが、外出許可がないと外に出られない現状がある限り、まだアジトの中にいるのは確実だ。明日までに探し出せば問題はない。


『とにかく、会議が終わったら手分けして見つけ出しましょう。今は外に出られないので、まだアジトの中にいるはずです』


 ポーン、と。

 また部屋の呼出音がなった。


 ボス達ならわざわざ内部呼出しのボタンを押さなくても、部屋の鍵を解錠することができるはずだから、別の誰かだろう。

 例によってこの中では一番地位の低い俺が、部屋の鍵を開けにいく。遠隔でロックを解錠できるボタンとか作ればいいのに。


 扉がドンドンと叩かれて、どうやら来訪者は解錠を急かしている。

 俺は少し早足で扉の前まで向かうと、部屋の鍵を開けた。


 すると。


「会議中失礼します!! 地上、デリダ村に自衛軍が押し寄せて来ました……! 対策部署の奴らです……!」


 伝令としてやってきた構成員が、必死の形相でそう叫んだ。




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