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アルメティアはガートルドから、アカデミー内での出来事を聞かされる。
ミーアに、本当はその気などなかったかもしれない。だがしかし、一瞬であったが、ミーアの思いつめた表情と回廊庭園で会話すらしなかったアルメティアに接触しようなど、悪い予感しかしなかったという。
「ミーア殿下は、本当にガートルドさまをあきらめて自国へ戻られたのでしょうか」
「どうだろうか。でも、あの時のミーア殿下の行為が、王族にあるまじき行為と、そうとう堪えたらしい」
ガートルドはリックス邸の侍女が準備してくれた紅茶に口をつけた。
「彼女は、自分の立場やユーリッヒ国を大切にしていたように思う。まあ、暴走していた部分もあるかもしれないが、大方俺と婚姻を結ぼうと画策していたのも、メイデン国とのパイプにしようと思ったんだろうな」
「そこまでの立場がありながら、なぜあんな」
あれは、ガートルドのおかげで未遂に終わったが、一歩遅ければアルメティアは怪我だけでは済まなかっただろう。
階段の一番上かた落ちるなど、想像しただけでも恐ろしい。
「母が…王妃が言うには、嫉妬は恐ろしい、とのことだ」
それはそうと…と、ガートルドは続ける。
「ティアの未来視と、大きく変わった結末だが」
「ええ。わたしもずっと考えていたのですが、答えは見つかりません。でも、ガートルドさまが以前おっしゃったように、予兆として鮮明に見えた事象だったのでしょう。わたしが、家族や王家の皆さまに真実を告げたことで、少し先の未来が変わったのかもしれませんね」
「そうだな。これからも恐ろしい未来を見てしまったら、共に変えていこうか」
「ぜひに」
ふたりでくすりと笑いあうとガートルドはアルメティアの手を、そっと握った。
「ティアのその力はは、きっとまだ不安定だろう?」
「そうですね。まだ何がきっかけで、どのタイミングの未来を見るのか、はっきりしてません」
「王家にも、代々未来視のことは語り継がれているのだが、やはり、最初の頃は見える未来も酷く不安定だったりするようだ。だが、お互いに想いあって情が深まると、より二人に関係した未来が見えるらしい」
だから、未来視の能力がある令嬢と王族が婚姻を結ぶんだと、ガートルドは続けた。
そこでふと、アルメティアは思い出した。過去に二回未来視の能力で見ることができたきっかけは、どれもガートルドに触れた時ではないか…?
夜のテラスでワルツを踊り、アカデミーでぶつかって腕をとられた。
これから、二人で過ごす年月を重ねることで、お互い触れ合う時間が増えていく。ならば彼との未来も、次々に見えていくのだろう。
「ガートルドさま」
「何か?」
「末永く、よろしくお願いいたします」
アルメティア:正式に婚約して1年後、アカデミー卒業を間近に控えたある日、ガートルドとの間に子どもを授かる未来視をし、卒倒。
ガートルド:ティアと二人になりたいのに、義兄のゼルドに邪魔される。