そんなこんなで決戦開始③
『へカトンテイル』
神代の巨神を模したその腕は数にして六本。
その腕が、朽野目掛けて振るわれる。
シンプルだが、強力な六方向から振るわれる必殺の攻撃。
一撃、一撃が朽野をひねり潰す力を有している。
本来であれば、その時点で朽野の運命は決していた。しかし、今の朽野は『緑の騎士』だ。
左手に持った銃を構える。
「……オーダー『パラージ』」
曇った声と共にトリガーを引く。
エメラルドのように染まった銃から飛び出すのはやはり、緑に輝く弾丸。
弾丸が、一つ、二つ、四つと数を増やし、それぞれの腕を射抜く。
朽野の攻撃なら、ビクともしないその手も、緑の騎士の攻撃で、大きく軌道をずらす。
「オーダー、『プリッツ』」
その出来た隙間を緑の騎士が疾走。朽野の剣先が向かう先は、赤城の喉元。
大地を踏み鳴らし、豪、と風を切り裂き突っ込んでくる光景は、恐怖でしかない。
しかし、赤城もかつては英雄といわれた存在。冷や汗をかきながら口元には笑みを浮かべる。
「はっ!」
赤城がバックステップ。地面に落ちることなく真後ろに飛んでいく。
よく見ると、こちらを攻撃しようとする手は5本。残る一本は、真後ろの木を掴んでいる。
その木を引っ張ることで、後ろに飛ぶことを成功させているのだ。
プリッツの効果がなくなり、朽野の動きが止まる。瞬間、青く輝く巨人の手が朽野に襲いかかる。
Sの字の形をした剣が、朽野の首を刈らんと迫る。
しかし、それを無視し、前へ。剣はそのまま首に食い込み、弾かれる。
首元に走る不快感は無視。さすが、『ヘカトンテイル』という大層な名前がついているだけあってHPもガリガリと削れる。
しかし、致命傷には程遠い。次の瞬間にはHPのゲージは元に戻っている。
赤城の表情が忌々しげに歪む。それでも取り乱さなかったのは二度の交戦でこちらの特性に気づいているからか。
「相変わらず、化け物じみた回復能力だな!反則だろ!」
赤城の叫びは無視。ただ、なすべきことをする為に、声を上げる。
「オーダー。『グランチャリオ』」
お返しに、と突き出した剣が『ヘカトンテイル』に向かって走る。
合計八発。次々とその腕に突き刺さる。
ある種の神聖さを放っていたその腕も魔人の攻撃に耐え切れなかったのか、地面に落下してくのを確認し、しかし、赤い姿が眼に入る。
落下していく腕と、地面の間を滑り込んで来たのは赤城だ。
「はっ!」
その姿を確認し、剣を構える。が、相手のほうが早い。
「『巨人同化』!」
五本の巨人の手を取り込んだ赤城の手に持たれているのは、威力重視の斧。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
その腕からは、青い輝きと、限界を超え真っ赤な血が噴出している。
朽野もそれに答えるように、剣を構え……
『オーダーー!!!』
互いに叩き潰さんと、同時に声を張り上げる。
「『スラッシュ』!!」
「『グラン・チャリオ』!!」
青い輝きの斧と緑色の剣がぶつかり合う。
暴風が吹き荒れる。二つの剣の起こす反動が、木々を、大地を、山そのものを揺るがす。
そして、吹き飛ばされる緑色の剣。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
雄たけびと共に、その斧は、朽野のシールドを破壊し、その鎧ごとその胸を切り裂く。
そして、次の瞬間。緑の騎士が、崩れ落ちるように跪く。
「さすが、英雄。この姿になって、討たれることになるとは、思わなかった」
緑の騎士は不敗を誇ってきた。あの大戦数多くの強敵と出会い、しかし、緑の騎士の力で叩き潰してきた。
しかし、その結果がこれだ。
油断した訳ではない。しかし、どこかに慢心があったのかもしれない。
傷口からは、緑色の光が漏れ出している。
それは、赤城の一撃が、緑の騎士の回復力を上回っていたことに他ならない。
「いや、いい勝負、だったぜ」
へっと、赤城は笑う。
「前世じゃあ、武器を選ばないのが売りでなぁ。お陰でどんな戦場にも上手く立ち回ったもんだぁ」
だから、選んだ訓練兵という職。装備に制限なく自分の性能を発揮できる、そう思ったのだ。しかし……
「前世に、縛られ過ぎた。かもなぁ」
そう寂しそうに笑い、そして、先まで響いていた戦場の音が消えうせていることに気づく。
「部下共も……全滅したか」
タバコを取り出し、火を付ける。
「てめぇ、名前は……」
「朽野、伸也」
何とか、搾り出した声は自分が思った以上に掠れていた。
指先から緑の光が漏れ始めている。緑の騎士としての体が崩壊し始めているのだ。
「そうか、朽野、伸也。誇れ、てめぇは、英雄たる俺を下したのだから、な」
ごふ、と赤城の口から血が噴出す。見るとその胸にはぽっかり穴が開いている。
緑の騎士の左手に握られた銃。そこからは、硝煙が立ち上っている。
「その考えが既に前世に縛られ過ぎたってんだよ」
「はっ、違い、ない」
そういって、赤城の体はゆらり、と揺れ、そのまま地面に崩れ落ちる。
「じゃあ、な。朽野。来世か地獄か知らんが、また、やり合おう、ぜ」
にぃ、と深い笑みを浮かべ、そのまま動かなくなる。
「あの世だろうが前世だろうが、死ぬのは御免だ」
その姿を見届けた後、緑の騎士の体が、塵となって消えていく。
最後に、「ああ、死にたくないなぁ」という言葉を残して……
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