戦術授業3-1
深樹はその言葉を聞きながら、無意識に考えていた。
自分ならどう動くか。
どこを見るか。
もし自分が後ろに立つなら。
その時だった。
「深樹ならどうする?」
「――っ」
急に名前を呼ばれ、深樹が顔を上げた。
教室の視線が集まる。
そして。
前を見ると。
蒼真がニヤッと笑っていた。
「いや、なんか考えてそうだったし」
軽い口調。
でも視線はしっかりこちらを見ていた。
深樹は小さく息を吐く。
モニターを見る。
「……俺なら」
教室が静かになる。
「多分、最初に右は捨てる」
神崎が少しだけ目を細めた。
「理由は?」
「右後方の敵、距離が少し遠かった」
「だから一番近い正面処理を優先する」
「あと柱使えば右側の視界切れるから、同時に来れなくなる」
教室の視線がモニターへ向く。
「それに、三方向全部見るより、一方向だけにした方が後衛も撃ちやすい」
数秒の沈黙。
「……おぉ」
誰かが声を漏らした。
蒼真が笑う。
「やっぱ見えてるじゃん」
「……たまたまだ」
「いや今のは普通に分かってないと出ないって」
その時。
「あと」
神崎が口を開く。
「深樹の言った“視界切る”ってかなり大事」
「敵って見えると焦る」
「でも実際来れない位置なら優先度下げられる」
「だから地形使う」
そして。
「ちゃんと危険の順番見れてる」
その言葉に教室の空気が少し変わる。
その時。
「へぇ」
蒼真が頬杖をつきながら笑う。
「深樹って結構後ろ見るタイプ?」
「……は?」
「いや、前衛より索敵とか指揮向いてそうだなって」
一瞬。
深樹の動きが止まる。
だが蒼真は気にした様子もなく前へ向き直った。
その後も授業は続いた。
転倒した前衛を即座にカバーした仲間達。
三パーティ合同で行う大規模戦闘。
状況に応じて動く指揮役。
そして神崎の解説。
「指揮役の仕事は命令じゃない」
「仲間が見えてないものを見ること」
「探索者って戦う職業に見えるけど」
「本当は判断する職業」
授業の最後。
神崎はモニターの電源を落とした。
「以上」
一瞬。
「戦術基礎終わり」
キーンコーン――
終了のチャイムが鳴り響く。
「終わったー!」
「頭使ったぁ……」
「戦闘より疲れる……」
教室の空気が一気に緩んだ。
神崎は紙コップを片手に教室を出て行く。
「お疲れー」
最後まで気の抜けたままだった。
だが。
深樹は席を立たなかった。
索敵。
視界。
距離。
違和感。
隊列。
指揮。
信頼。
今日学んだことが頭の中で繋がっていく。
昼休みに見た合同任務の通知も思い出す。
現場指揮担当――橘総司。
(……指揮役か)
自分には索敵能力がある。
だから見えていたものもあった。
でも。
今日学んだのは能力の話じゃない。
情報をどう扱うか。
それが重要だった。
そんなことを考えていると――
「深樹」
不意に声がかかった。
聞き覚えのある声だった。
深樹が顔を上げる。
そこには。
いつもの人懐っこい笑みを浮かべた天音蒼真が立っていた――。




