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取り調べ(2)

【ルーベルト・フォン・アルヴィス】




リュートが取り調べを受けてる同時刻、ルーベルトは別室で取り調べを受けていた。


「では改めて聞く。君の名と立場を」


「ルーベルト・フォン・アルヴィス。学園の一年生です」


嘘は言っていない。

言っていないが、言っていないことは山ほどある。

騎士団員は手元の書類に目を落としながら続ける。


「魔物発生の瞬間を目撃したそうだな」


「はい。校門付近で倒れた少女が変異しました」


一瞬、空気が重くなる。

彼らも、その言葉の重さは分かっている。


「・・・その際、君は即座に攻撃を行っている」


「死者を出さないためです」


これは本心だ。

理屈も計算もあったが、動機だけは嘘じゃない。


「なぜ教師や騎士団を待たなかった?」


「待てば、誰かが死ぬ可能性があったからです」


間髪入れずに答えると、相手は小さく息を吐いた。


「・・・冷静すぎるな」


「そう見えるだけです」


本当は、心臓は少し早く打っている。

でもそれを顔に出すほど、僕は未熟じゃない。


「セラフィナ公爵令嬢と連携していたな」


「偶然です。現場で合流しました」


「事前の打ち合わせは?」


「ありません」


半分は本当。

半分は、言葉の選び方の問題だ。

しばらく質問が続いたあと、騎士団員は言った。


「・・・君は、今回の件をどう思う?」


少し考えてから答える。


「原因不明なのが、一番危険だと思います」


それ以上は、言わなかった。

言えば、彼らも引き返せなくなる。


それにアルヴィスのことが頭をよぎった。

6年前、あの街でも、原因不明のまま何百万もの命が消えた。

誰かが意図していたのか、今でも分からない。

今回の事件が、あの時と繋がっているとは言えない。

でも、繋がっていないとも言えない。


だから今は、黙って考え続けるしかなかった。





【セラフィナ・フォン・オルディナシス】



セラフィナも同様に取り調べを受けていた。

はっきり言って、面倒だ。

部屋に入った瞬間から、騎士団の視線が一斉に変わったのが分かる。


「お怪我は?」


「ありません」


「念のため、治癒を・・・」


「不要です」


即答すると、相手は少し困った顔をした。


「魔物への最初の有効打は、貴女だったと報告があります」


「ええ。斬りました」


「躊躇は?」


「ありません」


嘘じゃない。

躊躇していたら、腕を再生されて終わりだっただろうし。


「相手は元・人間だった可能性が高い」


「だから何?」


少し強めに言うと、騎士団員は言葉に詰まった。


「私は貴族でも令嬢であっても、目の前で人が死ぬ可能性があるなら、斬ります」


沈黙。


「・・・怖くはなかったのですか」


この質問には、少しだけ考えた。


「怖いですよ」


あっさり答える。本当は怖くない。ただ・・・


「でも、それ以上に腹が立った」


「腹が・・・?」


「人を魔物に変えるなんて、趣味が悪すぎるでしょう」


本音だった。

怒りがなければ、あそこまで踏み込めなかった。


「最後に一つ。今回の件、公にすべきだと思いますか?」


私は首を横に振った。


「今は、まだ早い」


それだけ言って、椅子にもたれかかる。


「隠すなら、徹底的に隠しなさい。中途半端が一番、人を殺すわ」


相手は、何も言えなくなっていた。






【アリア・グランツ】



アリアも同様に取り調べを受けていた。部屋に入ってから、ずっと手が震えていた。

机の木目を見つめていないと、あの光景が頭に浮かんでしまう。


「・・・落ち着きましたか?」


騎士団の女性が、優しい声で問いかけてくる。


「・・・はい」


嘘。

でも、これ以上迷惑はかけられない。


「魔物と対峙した時、何を感じましたか」


胸が、きゅっと締め付けられる。


「・・・怖かったです」


声が、少し掠れた。


「剣を抜いたのは、なぜですか?」


「あの二人が、棒立ちで・・・」


思い出して、少しだけ苦笑する。


「このままだと、誰かが死ぬと思って」


「・・・勇敢ですね」


首を振る。


「違います。逃げたかったです」


正直に言った。


「でも・・・逃げたら、一生後悔する気がして」


沈黙が落ちる。


「彼ら・・・ルーベルト君とセラフィナ嬢を、どう思いましたか」


少し考えて、答える。


「・・・変な人たちです。でも、嘘はついていないと思いました」


「嘘、とは?」


「怖くないふりをしているわけじゃない。怖いと分かっていて、前に出ている人たちだと」


そう言った瞬間、胸の奥が少し軽くなった。


「私は、もう戻れませんよね」


ぽつりと零す。

女性騎士は、少し困ったように微笑んだ。


「ええ。でも・・・」


「でも?」


「戻れないからこそ、守れるものもあります」


その言葉を、私は静かに胸に刻んだ。






【リュート・アルス】




「助かったな。深掘りされずに済んだ」


「やっぱり、裏で誰かが動いてるって感じですか?」


「・・・ああ」


ルグは一瞬だけ目を伏せた。


「クロカワが、すでに話を通している」


なるほど。さすがグラマス。仕事が早すぎる。


寮へ戻る途中、窓の外を見ると、夕方の光が学園を赤く染めていた。

平和な風景だ。

今日、人が魔物に変わった場所とは思えないほどに。

部屋に戻ると、アランとケルビが待っていた。


「おかえり」


「取り調べ、どうやった?」


「形式だけ。すぐ終わったよ」


二人はほっとしたように肩を落とした。


「今日はもう何も起こらんよな・・・?」


ケルビの不安げな声に、俺はベッドに倒れ込みながら答える。


「さあな」


天井を見上げ、静かに言う。


「でも、今日で終わりとは、俺は思ってない」


部屋に沈黙が落ちる。

外では、夕暮れを告げる鐘が鳴り始めていた。

それは、休校初日の終わりを告げる音であり、同時に嵐の前の静けさの合図でもあった。


「少し疲れた、ベットに転がろ。寝てたら夕飯までには起こして」


「「ほーい」」


俺は休憩がてら今の状況を知るため、二人に念話で話しかけた。




リュート:(そっちは取り調べ受けた?)


ルーベルト:(今終わったところだよ)


セラフィナ:(私も)


リュート:(色々聞かれた?)


ルーベルト:(僕は特段追い詰められてはないけど)


セラフィナ:(私は余計なお世話を掛けられた。正直ああいう事面倒くさいんだよ

       ね・・・話変わるけど今日の夜暇?)


リュート・ルーベルト:(夜のお誘いならお断りします)


セラフィナ:(違うわ!!!夕飯一緒に食べよって話だよ!!!)


リュート・ルーベルト:(知ってた★)


セラフィナ:(お前ら覚えてろよ!!!・・・それで、どうするの?来るの?来ないの?)


リュート:(行く行く。どうせ外出禁止で娯楽もないし)


ルーベルト:(僕も参加で。こういう時ほど、一人になると余計なことを考える)


セラフィナ:(決まりね。じゃ、食堂の奥。人目につきにくい所で)


リュート・ルーベルト:(りょーかい)




念話を切り、ベッドに仰向けになったまま、天井を見つめる。

これまで、この世界で見てきた魔物はすべて最初から魔物だった。少なくとも、そう信じられてきた。もしその前提が壊れたなら、この世界の常識が根っこからひっくり返るだろう。

それを止めるために、情報規制。それ自体は、正しい判断だと思う。

でも、止めたところで、原因が消えるわけじゃない。


あの学園でも、アルス家を探す手がかりを掴もうとしていた。

だが、人が魔物に変わる事件が起きた。

どちらを優先すべきか、という話じゃない。どちらも、目を逸らせない問題だ。


「・・・やることが増えたな」


呟いて、目を閉じた。




夕方の鐘が鳴り終わり、寮内が少しずつ騒がしくなってきた。

夕食の時間が近い合図だ。


「おう、起きたか。おはよう」


アランがベッドを軽く蹴ってくる。

俺はあの後いつの間にか眠っていたらしい。


「おはよ・・・」


体を起こし、制服の皺を軽く伸ばす。頭は重いが、行かない理由もないからな。

俺は移動中、念話をもう一度繋いだ。




リュート:(じゃ、後で合流な)


セラフィナ:(遅れたら置いてくから)


ルーベルト:(それはそれで怖いな)




念話を切り、俺は食堂でアランとケルビと別れて人気のない所に移動した。

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