第126話 怒り
静寂。
爆発の跡地。
誰も動かない。
誰も言葉を発しない。
ヴェルナがその場所を見つめる。
フィオナがいた場所。
何も残っていない。
ヴェルナの作戦は。
完璧だった。
はずだった。
ディオンにマギアを攻撃させる。
ヴェルナが軌道をずらす。
吹き飛んだマギアの先には。
フィオナがいる。
『超治癒』により回復。
そして。
『鈍足化』が解除されたことで。
ディオンは油断する。
その瞬間。
マギアが再び能力を発動。
動きを止める。
そこへ。
ファルスの『超圧縮』。
ディオンを殺す。
だが。
この作戦を見破った。
ディオン。
違和感を感じるはずのない場面で。
違和感を感じた。
全員が。
自然に。
完璧に。
動いた。
だからこそ。
ディオンは気付いた。
完璧すぎると。
そして後退した。
だから。
的をガイアに変更した。
ファルスの攻撃を受けた。
全身を圧縮された。
普通なら即死。
だが。
倒れなかった。
動いた。
自爆した。
もはや人間ではなかった。
「なんで……」
マギアが震える。
涙が止まらない。
「なんで私を生かしたのよ!!」
叫ぶ。
泣きながら。
フィオナが最後に押した。
マギアを。
助けるために。
理由は単純。
今この場で。
ディオンを止められる可能性があるのは。
マギアだけだから。
フィオナは理解していた。
自分の役割を。
最後まで。
ヴェルナが剣を握る。
強く。
強く。
血が出るほど。
ディオン。
殺す。
絶対に。
◇
ディオンは立っていた。
動かない。
何も考えられない。
仲間の死。
そんなものは慣れていた。
ドルガンの国。
地獄の特訓。
毎日のように誰かが死ぬ。
昨日いた奴が。
今日はいない。
そんな世界。
だから。
失ったはずだった。
悲しみなんて。
だが。
ガイアは違う。
ずっと一緒だった。
うるさかった。
馬鹿だった。
無鉄砲だった。
それでも。
いつも隣にいた。
気付けば。
一番長く一緒にいた。
信頼していた。
その男が。
消えた。
ディオンの頬を何かが流れる。
涙だった。
「ガイア……」
声が震える。
拳を握る。
震える拳を。
無理やり握り締める。
「あとは任せろ」
誰にも聞こえない声。
それでも。
確かに言った。
ヴェルナを見る。
ヴェルナもディオンを見る。
悲しみ。
怒り。
憎しみ。
全てが混ざる。
そして。
二人は再び向かい合った。
◇
中衛。
「まさかぁぁぁ」
スライムが後退する。
「体術も強いなんてねぇぇぇ!!」
汗が流れる。
能力ランキング第3位。
クロノ。
異常だった。
能力だけではない。
身体能力も。
化け物。
「ふぉっふぉっふぉ」
クロノが笑う。
「お前さんこそ」
拳を振るう。
「60位とは思えんのぉ」
ドゴォッ!!
スライムが吹き飛ぶ。
液状化して衝撃を逃がす。
それでも痛い。
押されている。
完全に。
レイは攻撃の機会を探す。
クロエも同じ。
だが。
隙がない。
どこにも。
しかも。
異形が邪魔をする。
数が多い。
時間が経つほど。
こちらが不利。
このままでは。
中衛が壊滅する。
誰もがそう思った。
その時。
伝令が叫ぶ。
「……ガイアが死んだ!!」
戦場が止まる。
スライムの顔から笑顔が消える。
固まる。
数秒。
そして。
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
叫ぶ。
怒り。
初めてだった。
スライムが本気で怒る。
粘液が爆発的に増える。
地面を覆う。
空気を震わせる。
「おっと」
「危ないのぉ」
交わしきる。
全て。
だが。
クロノがふと振り向く。
「ん?」
殺気。
強烈な。
別の方向。
そこには。
クロエがいた。
表情が消えている。
怒りだけが残っている。
たった数日。
殺し合った。
罵り合った。
認めたくもなかった。
それでも。
認めていた。
ガイアを。
友情ではない。
仲間でもない。
だが。
ガイアの死が。
許せなかった。
「殺してやる!!」
クロエが叫ぶ。
クロノの影が動く。
影から腕が出る。
そして。
腕が変形する。
棘。
一本の影の棘。
一直線。
殺意だけを込めた一撃。
「これはいかん」
クロノの表情が初めて変わる。
異形と位置を入れ替える。
いつもの回避。
だが。
「なんじゃ?」
足元がおぼつく。
「遅い!!」
クロエが叫ぶ。
影の棘が伸びる。
そして。
クロノを捕らえた。




