表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
音使いは死と踊る  作者: 弁当箱
九章
111/156

花の崩壊

 観測者(オブザーバー)が配備されている部屋は、空蝉さんの行った通り、突き当り左を行った所にあった。


 セキュリティはカードリーダーのみ。

 これだけしか防御されていないのは、俺達が信頼されてるからなのだろうか。

 いや、あらゆるセキュリティは意味をなさないのだ。

 組織には色んな能力者がいる。月離さんのような、どんなものでも開け閉めできる本末転倒というか、身も蓋もない能力者もいるんだから、無駄に大層なセキュリティを構えても無意味、と捉えてるのかもしれない。


「あー、楽しみだねェ」


 目を輝かせている空蝉さんを横目に見る。彼がカードリーダーをゆっくりと通すと、扉はプシュという音を立てて、横にスライドしていった。


 広がったのは真っ暗な空間。しかし、ところどころランプや電源の光が点滅したりしていた。部屋の中から異様に冷たい空気が外に漏れてくる。


「じゃ、ここで待ってますね」


 なんとなくヤバイ空気を感じ取った俺は、そう言って壁に背中を預けた。

 が、空蝉さんに首襟を掴まれ、俺はそのまま部屋の中に引きずりこまれた。


 俺が引きずりこまれた後、部屋の扉は自動で閉まり、またプシュと音を立ててロックを掛けた。


「なにするんですか……!」


「ビビるこたァねェ。俺は幹部だぞ?」


 なんでこんなのが幹部なんだ。

 空蝉さんは俺の首根っこを掴みながらもう数歩進む。すると、部屋の電気が自動で点灯した。


 とりあえず目に入ったのは入り口の正面にある大きなモニター。そして俺達を囲む大量の機器だった。


「妙だな」


「ここに観測者が? 部屋間違えたんじゃないですか」


 少なくとも人がいるようには感じられない。心音、呼吸音、人がいるなら絶対に聞こえるはずのそれらが、この部屋の中からは聞こえてこないのだ。

 現在音支配をストックしている空蝉さんにもそれが分かったらしく、片方の眉を吊り上げて周りをキョロキョロと見回していた。


 そんな中、俺が見つけたのはモニター部分以外、壁を埋め尽くす機器の中で、カプセル状に突出したアクリルガラス。

 その中には奇妙な物体が数十の電極に繋がれていて、謎の液体の中でふわふわと浮き沈みしていた。


「空蝉さん、これは?」


 そちらまで近づいた俺は、空蝉さんの方に振り返って聞く。

 空蝉さんは俺の背後に立つと、そのアクリルガラスに手と顔をつけてマジマジとそれを眺めた。


「これ、脳みそじゃね? すげェ歪な形してるけど」


 言われてみれば、脳に見えなくもなかった。しかしあまりにも歪み過ぎているし、まとまりがなさすぎるような気もする。

 だが、これは確かに脳だ。集中してアクリルガラスの中の音を聞いてみると、俺はすぐにそう確信した。


「脳みそって、一体なんでこんなところに」


「壊して触ってみるか」


「ちょ、ちょ……!」


 片手を振り上げた空蝉さんを、俺は身を呈して止めた。

 マジで何考えてるんだこいつ。


「何考えてるんですか。これ明らかに重要なやつですよ」


「ハッハ。んなことわかってる。寸止めでビビらせてやろうとしただけさ」


 ……この人ムカつくなぁ。


「しかしこれは中々興味深いな。この脳、生きてる」


 それには俺も気づいていた。というか、俺は空蝉さんがそのことに気づいたことに驚いた。

 もしかしてこの人、もう微弱な脳波を聞き取れるようになったのか? しかもアクリルガラスを通して。

 これはまずい。


「もしかしたらこの脳みそが観測者(オブザーバー)だったりしてな、ハハハ」


 空蝉さんは笑ってそう言ったが、わりと確信を突いていそうだ。

 彼自身、冗談で言ってるわけでもないのだろう。


 今まで観測者は人だと思っていたが、物を扱うような言動が少し引っかかっていたのだ。俺もなんとなく、観測者についての疑問が晴れたような気がしていた。


「案外ヤバいこと知っちゃったんじゃないですか、これ」


「大丈夫大丈夫。全然ヤバくない方だろこんなの。

 本当にヤバいことは、こんなに簡単に知ったりできないんだぜ?」


 いや、そんなことないと俺は思う。


 この脳は、人間だったモノなのか? それとも人工的に生み出された?

 どちらにしてもこの脳は、しっかりと生きていて活動している。


 俺は今、ちょっとした恐怖を感じていた。これはAnonymousの、俺があまり関わりたくなかった部分な気がする。

 (ヒラ)としてやっていくには、過ぎた情報だ。


「しかし、拍子抜けっちゃあ拍子抜けだな」


 彼はそう言って、わざわざ突出したアクリルガラスの上に跨がった。


 すると唐突に、モニターに光が点った。


「んァ?」


 首をもたげ、空蝉さんはモニターの方に視線を移す。

 俺もモニターを見る。正直、この場から離れたかったが、なぜかそこに釘付けになった。


 光の点ったモニターには、左端でアイビームのカーソルが静かに点滅していた。

 沈黙の中、しばらくそこを見ていると左端のカーソルから謎の文字列が羅列されていく。画面一杯に文字が広がると、そこで羅列は止まった。

 この光景には見覚えがある。Nursery Rhymes襲撃の時、スレイシイドのモニタールームで見たことがあった。あの時の文字列と感じがそっくりだ。


「観測者の交信じゃねェか。オイ死音、読め」


「読める訳ないでしょう」


 これを解読できるのは、ボスと執行さんと煙さんだけだったはず。


 ふとそんな時、プシュと部屋の扉が開く音がした。

 ヤバい。そう思って身を隠そうとしたが、辺りに隠れる場所などない。

 そんな俺を抱えたのは空蝉さん。彼は俺を抱えたまま天井へと飛び、そこに張り付く。


「感謝しろよ」


 空蝉さんは俺にだけ声を届けた。

 よく考えれば隠れる必要なんてなかったはず。俺はこの人に巻き込まれただけなんだから。

 まあ、まずいことをしている、という自覚があったから咄嗟に隠れようとしたのだが。


「誰が入ってくるか予想しようぜ。三択だ」


 扉がスライドする音。空蝉さんは悠長にそんなことを言う。

 5,6m程の高さがある天井に張り付いた俺達は、丁度柱と機器が邪魔で入り口辺りが見えないところにいた。


 ここに入ってこられる人物はボス、煙さん、詩道さんの三人だ。ボス以外が入ってきたらセーフ。ボスが入ってきたら、音を消していても気配でバレる気がするのでアウトだ。

 モニターの画面に映し出された文字列といい、俺達がいた痕跡があるので、どちらにせよここからなんとか脱出しないといけないわけだが。


 そう思うと、やっぱり隠れるのが正解だった。俺が変な情報を手にしてしまったことがバレたら、きっと立場も危うくなる。首を切られたりとかそんなことはないと思うけど、現状の維持は難しいだろう。


「煙さん、じゃないですかね」


 煙さんからカードキーをパクったわけだし。


「ハイドが入って来れば面白い」


「ふざけんな」


 プシュ、と。部屋の扉が閉まる音がした。

 足音が入り口から真っ直ぐに、ゆっくりと進んでくる。そうして柱の陰から現れた人物は、選択肢の中にはなかった人物だった。

 

 それは白衣のような服を着た真っ白な髪をした少女。

 彼女は部屋の真ん中あたりまで進むと、こちらを向いてこう言った。


「急、げ。時間が、……ない」


 そうして彼女はその場に倒れ込んだ。

 それを見て、俺を抱えた空蝉さんは天井から手を離して床に着地した。


「……なんだこいつァ?」


「……見たことないですね」


 組織の構成員、なのか?

 空蝉さんも流石に混乱しているようで、しばらく黙ったままになった。


 やがて彼はおもむろにポケットから端末を取り出し、それを凝視した後、言った。


「やべ」


 俺は彼にちらりと視線を向ける。全然ヤバイという顔はしていない。


「どうしたんですか?」


「もうすぐ幹部会議の時間だわ。死音、悪ィんだけどコレの後片付け頼むわァ……」


 殺すぞお前。


 俺がその言葉を言うかどうか迷っている間に、彼は部屋を出てしまった。

 これは厄介なことになったぞ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ