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春、嫌い

静岡県藤枝市生まれ。ここはサッカー王国。


だからなのか当然、僕は、プロのサッカー選手になりたかった。静岡県の男の子は、サッカーをしていれば、みんなプロを目指す、そんな環境。もちろん、幼稚園の頃から、夢はサッカー選手。心底、そのために全てを捧げて朝から晩までサッカーに没頭。


僕の夢は、両親にどのように映っていたのか。紙くずほどの価値しかなかったのだろうか。僕の情熱であるスポーツは、全く聞き入れられることはなかった。僕のサッカーに一切の関心を示さず、試合観戦に来たことはなく、試合結果にさえ興味を示さず、


”今日はどうだった?”


この一言すらなかった。彼らの興味はただ一つ。僕が医者になるかどうか、それだけ。口癖は、


”勉強しなさい。”


他の言葉の記憶が全くない。


松永紘明、18歳。


親の夢を背負い、大学浪人中。4月、桜が散る頃、高校をはじめ幼なじみはみな、新たなスタートを切るため、大学、就職で藤枝市を離れていく。でも自分は藤枝に残り、予備校通い。正直、自分だけが世界から取り残されている、そんな感覚すら、あった。


大学受験が失敗に終わり、浪人が決まったあの日。一人で山へ走りに行った。明るい春の日差し。爽やかな春の風。茶畑から見える富士山はいつも通り美しかった。春の条件は完ぺきに揃っているのに、僕の心は、光が届かない深海のように真っ暗。放心状態。一体、どんな1年が始まるのか、不安と恥ずかしさに満たされていた。


高校でもしなかった電車通い。毎朝電車に乗って往復。”寸暇を惜しんで”が口癖だった母親の影響か、電車の中でも、歩きながらも、ペラペラめくる手のひらサイズの単語帳で暗記。電車の中で誰かと一緒に話したり、笑ったりした記憶は、ない。そう、電車は、暗記の時間。ひたすら、それだけ。THE浪人生。


浪人生生活は、既に、24時間、暗く笑いの無い生活。それに加えて、あの閉鎖的な空間は、耐え難かった。予備校の自習室。一人一人が、なにやら板で仕切られて、個人のテレビデオと蛍光灯。まるで独房。


小さい頃から、外で遊ぶのが好きだった。だから授業以外はせめて外で過ごしたかった。太陽、青空、そして風。息をするためには、最低限これらが必要だと感じた。だから、いつも近くの公園に行って青空自習。そういえばこの木も桜だった。木陰のちょうどいい机とベンチが指定席。晴れてる日はもちろん、


”小雨ぐらいだったらここの方がまし”


そう思っていた。

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