第二十九話 涙
マッドとフォーサは基礎訓練場にいた。
「うぅ……」
「もう限界です……」
マッドが地面へ倒れ込む。
汗だくだった。
息も切れている。
能力訓練ではない。
ひたすら走る。
走る。
また走る。
それが毎日続いていた。
理由は単純。
体力不足。
能力以前の問題だった。
「大丈夫?」
女性が駆け寄ってくる。
優しい声。
ピンク色の髪。
ペーパーより少し若そうな女性だった。
彼女はマッドへ手を当てる。
すると。
温かい光が身体を包んだ。
疲労が消えていく。
呼吸も楽になる。
「ありがとうございます」
マッドが頭を下げた。
「ミントさん」
女性は笑う。
能力ランキング81位。
能力『軽度治癒』
ミント。
この国では日々の訓練で負傷者が出る。
そのため。
彼女は非常に重要な存在だった。
ミントが立ち上がる。
そして。
マッドへ言った。
「あなたも早く能力訓練に行けるといいわね」
マッドの表情が曇る。
言葉が刺さった。
フォーサは能力訓練。
レイも能力訓練。
ペーパーも能力訓練。
なのに。
自分だけ走り込み。
「なぜ僕が……」
小さく呟く。
「フォーサよりも……」
悔しかった。
強くなりたい。
誰よりも。
なのに。
現実は厳しい。
マッドは拳を握り締めた。
◇
一方その頃。
フォーサは能力訓練場にいた。
『強制覚醒』
自分の能力。
今までは使ってこなかった。
使えば狙われる。
だから隠していた。
だが。
今は違う。
レイたちのために。
みんなを守るために。
使いこなせるようにする。
フォーサはそう決めていた。
緑色の光が能力者を包む。
一人。
また一人。
能力者たちが驚く。
「すごいなこれは!!」
「本当に強くなってるぞ!!」
周囲から歓声が上がる。
フォーサは照れくさそうに笑った。
すると。
能力者の一人が言う。
「なぁ」
「みんなにかけてくれよ」
フォーサが首を傾げる。
「みんなに?」
男は頷く。
「そうすれば、もっとレベルの高い集団訓練ができる」
フォーサは考えた。
そういえば。
一度に複数へ使ったことはない。
試してみよう。
フォーサは深呼吸する。
そして。
両手を前へ出した。
緑色の光が広がる。
一人。
二人。
三人。
五人。
さらに広がる。
十人。
能力者たち全員を包み込んだ。
「おぉぉぉ!!」
歓声が上がる。
「すごいぞ!!」
「ありがとう!!」
能力者たちが喜ぶ。
フォーサは驚いていた。
できた。
十人同時。
こんな力があったなんて。
だが。
次の瞬間だった。
視界が揺れる。
身体から力が抜けた。
「あ……」
立っていられない。
そのまま。
フォーサは倒れた。
◇
フォーサが目を開ける。
見慣れない天井。
ベッドだった。
「フォーサ!」
聞き慣れた声。
マッドが顔を覗き込んでいた。
「大丈夫ですか!?」
心配そうだった。
フォーサは無意識に拳を振る。
ゴッ!!
「なんで!?」
マッドが吹き飛んだ。
フォーサも驚く。
その様子を見て。
隣から笑い声が聞こえた。
「あら」
「面白い二人ね」
ミントだった。
マッドが頬を押さえながら立ち上がる。
「ミントさんが回復してくれたんですよ」
フォーサはミントを見る。
温かい笑顔。
優しい目。
そして。
ふと思った。
マリンと同じくらいの年齢だ。
マリン。
その名前が頭をよぎる。
守ってくれた人。
優しかった人。
もういない人。
気付けば。
涙が溢れていた。
止まらない。
「えっ!?」
マッドが慌てる。
どうしていいか分からない。
その時だった。
ミントが優しくフォーサを抱きしめる。
「大丈夫よ」
たった一言だった。
だが。
それだけで十分だった。
フォーサは顔を埋める。
そして。
大声で泣いた。
今まで我慢していたもの。
全部。
吐き出すように。
泣いた。
泣き続けた。
マッドはその姿を見つめる。
そして。
少しだけ笑った。
フォーサはやっと。
マリンの死と向き合えた。
マッドは静かに立ち上がる。
そっと部屋を出た。
そして。
再び訓練場へ向かった。
強くなるために。




