最終話 重なった想い
「アドリナが!?」
「はい、先程先触れが届きました」
執事が僕の部屋にやってきて、アドリナから先触れが届いた事を伝えにきた。
「…到着されたら応接室にご案内してくれ」
「かしこまりました」
執事が出て行くと、僕は応接室へと向かった。
もしかして…『白い結婚』に関して覚書を求められるのでは…
いや、それよりライラとの関係をきちんと弁明しなければ。
「……」
彼女に突き放され、改めて自分の行動を省みた。
もし自分が彼女の立場だったら…そう考えたらどれだけ彼女にひどい事をしていたのか、ようやく気付いた。
今更だ…本当に今更だけど…なんて愚かな事をしたのだろう…
応接室に入ると僕は力なくソファに腰を下ろした。
コンコンコン
「失礼いたします。ランベール様がお見えになりました」
「お通ししてくれ」
僅かの間をおいて、アドリナが入って来た。
「…お時間を頂き、ありがとうございます」
彼女は恭しく一礼した。
けどその口元に笑みは見られない…
向かい合わせに座っているが僕は彼女を見る事ができず、目の前ある気の抜けた湯気を燻らしているティーカップを見つめていた。
今彼女は、どこを見ているのだろう…
いや、それよりもまずは彼女に謝罪したい。
「…アドリナ…すまなかった…今まで僕は…」
「3つお約束して下さい」
「え?」
言葉を遮られ、何を言われるのか分からず、僕は戸惑った。
「まず、コーヒーに入れる砂糖とミルクはもっと控えるようにして下さい。糖分の摂りすぎです」
「は、はい…」
「それと無理に動物に慣れようとしないで下さい。ケガまでされなくていいんです」
「……はい」
「あと……もう二度と私の気持ちを試すような事、しないで!」
「………二度と……二度としません……」
アドリナが話す度に、僕の頭は徐々に徐々に項垂れて行った。
「約束して頂きたい事は以上です。それから……本当に…ライラ様の事…す、好きではなかったのですか?」
彼女の言葉に、僕はハッと顔を上げた。
「本当の本当は彼女の事が…「ありえないよ」
彼女の言葉に、自分の言葉を被せる。
「本当の本当にライラの事を異性として見た事はただの一度もないよ。それはあいつも同じだ。あいつはずっとテレンス…僕の友人なんだけど…ライラはそいつの事が好きだったから」
僕の話を聞くと、アドリナは小さく息を吐いた。
「……最後に」
「さ、最後?」
アドリナの言葉に、僕は一瞬焦った。
彼女は手元にあったポーチから何かを出すと僕の隣に座り、一枚の紙を見せた。
それはあの絵画展の半券だった。
僕も持っている。
君との想い出を残したくて。
君も…同じ思いで残してくれた…?
「あなたの…気持ちを聞かせて下さい…」
僕は気持ちを引き締めるように姿勢を正した。
「アドリナ……絵画展で出会った時から僕の心の中には君がいた。顔合わせの場で再会した時は、柄にもなく運命だと思ったよ。そして君と会う度に、惹かれていった」
「クレマンド様…」
「君が好きだ、誰よりも…。なのに僕は馬鹿な事をして君を傷つけた…本当にごめん…」
彼女の小さな手が、僕の手に優しく触れる。
「…私も…私もあなたの事が好きです」
美しいアプリコットの瞳を潤ませながら、顏が綻ぶアドリナ。
人形のように張り付いた微笑みではなく、春の日差しのようにやさしくあたたかな微笑み。
「あ、でもっ 罰として、絶対に犬王国を作って下さいね!」
「えっ あ、ぜ、善処します…っ!」
アドリナが楽しそうに笑う。
僕が見たかった笑顔だ。
僕たちは、互いに祈るように手を握り合った。
君と僕との吐息が重なる…
想いが重なる ―――――
【終】




