↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/121

外伝:ポーカーゲーム

今回の話、会話文の所が少しわかりにくいため「」の前にキャラの名前の一部を書いています。

リュート→リ

ルーベルト→ル

セラフィナ→セ


俺はアイテムボックスを開き、中を探った。村にいた頃、暇つぶしに作った手製のカードだ。厚紙を切り出して、インクで数字とマークを書き込んだだけの代物で、お世辞にも出来がいいとは言えない。でも、一応ちゃんと使える。


リ「あった」


取り出したカードの束を見て、セラフィナが目を細めた。


セ「なんか、思ったより雑ね」


リ「文句言うな。俺が手作りしたんだから」


セ「絵柄が微妙すぎる」


リ「うるさい黙れ。」


ルーベルトがカードを一枚手に取り、表裏をしげしげと眺めた。


ル「これ、全部一人で作ったの?」


リ「そう。村の子どもたちと遊ぶために作ったやつだ。結構使い込んでるから、端っこが少し丸くなってるけど」


ル「へえ」


セ「で、何して遊ぶの?」


セラフィナが身を乗り出してきた。骨折した腕の方を庇いながらも、目だけがやけに生き生きしているな。


リ「そうだな・・・テキサスホールデムポーカーはどうだ?色々と有ってハマったゲームなんだが・・・」


セ、ル「「ぽー・・・かー・・・?」」


二人の声がきれいに揃った。てことは、ポーカーという言葉自体、この世界には存在しないらしい。まあ、そりゃそうか。


リ「カードを使ったゲームだ。運と、心理戦と、少しの計算が必要になる。俺がディーラーをやるから、二人で対決してみて」


セ「面白そう」


リ「ルーベルトはどうだ?」


ル「やってみる。でも、ルール全然知らないよ?」


リ「説明するから、耳の穴かっぽじいて聞いとけよ。一回しか説明しないから」


俺はカードをシャッフルしながら、二人に向かって説明を始めた。


リ「まずカードの強さから。数字が大きいほど強い。一番弱いのが2で、一番強いのがA。それから、絵柄は四種類あって、ハート、スペード、ダイヤ、クラブ。ただし、絵柄自体に強い弱いはない」


セ「ふんふん」


リ「テキサスホールデムは、手札が二枚と、場に共通して出る五枚のカードを合わせた七枚の中から、最強の五枚の組み合わせを作るゲームだ。その組み合わせの強さで勝負する」


ル「組み合わせって、どういうこと?」


リ「例えば、同じ数字が二枚揃ったら『ワンペア』。三枚揃ったら『スリーオブアカインド』。五枚全部が同じ絵柄なら『フラッシュ』。連続した数字が五枚並んだら『ストレート』。この辺が基本的な役だな」


俺はカードを数枚テーブル代わりのベッドの上に並べながら、実際に見せていった。


リ「全部で役は十種類ある。一番弱いのが役なし、つまり『ハイカード』。一番強いのが『ロイヤルストレートフラッシュ』。10、J、Q、K、Aの同じ絵柄が五枚揃った状態だ。これが出たらほぼ勝ち確」


リ「ほぼ勝ち確?ほぼってことは負けることもあるの?」


セ「いや、向こうもロイヤルストレートフラッシュを出したら、引き分け・・・『チョップ』となるから、負けは絶対にないね」


セ「悪くても引き分けってことか」


リ「ま、そうだね。起きたら確率がやばいことになるけど。」


今の所、二人ともゲームのルールを理解できているみたいだな。


リ「次にチップの話だ。本来は賭けに使うものだが、今回は点数制にしよう。二人に五十点ずつ渡して、俺がそのカウントをする」


ル「チップがないから、紙に書いて代用でいい?」


リ「そうしよっか」


俺はルーベルトのベッドの脇にあった羊皮紙の端切れと、インクを借りて、それぞれの点数を書き込んだ。セラフィナ五十点、ルーベルト五十点。


リ「ゲームの流れはこうだ。まず、二人に手札を二枚ずつ配る。この手札は相手に見せるな。それから、最初の賭けが始まる」


セ、ル「「賭け?」」


リ「今回はポイントで代用する話だ。最初に、一定のポイントをテーブルに出す。これを『ブラインド』という。それから、自分の手札を見て、コールするかレイズするかフォールドするかを選ぶ」


ル「それぞれ何が違うの?」


リ「コールは、相手と同じポイントを出して勝負を続けること。レイズは、さらに上乗せして相手にプレッシャーをかけること。フォールドは、手札を捨てて降りること。ポイントは失うが、それ以上の損は出さずに済む」


セ「つまり、弱い手だと思ったら早めに降りた方がいいってことね」


リ「そう。でも、わざと弱い手のふりをして相手を降ろすのも戦略の一つだ。それが心理戦になっていく」


セラフィナの目がさらに鋭くなった。心理戦という単語を聞いた途端、口の端が少し上がっているし。


リ「場にカードが三枚出たところでまた賭け、四枚目が出てまた賭け、五枚目が出て最後の賭け。全部終わったら手札を開いて、強い組み合わせを作れた方が勝ちだ。ポイントをゼロにされた方が負け」


セ、ル「「分かった」」


二人の返事はキレイに重なっていたが、声のトーンが全然違った。ルーベルトは完璧に理解した声で、セラフィナは既に戦闘モードに入っている声だった。


リ「じゃあ、始めるぞ」


俺はカードを再び丁寧にシャッフルし、それぞれに二枚ずつ配った。


リ「手札は見ていいが、相手には絶対に見せるなよ?」


二人がそれぞれカードを手に取った。

セラフィナの表情が一切動いていない。完璧な無表情だ。此奴、この手のゲーム初めてだろうにもうポーカーフェイスを使ってる。


ルーベルトの方は、カードを見た瞬間に眉が少しだけ動いた。悪い手か、あるいは良すぎる手か。どっちかだろう。


リ「ブラインドは五点ずつ出してくれ」


二人が点数を書き込んだ紙の上に、それぞれの分を書き足す。


リ「セラフィナから。コール、レイズ、フォールド、どれにする」


セ「レイズ。十点追加」


即答だった。

俺は内心で苦笑しながら、ルーベルトの方を見た。


リ「ルーベルトは?」


ルーベルトはしばらく、セラフィナの顔を見ていた。セラフィナは相変わらず無表情で、手札を伏せたまま指先でテーブルを軽く叩いている。


ル「・・・コール」


リ「よし。じゃあ場に三枚出す」


俺はカードを三枚、二人の間に表向きで並べた。

7のハート、Kのスペード、3のダイヤ。

セラフィナがそれを一瞬だけ見て、すぐに視線をルーベルトに戻した。


リ「次の賭けだ。ルーベルトから。コール、レイズ、フォールドの三択で頼む」


ル「じゃあ、コール。五点」


リ「セラフィナは?」


セ「レイズ。さらに十点」


リ「うわ、えげつな。」


セラフィナのえげつなさに思わず呟いてしまった。


セ「何か言った?」


リ「何も?。・・・ルーベルトは?」


ルーベルトは少しの間黙り込んだ。その間もセラフィナは一切微動だにしない。無表情のまま、ただひたすらルーベルトを見ている。


ル「・・・コール」


セ「続けるのね。」


ル「うん。」


セ「強気だね。」


ル「そっちこそ。」


俺は四枚目のカードを場に出した。

Aのハート。

ルーベルトの視線が一瞬だけそのカードに止まった。止まった、というより、吸い寄せられた、という感じだったが。


リ「ルーベルトから」


ル「・・・レイズ。十点」


今度はルーベルトが先に動いた。

セラフィナが、初めて僅かに目を細めた。


セ「レイズ。二十点上乗せ」


リ「え、強気すぎない?」


思わず声が出た。ルーベルトも少し目を丸くしている。


セ「何か問題でも?」


リ「いや・・・ルーベルトは?」


ルーベルトは自分の点数を確認した。残り十点を切っている。


ル「・・・コール」


リ「全部出すのか」


ル「うん。ここまで来たら」


俺は最後の五枚目を場に出した。

Aのクラブ。

Aが二枚並んだ。場にAが二枚。つまり、手札にAがある方は自動的に強い役が完成する。


リ「最後の賭けだ」


セ「フォールド」


セラフィナが静かに言った。

ルーベルトが手札を開いた。AとKだった。場のAと合わせて、スリーオブアカインド。


リ「セラフィナ、手札見せてくれ」


セラフィナは無言でカードを裏返した。

KとKだった。

場のKと合わせても、スリーオブアカインド。でも、数字ではAの方が強い。


リ「ルーベルトの勝ちだね」


セ「・・・やるね」


セラフィナが口の端を少しだけ動かした。


ル「僕もびっくりした。最後のAが来なかったら、たぶん負けてた」


リ「でも来た。それも実力のうちさ」


ル「そういうもの?」


リ「そういうもの。」


俺はポイントを書き直しながら、小さく笑った。


セ「もう一回やる。」


セラフィナが即座に言った。


リ「やるけど、今度はもう少し落ち着いてやれよ。序盤からレイズしすぎだ」


セ「それが戦略でしょ?」


リ「相手を読んでから使う戦略だろ、それは」


セ「うるさい。早く配れ。」


リ「横暴だな・・・」


俺はもう一度カードをシャッフルし始めた。







――――――――――—————







三試合目が終わった頃には、二人の動きが明らかに変わっていた。


最初の頃のルーベルトは、手札を見るたびに表情がわずかに動いていた。良い手が来ると眉が緩み、悪い手だと指先が微かに止まっていた。セラフィナはその癖を二試合目の途中で見抜いて、三試合目では徹底的にそこを突いてきた。結果、三試合目はセラフィナの圧勝だった。

しかし四試合目から、ルーベルトが変わり始めた。


リ「それじゃ、配るぞ」


五試合目。

俺はカードを二枚ずつ配った。

ルーベルトがカードを手に取る。その時のルーベルトの表情は一切動かない。四試合目が終わった後、少しの間だけ目を閉じて、それから何かを切り替えたような顔をしていた。ルーベルトは多分本気で行くつもりなんだな。


セラフィナがカードを確認した。いつも通りの無表情だ。指先が微かにカードの端を撫でた。


リ「ブラインドは五点ずつ。セラフィナから」


セ「コール」


今度は抑えてきた。序盤からレイズを連発するのをやめたのは、俺が言ったからではなく、自分で判断したのだろうな。


リ「ルーベルトは・・・」


ル「・・・コール」


ルーベルトは少し間を置いてから答えた。カードをもう一度確認するような素振りはなかった。すでに手札の内容は頭に入っているみたいだな。迷っているのは、セラフィナの動きをどう読むか、だ。


俺は場に三枚を並べた。

9のスペード、4のハート、Jのダイヤ。


セ「じゃあ、コール」


リ「ルーベルトは?」


ルーベルトは場のカードを一枚ずつ、ゆっくりと見た。


ル「レイズ。十点」


セ「・・・」


セラフィナが、初めて少し間を置いた。二、三秒程度だったが、これまでの即答と比べると明らかに違うな。


セ「コール」


リ「四枚目」


2のクラブ。

地味なカードだったな。どちらかの役に直接絡む可能性は低いか。


ル「コール。五点」


セ「へぇ・・・」


ル「何?」


セ「別に~」


リ「最後の一枚」


Jのスペード。場にJが二枚並んだ。

ルーベルトの表情が、一瞬だけ動いた。ほんの微かな変化だったが、俺の位置からは見えた。目の焦点が、場のカードの上で一瞬止まった。

セラフィナ、それを見逃さなかった。


ル「コール。五点」


セ「レイズ。残り全部」


病室が、しんと静まった。


ル「・・・」


セラフィナの残りポイントは十三点だった。全部突っ込む、ということは、もう後がない賭けっぽい。


ルーベルトは手札を見ない。セラフィナを見ている。


セラフィナは何も言わない。ルーベルトを見ている。


リ「ルーベルト、どうする?


ル「・・・一つだけ聞いていい?」


セ「どうぞ」


ル「さっき、場にJが来た時、セラフィナは何も表情が変わらなかった」


セ「そうね」


ル「なんで?」


セ「なんでって」


ル「Jが二枚並んだ。普通なら、有利になったか不利になったか、どちらかの反応が出る。でも、君は全く変わらなかった」


セ「・・・」


ル「表情が変わらなかったのは、二つの可能性がある。一つは、もともとJに関係ない役を狙っていたから。二つ目は、Jが来ることを最初から想定していたから」


セ「賢いね。」


ル「どっちなの?」


セ「さあ。どっちだと思う?」


ル「・・・」


ルーベルトは、静かに手札を裏返した。

フォールドだった。

セラフィナが手札を開いた。

5のハートと、8のダイヤ。

役なし。完全なハイカードだった。


ル「・・・ブラフだったのか」


セ「うん。」


ル「最初から?」


セ「最初から。手札見た瞬間に、これはブラフで押すしかないと思った」


ル「じゃあ、序盤のレイズも?」


セ「弱い手の時こそ強く見せないといけないから。ゆっくり動いたら、逆に弱さがバレる」


ル「・・・なるほど。」


ルーベルトは、少しだけ悔しそうな顔をした。悔しいというより、納得と悔しさが半々になった顔だな。


リ「セラフィナの勝ちだ。ポイント移動する」


セ「やっと取り返してきた・・・」


ル「でも、まだ差があるよ」


セ「知ってる。だから次もやる」


リ「今度こそコールとレイズの使い分けをちゃんとしろよ。序盤からレイズ連打は、そのうち読まれる」


セ「読まれたら、その時はおとなしくコールする。それだけ」


リ「単純すぎる。」


セ「でも、さっき勝ったでしょ?」


リ「今回は、な。」







――――――――――—————








六試合目。

配り終えた瞬間、ルーベルトの手が止まった。

カードを手に取り、ちらっと見た。その視線の時間が、これまでより少し短かった。

セラフィナは手札をほとんど見なかった。一瞬だけ確認して、すぐに伏せた。


ル「ブラインドの追加。十点レイズ」


今度はルーベルトが先に動いた。


セ「・・・コール」


珍しくセラフィナが間を置いた。


リ「場に三枚」


Qのハート、Qのクラブ、6のスペード。

Qが二枚並んだ。


ル「レイズ。十五点」


セ「・・・」


セラフィナは場のカードを見た後、すぐにルーベルトの方を見た。


セ「コール」


リ「四枚目」


Kのダイヤ。


セ「レイズ。二十点」


ル「・・・」


今度はルーベルトが黙り込んだ。

場にQ、Q、K。セラフィナが二十点を上乗せした。


ル「コール」


セ「迷ったね?」


ル「うん。」


セ「なんで迷ったの?」


ル「それ、さっき僕が聞いたやつ」


セ「ルール違反じゃないって、自分で言ったじゃない」


ル「・・・Kが来た時に、君がレイズしたから」


セ「それで?」


ル「場にQ、Q、K。君がKを持っているなら、フルハウスになる。でも、Qを持っているなら、スリーオブアカインドかフォーカードになる可能性がある」


セ「それで、どっちだと思った?」


ル「Kだと思った。だから、コールした」


セ「なんで?」


ル「Qを持っているなら、もっと早い段階でもっと強気に出るはずだから。序盤のコールが、少し弱気に見えた」


セ「なるほどね」


ル「違った?」


セ「最後まで見てみれば分かるよ」


リ「最後の一枚」


6のハート。

場が、Q、Q、K、6、6になった。

QとQと6と6。場にツーペアが完成している。


セ「レイズ。残り全部」


ル「・・・」


ルーベルトの視線が、場のカードを一枚ずつ辿った。

Q。Q。K。6。6。


ル「ねえ、一つ確認させて」


セ「ど~ぞ」


ル「さっき、Kが来た時に君がレイズした。今度は6が来て、また全部レイズした。この二回のレイズには、一貫性がある?」


セ「・・・どういう意味?」


ル「場に有利なカードが来るたびに大きく動いているなら、一貫してる。でも、さっきのKの時のレイズが本当にKを持っていたからなら、今の6のレイズと矛盾する」


セ「どうして矛盾するの?」


ル「場にQが二枚、6が二枚ある。もし手札にKを持っているなら、今の場で作れる最強の役はフルハウスだ。それなら全部出すのは分かる。でも、もし手札に6を持っているなら、スリーオブアカインドかフォーカードになる。その場合も全部出す理由はある」


セ「なら、どっちでも全部出すじゃない」


ル「そう。だから、問題は別のところにある」


セ「・・・」


ル「君が序盤にコールで控えめに動いたのは、手札が弱かったから。それは分かる。でも、Kが来た時点でレイズに切り替えた。これが本当にKを持っていたからなら、序盤の弱気と矛盾しない。でも、Kを持っていないのにKが来た時点でレイズしたなら、それはブラフだ」


セ「・・・ふむふむ。」


ル「今の6のレイズが本物なら、手札に6がある。でも、手札に6があるなら、序盤に弱気に動く理由がなかった。場に6が来るまで待っていたとしても、Qが二枚来た時点で動くはずだ。だから、今の全部レイズは、ブラフの可能性が高い」


セラフィナは何も言わず、表情を変えない。


ル「コール」


セラフィナが手札を開いた。

Kのスペードと、Kのハート。

手札にKが二枚。場のKと合わせて、スリーオブアカインド。


ルーベルトが、静かに手札を開いた。

QのダイヤとQのハート。

場のQと合わせて、フォーカード。


ル「・・・読み間違えた。」


セ「そ~だね~」


ル「Kが二枚あったんだ」


セ「そう。序盤に弱気に動いたのは、最初の三枚の場に関係なかったから。関係ないカードが揃っている時に無理をする必要はない。Kが来た時に初めてレイズした」


ル「・・・なるほど」


ルーベルトは小さく息を吐いた。悔しさと感心が、入り混じった顔だ。


リ「ルーベルトの勝ち。ポイント移動」


セ「ゑ?」


リ「フォーカードの方が、スリーオブアカインドより強い」


セ「・・・あ!そうだった・・・」


セラフィナがポーカーをやり始めて、初めて表情を崩した。


ル「読み間違えたけど、手役で勝ってた。」


セ「・・・複雑ね」


ル「僕も複雑だよ。自分の推理が外れてたのに勝ってるから」


リ「それがポーカーだ。読みが当たっても、役が弱ければ負ける」


セ「じゃあ、読みの意味は?」


リ「相手をフォールドさせるためにある。役で勝てない時に、読みで補う。役でも勝てて、読みでも勝てたら、それが一番いい」


セ「・・・なるほど」


セラフィナは腕を組んだ。折れた方の腕をそっと庇いながら、深く考え込むような顔をしていた。


セ「もう一回」


ル「うん」


リ「分かった・・・が、セラフィナお前は家(城)抜け出してるだろ。そろそろ、父上にばれるんじゃないのか?」


セ「そうだった・・・じゃあ、あと一回だけ。」


リ「お前が言うあと一回は信用できないんだよな。」


セ「今度こそ本当にあと一回」


ル「僕も、あと一回だけならいいかな」


リ「・・・分かった。じゃあ本当に一回だけな」







――――――――――—————









リ「最後の試合だから、特別ルールを追加する」


セ「特別ルール?」


ル「何?」


リ「イカサマあり。」


セラフィナとルーベルトがそれぞれ顔を見合わせた後、同時に俺の方を見た。


リ「手札を一枚だけ、こっそり別のカードに入れ替えてもいい。ただし、バレたらペナルティとして、その時点での賭けポイントを全部相手に渡す。試合自体は続行できる」


セ「イカサマがバレても続けられるの?」


リ「そう。ペナルティを払えばいい。あくまで、バレなければ得で、バレたら損というだけだ」


ル「バレるかどうかの判定は?」


リ「相手が『イカサマだ』と宣言すれば、そこで手札を開示する。中身が入れ替わっていたら、イカサマ成立でペナルティ。入れ替わっていなければ、宣言した方がペナルティを払う」


セ「つまり、誤審も罰則あり」


リ「そう。無闇に叫べない」


二人は少しの間、黙っていた。

セラフィナは口の端を僅かに上げ、ルーベルトは静かに目を細めた。


セ「面白いじゃない」

ル「・・・難易度が上がるね」

リ「そういうこと。じゃあ、最後の試合を始める」


現在のポイントはセラフィナが二十九点、ルーベルトが七十一点。

俺はカードをシャッフルし、それぞれに二枚ずつ配った。


二人が手札を確認する。

セラフィナの視線が、一瞬だけ手札に落ちて戻った。

ルーベルトは手札を見た後、テーブルの上に伏せ、視線をセラフィナに向けている。


リ「ブラインド五点。セラフィナから」


セ「レイズ。十点」


ル「・・・コール」


リ「場に三枚」


8のクラブ、3のスペード、10のハート。


セ「コール。五点」


珍しくセラフィナが大人しい動きをしている。

ルーベルトがその瞬間、右手を自分の手札の上にそっと置いた。

正確には、ほんの一瞬だけ触れたって感じなんだけども。


セ「・・・」


セラフィナの視線が、ルーベルトの手元に向いたが、すぐに戻った。


ル「コール」


リ「四枚目」


Aのダイヤ。


ル「レイズ。十五点」


セ「・・・イカサマ宣言」


ルーベルトは無言のまま、手札を表に向けた。

7のハートと、Aのスペード。


セ「・・・入れ替えてない」


ル「うん」


セ「じゃあ今の手の動きは」


ル「なんとなく触っただけだよ」


セ「・・・」


リ「セラフィナ、誤審ペナルティ。今の賭けポイントをルーベルトに渡しな」


セ「分かってる。」


セラフィナは点数を移動させた。その顔は、完全に無表情だった。怒っているのか、冷静なのか、全く読めない。


ル「真理視(ヴァニタス・アイ)でも分からなかった?」


セ「イカサマをしているかどうかは分かる。でも、しようとして結局しなかった場合は、判断が難しいね」


ル「つまり、僕がイカサマをしようとしたのは分かった?」


セ「・・・」


ル「面白いね。イカサマをしようとして、やめる。それだけで、相手の判断を狂わせられる」


セ「最初からそれが目的だったでしょ?」


ル「どうだろう・・・」


ルーベルトは微笑んだ。いつもの穏やかな笑顔だが、今は少しだけ違う色が混じっているように感じた。


リ「続けるぞ。最後の一枚」


Jのクラブ。

場が8、3、10、A、Jになった。


セ「レイズ。残り全部」


ル「・・・」


ルーベルトは場を見た。8、3、10、A、J。手札にQと9があれば、Aを含む一番強いストレートが完成する。


ル「イカサマ宣言」


セ「・・・」


セラフィナは無言で手札を開いた。

Qのスペードと、9のダイヤ。

ストレート完成。イカサマなし。


ル「・・・そうか」


リ「ルーベルト、誤審ペナルティ」


ル「分かった」


ポイントが移動された。


ル「真っ当に最強の役を持っていたのに、イカサマを疑ってしまった」


セ「疑わせるのも戦略のうちよ。ここ何試合か、私がブラフを多用してたから、強い手でも疑ってもらえると思った」


ル「・・・なるほど。過去の行動で印象を作って、それを利用した」


セ「そういうこと」


ル「でも、手役で僕が負けたわけじゃない」


リ「そうだな。ルーベルトの手札を見せろ」


ルーベルトが手札を開いた。

KのハートとKのスペード。

場のカードとの組み合わせでは、ワンペアだ。ストレートには負ける。


リ「セラフィナの勝ち。ポイント移動」


セ「やっと追いついてきた」


現在のポイントはセラフィナが五十二点、ルーベルトが四十八点。逆転していた。


リ「次の配りをする前に確認するが、二人ともまだやるか」


セ「当たり前でしょ」


ル「うん。ここで終われない」


リ「まじかよ・・・」


此奴ら、ハマりすぎだろ。


俺はシャッフルをしながら、二人の様子を観察した。セラフィナは表情こそ動かないが、目の奥に鋭い光が宿っている。ルーベルトは穏やかな顔をしているが、先ほどから手の動きが少しだけ変わった。より慎重になっている。


配り終えた。

二人が手札を確認する。

ルーベルトがカードを見ても、今の此奴は表情に出さない。それを意識してやっている。

セラフィナは手札をほとんど見なかった。一瞬だけ確認して、すぐに伏せた。今度はルーベルトの手元を見ている。


リ「ブラインド五点。セラフィナから」


セ「コール」


ル「・・・コール」


リ「場に三枚」


5のダイヤ、5のクラブ、Kのスペード。

5が二枚並んだ。


ル「コール。五点」


セ「コール」


二人とも今回は静かに動いている。嵐の前の静けさのような空気だな。


リ「四枚目」


Kのダイヤ。

KとKと5と5が場に並んだ。ツーペアが場に完成している。


その瞬間だった。

ルーベルトの手が、ほんの少しだけ手札の方に動いた。


セ「・・・今の動き、イカサマ?それともフェイク?」


ル「どっちだと思う?」


セ「・・・」


セラフィナは真理視(ヴァニタス・アイ)を発動し、ルーベルトを静かに見つめた。


セ「フェイク。さっきと同じ手口」


ル「正解」


セ「でも、今度は宣言しない」


ル「なんで?」


セ「さっき誤審ペナルティを食らったからさ。今回は見送る」


ル「・・・それが正解かな」


セ「どういう意味?」


ルーベルトは何も答えずに、静かにコールした。


リ「最後の一枚」


Aのクラブ。

場が5、5、K、K、Aになった。


セ「レイズ。二十点」


ル「・・・」


ルーベルトは場を見た。

5、5、K、K、A。手札次第では、フルハウスかフォーカードの可能性があるな。


ル「イカサマ宣言」


あ、また来た。

セラフィナは無言で手札を開いた。

AのハートとAのスペード。

場のAと合わせて、スリーオブアカインド。さらに場の5か場のKのどちらかと合わせてフルハウスが成立する。

残念ながらイカサマなし。


ル「・・・また誤審か」


リ「ルーベルト、ペナルティ」


ル「分かった」


ポイントを移動させながら、ルーベルトは静かに言った。


ル「セラフィナ、一つ聞いていい?」


セ「ど~ぞ」


ル「さっき、フェイクだと見抜いた後に、あえて宣言しなかった理由は何?」


セ「さっきも言ったじゃない。誤審ペナルティを避けたかっただけ」


ル「本当に?」


セ「・・・」


ル「さっきの動きが完全にフェイクなら、宣言してもペナルティにならない。むしろ、イカサマ成立でポイントをもらえる」


セ「でも失敗したら痛い」


ル「でも、真理視(ヴァニタス・アイ)があれば精度は高いはず。なのに宣言しなかったのは、本当に完全にフェイクだと確信できなかった。多分、何か迷う要素があった」


セ「・・・」


ルーベルトが静かに手札を開いた。

KのクラブとKのハート。

場のKと合わせて、スリーオブアカインド。だがAのスリーオブアカインドには負ける。


ル「手役では負ける。でも、さっきの動きは本当にフェイクじゃなかった」


セ「・・・え?」


ル「Aが来た時点で手役の差は分かっていた。だから、一枚入れ替えを試みた。でも、直前でやめた」


セ「なんで?」


ル「君の真理視(ヴァニタス・アイ)が怖かったから。入れ替えた瞬間に見抜かれると思った。だから途中でやめた」


セ「・・・つまり」


ル「そう。イカサマをしようとして、やめた。フェイクじゃなくて、本物のキャンセル。君の真理視(ヴァニタス・アイ)でも判定が難しかったのは、それが理由じゃないかな」


セ「・・・正解」


ル「だよね」


セ「つまり今の宣言は・・・」


ル「イカサマ宣言じゃない。ただの確認。手札を見せてもらいたかっただけ。さっきのペナルティは、宣言の形式を使った情報収集だよ」


セ「ポイントを使って情報を買った、ってこと?」


ル「そういうこと」


セ「・・・ずる」


ル「そっちこそ」


リ「セラフィナの勝ちだが、ポイントの差は縮まった。現状セラフィナ五十九点、ルーベルトが四十一点」






次の配りが終わった。

二人が手札を確認した瞬間、今度はセラフィナの方が動いた。

手札を伏せる直前、指先が一瞬だけ止まった。止まって、それからゆっくりと手を引いた。

ルーベルトがその動きを見た。


ル「・・・」


ルーベルトは何も言わなかった。


リ「ブラインド五点。セラフィナから」


セ「レイズ。十五点」


いきなり大きく動いたな。


ル「・・・コール」


リ「場に三枚」


4のスペード、7のハート、4のダイヤ。

お、4が二枚並んだな。


セ「レイズ。二十点」


ル「・・・」


ルーベルトは場を見て、すぐにセラフィナを見た。セラフィナは相変わらず無表情だ。


ル「セラフィナ、さっき手札を伏せる時に指が止まった」


セ「そうね」


ル「なんで止まったの?」


セ「手が滑っただけ」


ル「嘘だ」


セ「・・・どうして」


ル「真理視(ヴァニタス・アイ)がなくても分かる。明らかに意図的な動きだったから。問題は、なんのための動きだったかだ」


セ「なんのためだと思う?」


ル「二つある。一つは、イカサマをしたことを敢えて見せるフェイク。もう一つは、イカサマをしようとしたが思い直した本物のキャンセル」


セ「どっちだと思う?」


ル「・・・判断できない。だから聞いた」


セ「答える義理はないけど?」


ル「そうだね」


沈黙がしばらく続いた後、ルーベルトは静かにコールした。


リ「四枚目」


4のクラブ。

4が三枚になった。


セ「コール」


今度はセラフィナが静かに動いた。

ルーベルトの目が細くなった。


ル「・・・今、抑えた?」


セ「何を?」


ル「レイズしたかったのに、コールにした。抑えた理由は、4が三枚出て手役が読まれると思ったから」


セ「それ、想像でしょ?」


ル「うん。でも、4が三枚出た後に大きく動けば、手札に4があると思われる。だからコールにした。そうじゃない?」


セ「・・・」


ル「つまり、今君は4を持っている可能性が高い。さっきの手札を伏せる動きは、4を持っていたから最初から強気に出られた。でも、イカサマの素振りを見せることで、本当の強さを隠そうとした」


セ「・・・」


ル「フォールド」


セラフィナが手札を開いた。

4のハートとJのスペード。

フォーカード。


ル「・・・やっぱり」


セ「一つだけ誤算があったとしたら、何だと思う?」


ル「さっきの指を止める動きが、かえって怪しかった」


セ「そう。あれは最初からイカサマの素振りを見せて強い手を隠すつもりだった。でも、逆に意識させてしまった」


ル「強い手の時にこそ、余計なことをしない方がよかった」


セ「そうね。勉強になった」


リ「ルーベルトの勝ち。かなり差が縮まったぞ。セラフィナ五十五点、ルーベルト四十五点」


残りポイントが少なくなるにつれて、二人の動きがさらに研ぎ澄まされていった。

大きなレイズが消えた。

代わりに、細かい揺さぶりが増えた。手札を見る時間。手を置く位置。コールを言うまでの間。その全てが、情報として相手に流れていく。二人ともそれを理解した上で、意図的に操作しようとしている。


最後の配りが終わった。

セラフィナが手札を見た。表情も、手も、視線も、何も動かなかった。いつも通りだな、と俺は思った。

ルーベルトも同じだったのだろう。手札を確認した後、静かにセラフィナを見た。


ル「コール。五点」


セ「コール」


リ「場に三枚」


Kのハート、Kのクラブ、2のスペード。

Kが二枚並んだ。


ル「コール。五点」


セ「コール」


二人とも動かう、静かにコールを続けている。


リ「四枚目」


Aのスペード。


ル「レイズ。十点」


セ「・・・コール」


リ「最後の一枚」


Kのダイヤ。

Kが三枚になった。


ルーベルトの手が動いた。明確に、手札の方に向かって。

一枚を取り出し、裏向きのまま別のカードと入れ替えた。


セ「イカサマ宣言」


ル「・・・うん」


ルーベルトは手札を開いた。

Aのハートと、Aのクラブ。

もともとAが二枚あった。場のAと合わせてスリーオブアカインド。さらに場のKと合わせてフルハウスが成立する。

入れ替えたカードは、2のハートだった。


セ「・・・何を入れ替えたかったの?もともと十分強い手なのに」


ル「2が邪魔だと思って」


セ「でも、入れ替えなくても役は成立してたよね?」


ル「うん。でも、入れ替えた方がもっと強くなると思った。あと・・・」


セ「あと?」


ル「君の真理視(ヴァニタス・アイ)を試してみたかった」


セ「・・・」


ル「ここまでの試合で、君の宣言のタイミングを観察してた。完全なイカサマ、フェイク、キャンセル。それぞれの場合で、君の反応に微妙な差があった」


セ「気づいてたの?」


ル「うん。だから今回は、本物のイカサマをわざと分かりやすくやった。その場合の君の反応を確認したかった」


セ「情報を買うためにペナルティを払った、ってこと。さっきと同じ」


ル「そう」


リ「ペナルティ。今の賭けポイントをセラフィナに」


ル「分かった」


セ「でも、それを確認してどうするの。もう最終試合の最後の手なのに」


ル「そうだね。意味がないといえば意味がない」


セ「じゃあ何のために?」


ル「次に戦う時のために」


セラフィナは少しの間、ルーベルトを見ていた。

それから、小さく笑った。


セ「・・・準備がいいね」


ル「そっちこそ」


リ「手役の確認をする。セラフィナは?」


セラフィナが手札を開いた。

KのスペードとKのハート。

場のKと合わせて、フォーカード。


ル「・・・最初からフォーカードだったんだ」


セ「そう。だから序盤にあえてコールで動かなかった。強い手を持っている時ほど、静かにしてた方が最後に全部持っていける」


ル「・・・完敗だ」


リ「セラフィナの勝ち。最終ポイント、セラフィナ六十七点、ルーベルト三十三点」


病室に静かな沈黙が落ちた。

ルーベルトは仰向けになって天井を見上げた。


ル「・・・最初からフォーカードを持っていたのに、一切それを出さなかった」


セ「出す必要がなかったからさ」


ル「セラフィナ、最後の最後まで本当のことを何も言わなかった」


セ「それがポーカーでしょ」


ルーベルトが小さく笑った。


ル「楽しかった」


セ「私も」


リ「それは良かった。てかさ、お前等二人とも、初めてにしては筋が通りすぎだろ・・・」


セ「当たり前でしょ?」


ル「リュートはどっちが強いと思う?」


リ「・・・今日の所はセラフィナかな。真理視(ヴァニタス・アイ)もあるし。ま、ルーベルトの情報戦は背筋が凍るほど怖かったよ。ここまでとは思わなかった・・・次やったら分からないかも」


セ「次はもっと勝つ」


ル「僕も」


リ「はいはい。セラフィナお前は家(城)に帰れ。外はもう暗いから」


窓の外はすっかり暗くなっていた。廊下からは看護師の足音が遠くから聞こえてくる。


セラフィナが立ち上がり、変装道具を手に取った。


セ「じゃあ、また明日」


リ「ああ」


ル「気をつけて帰ってね」


セ「心配しなくていいよ。」


扉が静かに閉まった。病室に、俺とルーベルトだけが残った。


ル「・・・リュート」


リ「ん?」


ル「ポーカー、どこで覚えたの?」


あ、そういえばポーカーってこの世界じゃ存在しないゲームなんだった。適当に誤魔化すか。


リ「なんか・・・ふっとわいてきた」


ル「え・・・?どゆこと?」


リ「・・・」


俺は何も言わずに、カードの束をアイテムボックスに仕舞った。賑やかで、馬鹿みたいで、戦争のことなんて微塵も感じさせない時間だったな。

因みに、この話はリア友と賭けナシでポーカーをやった時の実体験をもとに書いた。


なんかAIっぽい文章な気が・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。