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そんなこんなでダンジョン攻略

 勇者が死んだ、自分がその知らせを聞いたのは、教会で祈りを捧げていた時のことだった。

 呆然と立ち尽くす者、膝から崩れ落ちる者、泣きだす者。

 上層区に建てられた教会だ。この場で祈りを捧げているのはそれなりの地位や名声を持った人間ばかり

 日々、騙しあい、表に感情を出すことのない貴族や商人達が絶望を露わにしている。

 まるで、世界が終わったかのような表情をする彼ら。いや、実際にこの世界、『アーガイズ』の命運が尽きてしまったのだ。


 勇者。

 それは、伯爵家に生まれた貴族であり、

 女神に祝福された神の子であり、

 発明品で国を発展させた学者であり、

 そして、レイピアと魔法を持って常に前線で戦い続けた英雄でもあった。


 別の世界からやってきた魔族と対抗できる唯一の存在として、仲間達と魔王との最終決戦に赴いたのが一ヶ月前。

 誰もが、女神に祈り。そして、その願いがかなうことがなかった。


 だから……

 

「箱舟計画を実行する」



 議会――『円卓』の決議によりその計画が実行されることとなった。

 『箱舟計画』。

 優れた魔術師でもあった勇者が考案し、しかし、その内容ゆえ誰にも発表されることなく死蔵される予定だった計画。

 しかし、勇者の遺品の中からその計画書は発見され実行されることとなった。


 人の魂は輪廻する。その魂の行く着く先はこの世界とは限らない。

 この計画は、魂にビーコンとなる魔術を刻み付け、その刻み付けられた『被験者()』を異世界に転生させ、そのビーコンを頼りに異世界の扉を開くというもの。

 この計画の為、全世界から優れた魔術師達が集められた。

 理由は二つ。異世界の扉を開く方法が召喚術の応用であり、それを発動させる為には、多くの召喚士が必要だということ。

 そして、もう一つの理由は『被験者()』の条件を満たすのは優れた魔力を持つ者に限られたということだ。


 ビーコンも一種の魔術だ。

 その術を発動させ、尚且つ異世界でも観測出来るほどの魔力となるとかなり候補が限られる。

 そこで『被験者()』として選ばれたのが自分だ。


「……人類の為だ。頼む」

 そう、親から言われ、断ることが出来るはずも無かった。

 ビーコンの術はシンプルなものだ。魂に焼き付けるので、少し辛いが大したことはない。

 問題は、異世界に転生するということだ。

 つまり、それは相手に死ね、ということ。

 ああ、この子煩悩な父には厳しい決断だろう。

 涙で頬を濡らし、拳を血が出るほどに握りしめた父の姿に何も言えなくなる。

 その手を取って自分は笑う。多少、笑顔が引き攣っているだろうが、そこは仕方ない。だって本当に怖いのだ。

「解りました。では、先にあちらでお待ちしていますね?」

 それでも、無理に笑みを作る。

 もっとも辛いのはお父様なのだから、せめて自分の最後の記憶は笑みであって欲しい。

 その意図を感じ取ったのか、お父様は涙を拭き、ぎこちない笑みで返す。

「ああ、ああ! 姿形が変わろうとも必ずお前を見つけて見せる。だから、その時は私をまた父と呼んでくれ。約束だ」



 

 ――そうして、自分は死んだ。


 

 再び、目が覚めたのは、『地球』と言われる世界の日本という国。

 何故か記憶を残したまま転生した自分は、新たな名前で第二の人生を歩むことになる。

 平和な国だった。

 奴隷もなく、戦争もなく、飢えで苦しむこともない。何より魔族が存在しない。

 前の世界に比べるとまさに理想郷ともいえる世界。


 なのに、何故、あの世界に戻りたい、と思うのだろう?


「お父様、約束はどうしたのですか?」


 ビーコンは今も、異世界に向けて発信中。

 なのに、みんなが来る気配は未だない。




◆◇◆◇◆


 そして、六花の意識はゆっくりと覚醒する。

 パチパチ、と何かが弾ける音と共に感じるのは肌寒さと近くで感じるじんわりと染み渡る暖かさ。

 目を開けると、目の前にたき火が燃えている。

 


「ここ、は?」

 うす暗い空間。暗闇はどこまでも広がっており、解るのはたき火を中心とした僅かな範囲のみ。

(そうだ、私は……)

 町田駅前での出来事を思い出す。

 赤城という男の率いる部隊と朽野がぶつかり、自分はダンジョンに落ちて、そして……

 そこからの記憶がない。あるのは気を失っている間に見た夢くらいだ。

 

「夢、か」

 懐かしい夢だ。自分の頬に触れると僅かに濡れている。

 あの夢は自分がこの世界に来る前、そして、大災害(カタストロフィ)までの記憶だ。

 ここ最近、全く見なかったが、どうやらホームシックになっているようだ。


 と、近くから物音がした。

 足音はしない。しかし、僅かに布の擦れる音と小さな呼吸が聞こえる。

「……っ!」

 装備を変更、愛用の銃を呼び出し、音の方向に構える。

 

「……目が覚めたか」

 広がる闇から、落ち着いた女性の声がした。

 そこから姿を現したのは小柄な女性。

 鋭い知的な相貌。長い黒髪と白い肌を持つ小柄な少女、和服でも着込んでいれば完全に日本人形だ。

 しかし、彼女が着込んでいるのは、シノビの服。

 闇に溶け込むような黒い服。口元を隠すマフラーが彼女の表情を解りにくくしている。

 可愛らしい女の子だ。しかし、その放つ気配は刃のような鋭さとそれを律する安定感を感じさせる。

 イメージするのは侍。恐らく、岐阜の戦国斬鬼onlineのプレイヤーだ。

 


「一応、言っておくが拙者は敵ではない」

 相手が敵意がないことを示すように、両手を上げる。

 拙者? 時代錯誤な言い方にまず違和感を感じる。

「……ああ、すまない。昔からの癖でな。気にしないでくれると助かる」 

 そう、小さく苦笑する。

「拙者の名はテンガ、天の牙と書き、天牙(てんが)と読む」

 本名ではない。恐らくHNか?と思ったら彼女は「真名だよ」と答える。

 

 その言葉の意味は解らない。

 しかし名乗られたからにはこちらも名乗らないと礼に反する。

「あ、私は……」

「知っておるよ。六花(りっか)・由良・ベルクマン。タクから話は聞いておる」

 そういって彼女は笑みを浮かべる。

 敵ではない。タクの名前が出てきたのもそうだが、本能的に味方だと判断。六花はゆっくりと銃を下す。


 ありがとう、と天牙は言い、たき火に近づき、腰掛ける。

 たき火越しに、互いに向かい合う。

 パチッ、と薪が弾け、火の粉が宙に消えていく。

「このダンジョンについて知っているか?」

「名前だけは、上位ダンジョンって」

「そうだ。補足すると、ここはかなり巨大なダンジョンで、文字通り機械仕掛けの巨人が多く存在する。ドロップアイテムはパンツァーのパーツ、まぁ、パンツァーの元となった種族という設定だから当たり前だな。また、このダンジョンは幾つか出入り口があり、その一つは神奈川へ通じている」

 そこまでいって彼女は言葉を切る、そして、真っ直ぐ六花の眼を見る。

「ここの地下道を抜けて神奈川へ向かうとタクから聞いたが正気か?」

 

 確かに、今の自分は身を守るのはこの銃のみ。

 このまま、朽野と合流し、ダンジョンを抜ける予定だがパンツァーの持っていないパンツァー乗りなど、足手まといでしかない。

 それでも……

「私は神奈川へ行かないといけない」

 朽野に助けてもらった命だ。どんなに苦しかろうと、地べたに這いつくばろうと最後の最後まで生きることを諦めてはならない。

 それに――


『ああ、ああ! 姿形が変わろうとも必ずお前を見つけて見せる。だから、その時は私をまた父と呼んでくれ。約束だ』



 生きていれば、この記憶を保持したまま、『かつての家族』と再会出来るかもしれない。

 無論、希望的観測でしかない。何故なら、六花が生を受けてから一度も異世界からの扉が開いた形跡がないのだ。

 しかし、だからといって希望はゼロではない。その希望を今も信じ続けている。


 そんな彼女を天牙は見つめている。

「どうやら、主も特別な星の下に生まれた者ようだな」

「……何のことです?」

「誤魔化さなくてもいい。我が魔眼がそう告げている」

「魔眼なんてスキルは戦国斬鬼onlineになかったはずでは?」

「ゲームのスキルではない。拙者の魔眼はすべてを見透かす。過去、現在、未来。すべてを、な」

 クックック、と天牙が笑う。

 その言葉に、六花は、ぴんと来る。


「あなた、もしかして転生者?」

 その言葉に天牙が何か、語ろうとし、そして……


「あれ? TENGAなんでここにいる?」


 男の声がした。

 その声に、天牙は、油の切れたロボットのように、ぎこちない動きで後ろを向く。

 さっきまでの凛とした空気を失った天牙はその姿を見て引き攣った笑みを浮かべ


「朽野、伸也」


 そう、恐れるように呟いた。




戦国斬鬼online


『鬼を切り、人を切り、修羅となれ』


和風オンラインゲーム。

侍、忍者、陰陽師、僧兵などの和風のジョブが充実。

時に都に出現する鬼を狩り、時に戦で人を切り、その強さを磨いていく。



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