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図書館

※修正版

役所での戸籍登録は滞りなく終わった。


手続きを済ませると、ティオが借りている宿屋へと向かった。見上げれば、すっかり日が落ちている。空は深い藍色に染まり、星が一つ、また一つと瞬き始めていた。


しばらく石畳の道を歩くと、温かな明かりが灯る建物が見えてきた。宿屋だ。


「リュート君、何が食べたい?」


セレナが優しく聞いてくれる。

メニューを見ても文字が読めないので、適当に指差した。


「星麦のポタージュね。いい選択よ」


しばらくすると、湯気の立つ器が運ばれてきた。一口すくって口に運んだ。


「――っ!」


思わず目を見開いた。

粒のない滑らかな舌触りなのに、麦の柔らかい甘味がしっかりと広がる。喉の奥で小さな星が弾けるように、温かさがじんわりと染み渡っていく。


「おいしい・・・」


思わず呟くと、セレナとティオが微笑んだ。

グロウルベアとの死闘、森での彷徨、初めて会う人々・・・緊張の連続だった一日が、この温かいスープで少しずつ溶けていく気がした。


食事を終えると、温泉に案内された。体の芯まで温まり、疲れが抜けていく。

そして、ティオが俺の分の部屋まで借りてくれていた。


「それじゃあ、先に寝かせてもらうね。お休み~」


セレナが軽く手を振って自分の部屋へ向かう。


「リュート。一人で寝れるか? 寝れないなら一緒に寝るが・・・」


「大丈夫!」


「そうか。何かあったら隣の部屋にいる俺のところまで来るんだぞ。おやすみ」


「うん! おやすみなさい!」




部屋に入ると、木の香りと乾いた藁の柔らかい匂いがふわりと漂ってきた。

ベッドに倒れ込み、天井を見上げる。


「・・・疲れた~」


子供の演技を続けるのは想像以上に疲れる。

でも、衣食住が揃った。


アルス家のことを、あの二人に聞くべきか?

しかし、俺のことを転生者だと知られれば、状況が変わるかもしれない。まだ、信頼関係が足りない。

もう少し時間をかけて、信用を得てから。

それまでに、文字を覚えて、この世界のことを調べて、アルス家の手がかりを探す。


計画を立て終えると、ベッドに入ってすぐに眠りに落ちた。




朝早く目が覚めた。

カーテンを開けて窓の留め金を外し、押し開ける。ひんやりとした朝の空気がふわりと流れ込んできた。


それからは、セレナと文字の勉強をしたり、ティオとは剣の練習をしてもらった。二人とも教えるのがとても上手で、一週間程度でこの世界の文字の読み書きができるようになった。


「リュート、お前の成長スピード、ちょっと異常だぞ・・・」


ティオが驚いた表情で呟く。


「私も初めて見たわ、こんな成長速度・・・」


セレナも目を丸くしている。

俺も驚いている。明らかに成長速度がおかしいもん。転生者という職業のおかげだろうか。絶対なにかしらの補正が掛かっていそうだな。



そして今日。

この世界の魔物について調べようと思う。そして、アルス家のことも。

あの名前の家が、この世界のどこかに存在するはずだ。俺に繋がる何かが、文字の中に眠っているかもしれない。


「魔物の図鑑が置いてある場所? 俺は知らんな・・・」


「この村の一番大きい図書館にはあるかも。今から行く?」


「行きたいです!」


俺とセレナは図書館へ向かう準備を始めたが、ティオはギルドの依頼でグラウルウルフの討伐に行かなければならなかった。


「ティオお兄ちゃん、行ってらっしゃい~」


準備が終わって、俺とセレナは図書館へと向かった。



「着いたわ。ここが図書館よ」


村の外れにぽつんと立つその建物は、大きな屋敷ほどではないが、普通の家よりも少しだけ背が高い木造の建物だった。


俺たちはたくさんの本棚の中から、魔物の図鑑を探し始めた。探し始めてから一時間が経過した。


魔物の図鑑は見つかったが、アルス家については何も出なかった。

存在しないのか?

それとも、村の図書館では資料が揃っていないだけか。


もやもやしたものを胸に抱えながら、魔物の図鑑と世界の歴史書を読み始めた。




しばらく読んでみて、分かったことがある。


まず、魔物のランクだ。

魔物は通常S~Fランクまであるらしい。

とりあえず、元の世界で読んだ呪術の漫画そのままの指標で行くと・・・


Fランク:金属バットで平均的な成人男性が難なく倒せるレベル。

Eランク:拳銃を使えばなんとか倒せる。

D~Cランク:アサルトライフル一丁でなんとか倒せるレベル。

B~Aランク:戦車を使えばなんとか倒せる。

Sランク:クラスター爆弾の絨毯爆撃で倒せるレベル。


ただし、例外となる災害級(ディザスター)、破滅級(カタストロフィ)は強さが通常の魔物と全く違う。


破滅級(カタストロフィ)に分類されるものの中には何故か、初代勇者のアラドがいる。此奴、一体何やらかしたんだ?


他にも「七天大罪悪魔」なる存在もいるらしい。


七つの大罪すべてが破滅級に分類されている。


「だけど、こいつらがすぐに世界を破壊しようとしないのはなぜなんだろう?」


小声で呟いた瞬間・・・


「答えは簡単。天使が常に監視しているからよ」


いきなり後ろから声がした。振り返ると、セレナが微笑みながら立っていた。


「天使?」


「天使は人類が悪魔の脅威にさらされるときに降臨するの。そのおかげでこの世界にいる悪魔のほとんどは浄化されている。特に『七天美徳天使』は、七天大罪悪魔と同じくらいの強さをしているらしいわよ」


そういうことか。七天大罪悪は七天美徳天使に常に監視されているから下手に暴れることはできないわけか。


セレナさんの天使の解説を聞いてしばらく、図書館の閉館時間の音楽が流れ始めた。

俺たちは読んでた本を片付け、宿に戻ることにした。


「それで。どうだった?ほしい本は見つかった?」


「見つかったけど、よみおわらなかった・・・」


「あらら。じゃあ明日も行きましょうか」


「うん、やったー!」


帰路についてしばらく、宿屋の入り口にティオさんが待っていた。どうやら魔物討伐は成功したらしい。


「おう。帰ったか」


「ただいま。ティオ」


「ティオお兄ちゃんただいま!」


「さて、宿に戻るか」


夕食は『ホーンラビットの香草ロースト』。驚くほどにうまい。

温泉に入ると格別に気持ちよかった。


―――のぼせてしまった・・・


「頭いたい・・・」


「確かにここの温泉は気持ちいからな。だが長湯しすぎだろ。ほれ、水だ」


水を補給したあと、体を涼ませる場所を探した。


そういえば、今の俺の強さは一体どれくらいだろか。

試しにステータスを開いてみることにした。



 リュート=アルス

 Lv37

 HP194 MP194

 職業 転生者 剣士

 魔法 なし

 加護 なし

 状態 記憶封印

 スキル 鑑定 アイテムボックス 副業切り替え(クロススイッチ)(槍士 戦士)

 職業スキル 破嵐斬(テンペストスラッシュ)(Lv2)

       パリィ(Lv10)

       神速連断(ジンス・レンドラン)(Lv3)

       剣閃(Lv10)

       踏み込み斬り(Lv3)

       二連斬(ダブルスラッシュ)(Lv5)

       蒼閃(Lv4)

 副業スキル(槍士)払い突き(Lv1) 始槍(Lv1)

 副業スキル(戦士)戦意高揚(Lv1) 鉄壁(ヘビーガード)(Lv1)



しばらく俺のステータスバーをにらみっこしてた時、ティオさんがいきなりとんでもないことを言い出した。


「リュートお前すげー強いじゃん」


「エッ⁈」


もしかして、自分のステータスバーって見えるの⁈


「え、見えるの?」


「うん」


やばい!やばい!やばい!

多分今ので俺が転生者ってことが確実にばれたよな。

でも・・・


「なんて書いてあると思う?」


俺はティオさんに自分のステータスバーを見せつける。


「えっと・・・レベルはもう40台なのかよすげえな。普通のガキはまだ一桁台なのによぉ。しかも剣士でありながら副業切り替え(クロススイッチ)を持ってんは五十年に一人の逸材だぜ。おまけに二つも持ってるのはなおさらレアだぜ。あと所持してる職業のスキルの量もすげーな」


あれ?もしかして、見えてない?


「ねえ。僕の職業剣士だけ?」


「まあそうだな。副業切り替え(クロススイッチ)に入ってる、槍士、戦士はいつでも入れ替えすることができるけどな」


まさかの〔転生者と記憶封印だけ、ご都合よく見えない〕というパターン⁈

これは、とてもうれしい誤算だ。説明する手間が省ける。


「ねえ、ねえ。鑑定スキルと、アイテムボックスというスキルって珍しい?」


「鑑定スキルは案外いろんな人が持っている。ただ、その精度によって珍しさは変わるけどな。特に珍しいのは、対象の名前、情報、ランクなどが分かる鑑定スキルで、それは100年に一人いるかいないかのレベルだからな」


なるほど。


「あとさ、二人みたいにかっこいい冒険者になりたい」


「冒険者になる資格年齢は残念ながら六歳からだから、今のリュートはむりだな。でも六歳になるまでに俺が飛び切り強くしてから登録してやる」


「楽しみにしとくよ!」





この出来事の後は、それからというもの俺は剣の修行をし続けた。

ティオさんはともかく、この村にいる他の冒険者にもいろいろ教えてもらった。そのおかげでいろんなスキルを獲得できた。


スキルをひたすら鍛えたおかげで、剣スキルは破嵐斬(テンペストスラッシュ)、パリィ、蒼閃の三つが際立って伸びた。

特に破嵐斬(テンペストスラッシュ)はレベルが60になったのは度肝を抜いた。

この成長速度がおかしい原因も調べないと。何かしらデメリットがあるとかなら、とっとと発動を停止させときたいし、仮になくてもなんか気味が悪いし。


この平和な生活が続いて、約二年。

俺は6歳になった。


「そろそろ冒険者になる年齢だな」


そんなことを思いながら、俺はギルドに向かうことにした。

自分の目的は変わっていない。アルス家のことを知っている人間を探すこと。この村では見つからなかった。なら、もっと広い世界に出るしかない。

冒険者になってランクを上げれば、行動範囲が広がる。そのために、今日から動こうと思う。


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