↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/41

最終話

 宙は緊張している様子で、深呼吸をしてから、ゆっくりと口を開いた。


「まず、一番最初に、一番大事なことを言うね。

…私、宇宙人じゃない。」


今までの宙との関係性を根底から覆すような爆弾発言に、驚きのあまり俺は大きく目を見開いた。


「…私は地球人で…ただの女子高生。

前に、天文宇宙検定の試験に行く時に、太星君のお母さんの車に乗せてもらった時に、私が自分の身の上話をしたでしょ?あれが本当の話。」


宙が、命に関わるような重い病気にかかり、幼稚園から中学校まで、病気で入院と退院を繰り返してて、ほとんど学校通えていなかったこと。

彼女の治療のために母親は退職し、父親は勤務している会社にお願いして、時間の融通が効く部署に移動して宙を支えたこと。

宙が元気になった今は、失った家族の時間を取り戻すために、なるべく一緒に過ごそうと決めて、父親の転勤について行っているということ。

作り話にしては、今の宙の状況と整合性が取れた話だと思っていたけれど...そっちが真実だったのか。


「私、ずっと入院してたから、同じ病院にいた子としか友達になれなかったし、その中の何人かは病気で亡くなってるから、今も仲が良いのは2人だけで、病気の頃から、ずっと、普通に学校に行って、普通に友達を作ることに憧れてた。

それで中学3年生のとき、やっと退院できることが決まって、中学校に通えることになったの。

ものすごく嬉しかったんだけど、実際に行ってみたら、想像と全然違った。

自分は可愛い方なのかなとは思ってたけど、想像してたよりも、注目を浴びる見た目だったみたいで、すぐに信じられない人数の男子に告白された。

もちろん、怖くて全部断ってたけど、その時点で女子たちからは印象が悪かったみたい。

それに、私、入院してたせいで、テレビもネットも見てなくて、みんなが知ってるような流行り物とか知らないことが多かったの。

そのせいで話してても会話が噛み合わなくて、気まずかったし...結局、空気が読めないうえに、男子たちにチヤホヤされて調子に乗ってるって言われて、大半の女子に嫌われてあっという間にひとりぼっちになった。

みんな、私のことを知ろうとしないのに、見た目とエピソードだけで判断して、ずっと噂されて...3ヶ月だけ通ってすぐ不登校になったの。

その時思ったんだ、こんなに皆と話が合わない私って、この地球の人間ではないのかもって...宇宙人みたいだなって。」


クラスメートに悪意のある視線を受けながら、教室でひとりぼっちの宙の姿が脳裏に浮かび、胸が痛んだ。


「...でも、お父さんとお母さんは私が元気に学校に通えるのを楽しみにしてたから、私が不登校になったことで落ち込んじゃって...

高校3年間もお父さんの転勤に付き合うのは決まってたから、転校も多くなるだろうし、通信制の高校に通うことも考えたんだけど...私が学校に通うことを期待してる両親を見てたら、それに応えたいって思ったんだ。

今後の人生で、人と関わらずに生きていくなんて、無理だろうし。

多少苦しくても、人間関係を築く勉強をしなきゃいけないんだろうなって考えて。

でも、覚悟を決めて、高校に入学したら、案の定すぐ告白されて、また中学校の二の舞になるって思ったの。

そのとき、私から距離を置いてもらうために、咄嗟に、告白してきた相手に、”私は宇宙人で、この地球を調査してるから協力してほしい”って言ってみたの。

そうすれば相手が怯むかなって思って。

そしたら、想像以上に向こうがドン引きして、ヤバい人だって思われた。

それで、私が自称宇宙人だっていう噂が広まったら、皆が私から距離を置くようになって...すごい快適になったの。

顔で興味を持たれて、不用意に近づかれるより、腫れ物に触るみたいな対応をされる方が、気が楽だった。

私には病院で仲良くなった親友が2人いるし、大好きな両親もそばにいるし…結局、それ以外の人と関係性を作る努力を放棄することにしたの。

社会勉強だと思って、高校に行くのを決めたのに、皮肉だけどね。

…だから、この学校に来るまでの3校では、私に興味を持った人に、自称宇宙人だって言って、ドン引きさせて、噂を広めてもらって、ヤバい人だと思わせて、距離を取る。

この方法で問題なく過ごしてきたから、ここでもそうしようと思った。

この学校の生徒全員が部活に入らなきゃいけないって聞いた時、1人っきりになれる屋上に自由に出入りできるからって理由で天文部を選んだ。

集団の中に入るのは揉める元になるから嫌だったんだけど、先生に聞いたら1人しか部員がいないって言ってたし、その人にさえ距離を取ってもらえば大丈夫かなって思って…そこで、太星君に出会った。」


そう話しながら俺を見る彼女の目は、優しかった。


「私が宇宙人だって言ったら、すぐに信じて、受け入れてくれて...本当にびっくりした。

嘘をついておいて、変なこと言ってるって思われるかもしれないけど、同級生とか、同世代の人に、私が言ったことをそのまま受けてめてもらえるって経験が今までほとんどなかったから...それが嬉しかった。

その時から太星君のことが気になって、仲良くなりたいなって思った。

私のことを宇宙人だと思い込んでるから、私の見た目を気にせず接してくれるし、多少変なこと言っても、宇宙人だから仕方ないかなって捉えてもらえる気がしたから、思ってることスラスラ言えて、すごい話しやすかったし...宇宙人と友達になりたかったから嬉しいって言ってるのを聞いた時に...

なんて可愛い人なんだろうって思った。

私が宇宙人だってことは秘密にしてくれて、私の協力者として頑張りたいって言ってくれて、私のことを見守ってくれるのが嬉しくて、太星君のこと、どんどん好きになっていったの。

でも、太星君が私に優しくて、仲良くしてくれるのは、私が宇宙人だと思い込んでるからだから、宇宙人だって嘘ついたこと、後悔し始めてた。」


彼女はその頃のことを思い出しているのか、苦笑いをしていた。


「どうすれば異性として意識してくれるかなっていつも考えてて、思わせぶりなことを言ってみたり、ボディタッチも多めにしてみたけど...太星君、私のこと研究対象か何かと思ってるからか、あんまりドキドキしてくれなかったし、正直焦ってた。

でも...例の3年生から体を張って私のことを守ってくれた時...協力者として、私が困ってたら助けるって言う約束を、ここまで守ろうとしてくれるんだって思って...もう、完全に好きになった。

私のことを大切にしてくれるのは、私が宇宙人で、自分がその協力者だと思ってて、義務感で頑張ってくれてるって分かったけど、それでもいいから、一番近くにいようって決めたの。

ストーカー騒動の時は、精神的にしんどかったけど、そのおかげで自然に付き合うフリができるようになって、内心ガッツポーズするくらい嬉しかった。

どんどん距離が近くなって、デートに誘ってもらえて、私のこと可愛いって、1番大事だって言ってもらえて、ものすごく嬉しかったし、幸せだった…本当に付き合えたらいいのにって何度も思った。

でも、自称宇宙人のただの嘘つきだって知られたら、がっかりされるだろうなって思って...怖くなった。

宇宙人だって嘘をついたから仲良くなれたのに、その嘘のせいで、好きだって言えなくなっちゃったのが、もどかしかった。」


宙は自分が宇宙人だと嘘をついたから、俺は自分は彼女の協力者でいようとしたから、お互いに思ってることを言えなかったんだ。


「それに、私が半年で引っ越して、転校するのは決まってたから、離ればなれになるし...今まで通り、そこでの人間関係も一緒に精算して、立ち去らなきゃいけないって思ったけど...太星君のこと、大好きになったから、もう会えなくなるのが悲しくて、辛くて...今日が来ないでほしいってずっと思ってた。

そしたら、さっき、太星が私のことが好きだって言ってくれて、忘れたくないって言ってくれて...もし記憶として忘れても、記録として残したいって、日記まで書いててくれて...もう、たまらなかった。

もし、私が嘘をついてたことでガッカリされても構わないから、自分の気持ちを伝えたいって思った。

嘘をついててごめんなさい。

そのせいでたくさん振り回してごめんなさい。

でも、私...太星君のこと、大好きです。

宇宙人じゃない私でも、好きでいてくれますか?」


彼女は目を潤ませて、泣きそうな表情をしながら聞いてきた。

彼女の話を聞いてて、ずっと驚きっぱなしで、混乱していたけど、この質問に対する答えなんて、一つしかない。


「...宙が宇宙人でも、地球人でも関係ないよ。

俺は宙のことが大好きだから。

全部ひっくるめて大好きだから。」


俺がそう答えると、彼女は両目から大粒の涙を流した。


「...嘘ついててごめんね...好きになってくれてありがとう。」


そう言った後、彼女は自分の目元をハンカチで拭ってから天を仰いでいた。

そして再び俺をまっすぐに見つめてから口を開いた。


「太星君...私の本当の彼氏になって。」

「...うん、もちろん。」


ずっと彼女の本当の彼氏になれたら、どれだけ幸せだろうと思っていた。

それが現実になったんだ。

とんでもなく、めちゃくちゃ嬉しい…本当に幸せだ。

やりとりをした後、2人で顔を見合わせて笑い合った。


「あー...良かった。」

「うん...良かった。正直、宙は宇宙人だって思い込んでたから、違ってびっくりした。」

「嘘ついてごめんね...でも、あまりにも信じ込んでるからびっくりしちゃったよ。太星君って宇宙のことが絡むと本当に純粋だよね。」


そう言ってイタズラっぽく笑う宙を見て、確かにどうしてここまで信じ切っていたんだろうと思って、今までのことを振り返っていた。


宙の話す宇宙人の説明が、やたらと細かいし、デティールも凝っていたし、俺からの質問にもすらすら答えるから本当のことだって思い込んでたけど、あれも彼女があらかじめ詳細に決めていた設定なのだろう。

宙の手がとても冷たいのは、そもそも冷え性なのかもしれない。

宙と初めて屋上に行った時、冷たい風が通り過ぎたのも、偶然なんだろう。

例の3年生に絡まれた時、急に彼が体勢を崩して、非常ベルのボタンを押してしまったのも、たまたまなんだろう。

文化祭の片付けの時に、俺のいたところだけスプリンクラーが作動したのも、ただの機械の不具合なんだろう。

亜子ちゃんが好きなアニメが分かったのも、何かしらの手段を使ったんだろう。

プラネタリウムで投影される宇宙空間を見て、懐かしそうな表情をしていたのも、俺がそう思い込んでいただけなんだろう。

9月から3月まで、全ての第1、3金曜日が晴れで、天体観測ができたのも幸運だっただけなんだろう。


...こう考えていると、だんだん疑問が生じてきた。

本当に全部偶然などで片付けていいんだろうか。

一つ一つがたまたま起きたことだったとしても、全てが彼女の身の回りで起こっているわけで…やっぱり何かしらの力が働いているんじゃないだろうかと思ってしまう。

そのとき、かつて彼女が言っていたことを思い出した。


“もし調査員がどうしてもその星に残りたいと申し出た場合は、調査員の記憶を改竄して、自分が宇宙人だった記憶を消して、元々その星で生まれた存在だってことにする。

そうすれば、我々の機密が漏れることはない。”


...もしかして、俺のことを好きになって、地球に残りたいと申し出た宇宙人の彼女が、宇宙人としての記憶を失って、自分は元々地球人だったと思い込んでるのではないだろうか。

その方が辻褄が合うんじゃないだろうか。


「...せい君、太星君、どうしたの?聞いてる?」


俺が考え込んでいる様子を不思議そうな表情で見ていた宙が俺のことを呼んでいる。

それは分かってるけど、俺は自分の思考に飲み飲まれていた。

俺のせいでもしかして、1人の宇宙人を、地球人に変えてしまったのか?


「太星君、キスしていい?」

「えっ?!」


急にあまりにも衝撃的な提案をされたので、一気に現実に引き戻された。

驚いて彼女のことを見ると、彼女はほっとしたように笑った。


「やっとこっち見てくれた。

ずっとなんか考え込んでるみたいで上の空だったから、びっくりするようなことを言えば、意識戻ってくるかなって。」

「...なんだ、そっか...本当かと思ってびっくりしちゃった。

あ、別にびっくりしただけで、嫌とかじゃないんだけどね。」


彼女と話しながらも、俺の思考は、彼女は元々宇宙人で俺のせいで運命が変わってしまったのではないかということに再び戻ってしまっていた。

またしばらく俺が黙っていると彼女が俺に顔を近づけてきた。

唇に柔らかいものが触れて、キスされたのだと気づいた。

俺は驚いて目を見開いた。

唇が離れた後、目を閉じていた彼女は俺のことを見つめてゆっくりと微笑んだ。


「さっき、ちゃんと同意は取ったからね、嫌じゃないって...これからもよろしくね、太星君。」


そう言って頬を赤く染めながらイタズラっぽく笑う彼女はこの世のものとは思えないほど、信じられないくらい可愛かった。

...こんなに可愛い人間が地球上に存在するはずがない。

やっぱり彼女は宇宙人だったのだろうと俺は思ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。