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スイスの会社に雇われて、アルジェリアで先生になった件について ~日本人はぼく一人。生徒は砂漠のプラント技術者たち~  作者: Ryoichi


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真夜中に荷物を運び出したら、泥棒だと噂された

その1「新居発見」


 ぼくはハッシという村に、ヤイと同居していた。でも早々に引っ越しすることになった。次の住居を探さなければならない。


 やがてヤイは新しい住まいを見つけた。場所は、ハッシから5キロも離れていない港町アルズー。しかもそこには、フランスから家族を呼ぶという。ここの大家は人の好い、おおらかな性格だった。現代的感覚をもち、外国人に理解がある。


 大家の家族構成は複雑だ。主人と奥さん、息子ひとりと娘ふたり。それに叔父、めい、おい、いとこ、はとこがいる。11人のビッグファミリーだ。


 賃貸契約を交わしたあと、すぐに引っ越しが決まった。ただしヤイの家族が到着するまで、ぼくもいっしょに住むことになった。



その2「引っ越し」


 ぼくらはすばやく転居した。引っ越しといえば、ふつう週末におこなうもの。だがぼくらは可能とあれば、1日も待ちたくない。深夜に家財道具をまとめ、音も立てずに出ていった。ハッシの大家のうるさい監視から逃れるためだ。といっても荷物は、スーツケースと台所用品ぐらい。それでも会社の小さな車に乗せると、2人分の荷物でいっぱいになった。


 あとで近くに住んでいた同僚から、こんな話を伝え聞いた。


「近所でうわさになっているぞ。

『真夜中にこっそり荷物を持ち出した。あいつら、まるで泥棒みたいだった』

 って。もし同僚だとばれたら、おれも泥棒仲間にされてしまう」



 新居のふたりの娘たちは、姉が17歳で妹が13歳。ひんぱんにぼくらの家にきては、炊事洗濯を献身的にしてくれる。そこは個人主義のフランス人とは違う。


 他人の世話を焼く。外国人への興味なのか、あるいはそうするものだという習慣からか。男ふたりだけで住んでいるなら、世話をするのは当たり前だと思っている。


 今回はどうしたことか、ヤイは娘たちに手を出さない。娘たちが若すぎるのか、それとも家族を呼ぶのでトラブルの種をまきたくないのか?


 とにかく妙におとなしい。新居に移ると、ジェミラやファティマも以前ほど訪ねてこなくなった。


 大勢の中で暮らすとプライバシーがなくなる。出入りが自由になってしまう。誰がいつやってきて、いつ帰ったのか、はっきりしなくなる。ハッシでは、大家の家族やヤイの女友だちが勝手に入ってきて、勝手に出ていった。


 ぼくは、日本でもそういう例を知っている。大学のすぐ近くにアパートを借りた友人の部屋は、たまり場になっていた。いろんな人間が立ち代わり入れ代わりやってくる。友人のプライバシーはなくなった。


 ハッシでは、自分と他人の部屋の区別もついてなかった。大家の家族が押し入れや引き出しを勝手に開ける。そうじや整理をしていた。親切というよりおせっかいだ。他人の部屋という概念がない。


 この新居でのふたりの娘も、最初はそうかなと思っていた。しかし今回は一応けじめがついている。出入りするのは台所と居間に限られている。プライバシーの概念があるようだ。そのうち友だちとか親せき、父親がきては帰るようになった。やがてぼくたちも大家の母屋に入りびたるようになった。もちろんぼくらも入るのは、居間だけだ。



その3「アルジェリアの子どもたち」


 近所を見ていると、どの家にも多くの子どもたちが出入りしている。どの子の親が誰なのか、よくわからない。彼らの考えかたの中に、こんなのがあると聞いた。


「子どもは国の宝」


 だから自分の子も他人の子も同じようにかわいがり、しかる。そういえば日本でも1950年代ごろまではそうだったように思う。


 あるとき、近所の赤ちゃんを抱かせてもらった。


「日本で抱いたとき、突然泣き出されて困ったんだ」


 と1度は断った。けれどその母親は


「いいから、いいから」


 と、ぼくの腕に彼女の子を無理矢理渡した。そこで気づいたのは、アルジェリアの赤ん坊は人見知りをしないってこと。そのあと何人もの赤ん坊を抱いたが、一様におとなしくニコニコしていた。しかも母親に戻りたがるそぶりも見せない。


 イスラムといえば、閉鎖的と思われがちだ。とくに女性は外出時にベールをまとい、近づきにくいイメージがある。ところがいったん家に入ると、とても開放的で親しみやすい。赤ん坊だって抱かせてくれる。


 宗教的タブーにしばられているように見えて、実際は好奇心旺盛だ。大胆な行動も起こす。とくに外国人に対しては異常に興味をもつ。何人もの母親が赤ちゃんを抱かせている間、ぼくにいろいろな質問をしてきた。


「最初にアルジェリアにきたとき、どう思いました?」

「アルジェリアのいい点、悪い点を教えてください」

「アルジェリアで好きな料理は何ですか?」

「日本ってどんなところですか?」

「他にどんな国にいったことありますか?」


 彼女らは、全員ママさんインタビューアーだった。



その4「アルジェリアのネコ」


 違うのは、赤ん坊だけじゃない。


 ネコもそうだった。日本の野良ネコは、人を見るとまず身構える。こちらの様子をうかがっては、逃げる機会を見計らっている。これはふだんから子どもにもいじめられているから、自然とこういう習性になったわけだ。


 相手が子どもだけとは限らない。日本では酔っぱらいが、ネコに石を投げるのを見た。それも何度もだ。


 弱者を傷つける行為が、子どもも大人も当たり前の国。これは、社会全体にかなりストレスがたまっている証拠。日本は先進国だと自負するが、病んだ国としてもかなり先に進んでいる。


 その点、ここのネコはめったに逃げない。身構えることすらしない。手を差し出すと


「ミャー」


 といって近寄ってくる。1匹、2匹ではない。アルジェリアのほとんどのネコがそうだった。国民性が違えば、ネコの性格まで違うのかと驚いた。


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