取り調べ(2)
【ルーベルト・フォン・アルヴィス】
リュートが取り調べを受けてる同時刻、ルーベルトは別室で取り調べを受けていた。
「では改めて聞く。君の名と立場を」
「ルーベルト・フォン・アルヴィス。学園の一年生です」
嘘は言っていない。
言っていないが、言っていないことは山ほどある。
騎士団員は手元の書類に目を落としながら続ける。
「魔物発生の瞬間を目撃したそうだな」
「はい。校門付近で倒れた少女が変異しました」
一瞬、空気が重くなる。
彼らも、その言葉の重さは分かっている。
「・・・その際、君は即座に攻撃を行っている」
「死者を出さないためです」
これは本心だ。
理屈も計算もあったが、動機だけは嘘じゃない。
「なぜ教師や騎士団を待たなかった?」
「待てば、誰かが死ぬ可能性があったからです」
間髪入れずに答えると、相手は小さく息を吐いた。
「・・・冷静すぎるな」
「そう見えるだけです」
本当は、心臓は少し早く打っている。
でもそれを顔に出すほど、僕は未熟じゃない。
「セラフィナ公爵令嬢と連携していたな」
「偶然です。現場で合流しました」
「事前の打ち合わせは?」
「ありません」
半分は本当。
半分は、言葉の選び方の問題だ。
しばらく質問が続いたあと、騎士団員は言った。
「・・・君は、今回の件をどう思う?」
少し考えてから答える。
「原因不明なのが、一番危険だと思います」
それ以上は、言わなかった。
言えば、彼らも引き返せなくなる。
【セラフィナ・フォン・オルディナシス】
セラフィナも同様に取り調べを受けていた。
はっきり言って、面倒だ。
部屋に入った瞬間から、騎士団の視線が一斉に変わったのが分かる。
「お怪我は?」
「ありません」
「念のため、治癒を・・・」
「不要です」
即答すると、相手は少し困った顔をした。
「魔物への最初の有効打は、貴女だったと報告があります」
「ええ。斬りました」
「躊躇は?」
「ありません」
嘘じゃない。
躊躇していたら、腕を再生されて終わりだっただろうし。
「相手は元・人間だった可能性が高い」
「だから何?」
少し強めに言うと、騎士団員は言葉に詰まった。
「私は貴族でも令嬢であっても、目の前で人が死ぬ可能性があるなら、斬ります」
沈黙。
「・・・怖くはなかったのですか」
この質問には、少しだけ考えた。
「怖いですよ」
あっさり答える。本当は怖くない。ただ・・・
「でも、それ以上に腹が立った」
「腹が・・・?」
「人を魔物に変えるなんて、趣味が悪すぎるでしょう」
本音だった。
怒りがなければ、あそこまで踏み込めなかった。
「最後に一つ。今回の件、公にすべきだと思いますか?」
私は首を横に振った。
「今は、まだ早い」
それだけ言って、椅子にもたれかかる。
「隠すなら、徹底的に隠しなさい。中途半端が一番、人を殺すわ」
相手は、何も言えなくなっていた。
【アリア・グランツ】
アリアも同様に取り調べを受けていた。部屋に入ってから、ずっと手が震えていた。
机の木目を見つめていないと、あの光景が頭に浮かんでしまう。
「・・・落ち着きましたか?」
騎士団の女性が、優しい声で問いかけてくる。
「・・・はい」
嘘。
でも、これ以上迷惑はかけられない。
「魔物と対峙した時、何を感じましたか」
胸が、きゅっと締め付けられる。
「・・・怖かったです」
声が、少し掠れた。
「剣を抜いたのは、なぜですか?」
「あの二人が、棒立ちで・・・」
思い出して、少しだけ苦笑する。
「このままだと、誰かが死ぬと思って」
「・・・勇敢ですね」
首を振る。
「違います。逃げたかったです」
正直に言った。
「でも・・・逃げたら、一生後悔する気がして」
沈黙が落ちる。
「彼ら・・・ルーベルト君とセラフィナ嬢を、どう思いましたか」
少し考えて、答える。
「・・・変な人たちです。でも、嘘はついていないと思いました」
「嘘、とは?」
「怖くないふりをしているわけじゃない。怖いと分かっていて、前に出ている人たちだと」
そう言った瞬間、胸の奥が少し軽くなった。
「私は、もう戻れませんよね」
ぽつりと零す。
女性騎士は、少し困ったように微笑んだ。
「ええ。でも・・・」
「でも?」
「戻れないからこそ、守れるものもあります」
その言葉を、私は静かに胸に刻んだ。
【リュート・アルス】
「助かったな。深掘りされずに済んだ」
「やっぱり、裏で誰かが動いてるって感じですか?」
「・・・ああ」
ルグは一瞬だけ目を伏せた。
「クロカワが、すでに話を通している」
なるほど。さすがグラマス。仕事が早すぎるね。
寮へ戻る途中、窓の外を見ると、夕方の光が学園を赤く染めていた。
平和な風景だ。
今日、人が魔物に変わった場所とは思えないほどに。
部屋に戻ると、アランとケルビが待っていた。
「おかえり」
「取り調べ、どうやった?」
「形式だけ。すぐ終わったよ」
二人はほっとしたように肩を落とした。
「今日はもう何も起こらんよな・・・?」
ケルビの不安げな声に、俺はベッドに倒れ込みながら答える。
「さあな」
天井を見上げ、静かに言う。
「でも、今日で終わりとは、俺は思ってない」
部屋に沈黙が落ちる。
外では、夕暮れを告げる鐘が鳴り始めていた。
それは、休校初日の終わりを告げる音であり、同時に嵐の前の静けさの合図でもあった。
「少し疲れた、ベットに転がろ。寝てたら夕飯までには起こして」
「「ほーい」」
俺は休憩がてら今の状況を知るため、二人に念話で話しかけた。
リュート:(そっちは取り調べ受けた?)
ルーベルト:(今終わったところだよ)
セラフィナ:(私も)
リュート:(色々聞かれた?)
ルーベルト:(僕は特段追い詰められてはないけど)
セラフィナ:(私は余計なお世話を掛けられた。正直ああいう事面倒くさいんだよ
ね・・・話変わるけど今日の夜暇?)
リュート・ルーベルト:(夜のお誘いならお断りします)
セラフィナ:(違うわ!!!夕飯一緒に食べよって話だよ!!!)
リュート・ルーベルト:(知ってた★)
セラフィナ:(お前ら覚えてろよ!!!・・・それで、どうするの?来るの?来ないの?)
リュート:(行く行く。どうせ外出禁止で娯楽もないし)
ルーベルト:(僕も参加で。こういう時ほど、一人になると余計なことを考える)
セラフィナ:(決まりね。じゃ、食堂の奥。人目につきにくい所で)
リュート・ルーベルト:(りょーかい)
念話を切り、ベッドに仰向けになったまま、天井を見つめる。
これまで、この世界で見てきた魔物はすべて最初から魔物だった。少なくとも、そう信じられてきた。もしその前提が壊れたなら、この世界の常識が根っこからひっくり返るだろう。
それを止めるために、情報規制。それ自体は、正しい判断だと思う。
でも、止めたところで、原因が消えるわけじゃない。
夕方の鐘が鳴り終わり、寮内が少しずつ騒がしくなってきた。
夕食の時間が近い合図だ。
「おう、起きたか。おはよう」
アランがベッドを軽く蹴ってくる。
俺はあの後いつの間にか眠っていたらしい。
「おはよ・・・」
体を起こし、制服の皺を軽く伸ばす。頭は重いが、行かない理由もないからな。
俺は移動中、念話をもう一度繋いだ。
リュート:(じゃ、後で合流な)
セラフィナ:(遅れたら置いてくから)
ルーベルト:(それはそれで怖いな)
念話を切り、俺は食堂でアランとケルビと別れて人気のない所に移動した。




