RE: once upon a time : クリック? クラック!
「――― あれ? 僕……」
目覚めると、霞んだ視界の中に、見慣れた主の姿があった。
「慌てて起きるな。また目を回すぞ」
自分を覗き込んでいたらしいヒースの手を借り、アルフェンはクラクラする頭を抱えながら身を起こした。
何で寝てたんだっけ、と記憶を辿って行くうちに、みるみる顔が青ざめる。
「お、おおおお王子っ!! 王女殿下はいずこに!? お詫びしなきゃですよぉっ。僕としたことが、何て無様なぁあ!」
「……アルフェン。いい加減、“僕”と自分を呼ぶのは止めにしないか? お前は、女の子なんだから」
「へ? そんな、王子ってば。何をいまさら……」
「それと、王女のことはもういい。演劇儀礼も無事に終了していることだしな。あっちはあっちで、好きなようにやっていくだろう」
はぁあああぁ? と、アルフェンは盛大に首を捻った。
今更になって一人称を窘められる意味も、姿が見えない王女に関するコメントも、さっぱり要領を得ない。
困惑して見上げる彼女から視線を逸らした王子が、次に呟いた言葉も、意味不明なものだった。
「いっそ、こっちも〈天輪碑板〉が御膳立てしてくれると、遣り易いんだが――」
「はい?」
この恐ろしく鈍感な幼馴染を落とすのは、至難の業だ。
面倒臭がっている場合じゃない。
(――― さあ、どのあたりから始めてみよう?)
首を傾げたままでいる己の従士に視線を据えると、ヒーセリジオは珍しく、その貌に満面の微笑みを浮かべた。
彼らの天輪の新しい重なりは、まだ始まったばかり。
+ + + + + +
一つの小さな天輪が、一つ、また一つと物語の幕を閉じる。
それは、また巡り巡り、永久に巡りの輪廻を繰り返す。
まだ人が見ぬ、新たな物語の始まりへと、帰結するために―――。
本編終了です。ここまで読んで頂き、ありがとうございました!
次回は番外編で、「とある侍女の手紙」です。
更新開始までに少し間が空くと思いますが、宜しくお願いいたします。




