間章・円卓の騎士
1月3日、勝手ではありますが設定の変更により一部キャラが変更になりました。ガテン系の男→レディース女へ
『朽野様、戦闘終了しました。東京の兵士を解放。彼が追っていた犯罪者は朽野様が保護いたしました』
チャットを通じて、その報告がもたらされたのは、2時を回った頃のことだった。
その報告がもたらされると同時に、場の空気が一気に変わった。彼らの思いは一つ『あの野郎、余計なことしやがって……』だ。
石つくりの広間を蝋燭の光が部屋を照らしている。何らかの力が働いているのか不思議と暗いとは感じない。
中世ヨーロッパの城を模したと思われるその部屋の壁には円卓と12人の騎士の描かれたゲームのロゴと、それと並ぶように、神奈川県の県章が掲げられている。
豪華だがシンプルな調度品が並び、部屋の真ん中には大きな円卓のテーブルが置かれている。
椅子は13。座るのは6人。
そこは横浜の神奈川県庁のあった場所。今はキャメロット城と呼ばれる建造物の中心部、通称『円卓』だ。
「ど、どうしてくれるのですかっ。こ、このタイミングで、東京にケンカ売るようなことをして」
そう吠えたのは、神経質そうな男。皮で出来た鎧を着込んでいるが、七三分けに黒縁眼鏡という組み合わせがサラリーマンにしか見えない。
顏を真っ青に染めながら、ここにいない誰かを攻め立てる。
「まーまー、親父、やっちまったのはしょうがねぇ。ここはドーンッと構えようぜ。ドーンッと」
そう返すのは、若い女性。金髪の髪に特攻服。昭和のレディースのような女だ。
「あ、彩音ちゃん、ではなくて岩槻殿、今、神奈川はようやく固まったばかりです。戦争する余裕なんてまったくありませんよ!」
青くなったり、赤くなったりと、信号のように顔色変えるサラリーマン風の男に、ヤンキーな女は笑い飛ばす。
どうやら、この二人親子のようだ。親子であるがゆえ、遠慮がなくなりヒートアップしていく。
「ま、なんとかなるって。心配すると禿るぞ」
「何とかならないから言ってるのですよ!」
「盗賊職の癖に細かいなぁ」
「ま、魔法職の彩音ちゃんに言われたくないですよ!」
熱くなる二人に、影響されるかのように周囲もざわめきだす。
「静まりなさい」
その中で、小さな、しかし力強い声が響く。
5人の視線が1人に集まる。
そこにいるのは、凛とした雰囲気の女性だ。
長い黒髪に、少女の面影を残した容貌。しかし、その瞳には強い意志の光が灯っている。
「岩槻、国境はどうなっている?」
「現状問題ねぇ。数人けが人が出たらしいが、何、唾でもつけてりゃ治るよ」
「では、しばらく、国境ラインの増員をお願いします。同時に、何かあったらすぐ報告を、後は黒川、東京側には、朽野が個人の行ったことであり、現在調査中とでも伝えておきなさい」
「了解しました」
岩槻と黒川。レディースの彼女が、そして人生経験豊富な父が、目の前の小柄な少女に深々と頭を下げる。
ここは、『円卓』。この席に座れるということは、神奈川における最高権力者達だ。
彼らは、『円卓の国』神奈川を建国する際の功績者。ある者は戦場を駆け抜け、ある者は陰謀を巡らせ、ある者は、民を守る為の法を仕組を作り上げた。
そんな彼らが頭を下げる存在はただ一人。
彼らを率いて国を作り上げた存在。即ち、国王だ。
朝倉涼葉。僅か19歳にして国を作り上げた英雄は、席に座る者達に告げる。
「何か意見は?」
その言葉に、一人の男が手を上げる。
「失礼ながら、王は、あの者に甘すぎませんか? 『円卓の騎士』でありながら、この場に顔を出さず、厄介ごとばかり持ち込む。この際、罷免させるべきでは?」
そう答えたのは、猟兵の男、織田康志だ。
自衛隊の、しかも精鋭であるレンジャー隊出身でありながら、気品を感じさせる整った容姿と、すらりとした肢体は、どこかの御曹司のよう。
レベルこそカンストしていないものの、その戦闘経験と、身体能力で神奈川において最強と言われた男だ。
「そ、それは私も賛成です。あの男、力がある癖に自由奔放過ぎます。いつ、その牙がこちらに向くかわかったものじゃない」
もう一人は黒川。ここにいない男に対して嫌悪感、そしてそれ以上に恐れの感情を丸出しにしている。
二人の意見は無視しにくい。
何しろ、織田は元自衛隊のメンバーを、岩槻は、『Knights of the Round Online』最大規模のギルドをまとめ上げているからだ。
「私が、彼を特別視していると?」
その鋭い視線を二人に向ける。歴戦の戦士であるはずの彼らがその視線を避けるように顔を背ける。
「いえ、言葉が過ぎました。お許しください」
何てことはない。彼らは朽野を恐れているのだ。
二人ともプライドが高いせいか、そのことに気づいていない。
そんな二人の様子に、朝倉は、心の中でため息をつく。
「私が会いたいのは彼ではありません。東京が国境を越えてまで追いかける人物。興味があります」
「そこまで、リスクを背負う必要があるとは思えませんが? 東京とことを構える可能性もありますよ?」
「その時こそ、朽野に責任をとって貰えばいいだけのこと。そうでしょ?」
そう、朝倉が笑みを浮かべる。今日一番の笑み。その笑みを見て、織田の表情が一瞬、ひきつるが、それも一瞬のこと。
「了解しました」
いつもの気品のある表情に戻る。
「それでは会議を終了します。各自、為すべきことを為してください」
『はっ!』と幹部達が立ち上がり、部屋の外へと出ていく。
「すまない。友人が迷惑をかけた」
立ち上がった際、そういうのは朝倉の隣に座っていたガウェインとも呼ばれる青年だ。
黒縁眼鏡の青年。しかし、さすが円卓に座るだけあって、並みの青年とは格の違いを感じさせる雰囲気を纏っている。
「迷惑と思うなら、彼の鎖はしっかり握っていてください。あれが他国に渡ると大変なことになりますので」
「わかった。出来る限りのことはするさ」
その青年は、小さく苦笑し、外へ出ていく。
そして、残されたのは、王一人。
はぁー、と深いため息をつき天井を見る。
天井のシャンデリアがぼやけて見える。周囲に人がいないことを確認し、眼鏡をかける。
すると、視界がはっきりする。
鋭い目じりが、僅かに垂れる。それだけで雰囲気が柔らかくなる。
「…………」
机の上に置かれたワインを継ぎ、口に含む。
ごく、ごく、ごく、とアルコールを流し込む音だけが彼女の耳に響く。
正直、飲まなければ、やっていられない。
私が、彼を特別視していると?
自分は王だ。すべての者に対し、平等でなければならない。
今回のことは、国の運営として必要だと思い、彼の案を受け入れたのだ。
だが、ふと思う。上手く立ち回るつもりだ。立ち回り益を出すことは朝倉と円卓のみんななら可能だ。
しかし、もしもだ。本当に何かあった時、自分は彼を見捨てることが出来るのだろうか?
解らない。考えれば考える程、空回り。アルコールが彼女の思考を溶かし、更に迷宮へといざなっていく。
そんな彼女の脳裏に、昔の記憶が映し出される。
幼い頃、朽野と遊んだ公園での記憶。
仲間と、そして朽野と共に、戦場を駆け抜けた記憶。
――そして、GMとして、朽野と働いた記憶。
「ほんま、あの頃に戻りたいよ。朽野君」
彼女の小さな呟きが、広い広間に溶けて消えていった。
ナイツ・オブ・ザ・ラウンドオンライン
『クラス』
イェーガー(猟兵):銃に特化。マスケッタ―の特徴を色濃く残し、爆薬の扱いも得意とする。(爆薬の製造も可能)




