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第73話 一コマの独白M


「あ、あのぉー……俺って……ここに来る必要ありました?」


 成り行きで、再び赴くことになってしまったコンビニの前に立っていた俺は、顔をピクピクさせながらそうボヤく。


 ――訊ねているのは誰か?


 そんなもの……言及するまでもなく、目の前に現着したばかりの見目麗しい歳上の女子生徒――現・城才学園生徒会長・桜崎茉莉伊《さくらざきまりい》、この人に決まっていた。


「当たり前だ。私はここで何があったのかを正確に把握するために来たのだぞ? 揉め事を起こした張本人が偶然いるっていうのに話を聞かないわけがないだろう」


「うぅっ……な、何で……何で今日はこんなに不幸が続くんだ……くそう……厄日だ……」


 あと少し……あと少しで自室だったのに……。

 何でつぼみんあんなタイミングで寮から出てくるんだよぉぉ……。


 会長の隣にいた藍も少し気にはなったが……そんなことよりも、とにかくつぼみん憎しという気持ちがいっぱいで、つぼみんと……ついでに俺をここまで連れてこさせた会長を軽く睨む。


「……何か文句でも?」


「いっ…………いえ、会長に会えて嬉しいなぁーと。あははは」


「ならいい」


 バレないようにこっそり睨んだつもりだったのに、ありえない速度でえげつない眼光のカウンターを返されてしまった。

 もう片方の睨んだ対象であるつぼみんはというと……何だか俺と会長を交互に見ては、それから藍の方も見て……驚いた? ような顔をしてるし……なんだ、訳が分からない。


 ……え、まじのまじに、なんでつぼみんは驚いてるの?


 この状況になったのって元を辿ればつぼみんのせいだよ??

 分かってる??

 怒るよ??

 まじだよ??

 いいの??

 いいんだね??


 なんて、心の中で呟いていると――。


「どうした野内。やはり私に文句があるのか? いいだろう、聞いてやる。遠慮なく言ってみろ」


「……い、いえ。今日も相変わらず会長は美しいなぁー、と思いまして! ええええ、ほんとーにそれはもう……目を背けたくなるほどですね、はい」


 怖いから目を背けたい……。


「はぁー……まったく。調子の良さは相変わらずだな、野内。だが、少し安心したぞ。お前のその様子を見るに、本当に黒(・)では無さそうだ」


「そ、そりゃそうですよ、会長。俺が万引きなんてするわけないじゃないですかー、あはは……」


 お、おいおいまじか……。

 もしかしてまだ俺ってば疑われてたの??

 何かここまで短時間で犯罪者扱いされまくると普通にショックなんだけど……。


 いやてゆーか、何でつぼみんを睨んでたのにまた会長が反応するんだよ。

 これはあれだろうか。

 動物の親が子を守る的なあれ?


「それもそうだな。だがしかし、野内。事件把握のため冤罪をかけられたというお前自身から話を聞いておきたいということもあるにはあるが……それとは関係なく、私は個人的にこの冤罪事件を少々クサイと思っていてな。時間はそれほど取らせんから私に協力してくれないか」


「はぁ……? まぁ……なんだかよく分かりませんけど、会長の頼みとあらば……」


 何に対してかは分からないが、俺のめんどくさいレーダーに反応があった気がしたので、なるべく会長たちの事情や詳細は聞かないよう心がけて、とにかく従順に会長へ従うことに即決する。

 というかもうこの状況では従う他ない。

 あとその際、「早く家でゴロゴロしたいんでなるべくはやくしてくださいね」とは口に出さなかった。

 えらい、俺。


「感謝する。ならば善は急げ、だ。早く店長の天長さんとやらに会いに行くとしよう」


 そう言って、スピーディーに長い艶やかな髪の毛をヒラリと翻し、背を向けるマリー会長。

 これはもしや、口に出していないのに俺の早く帰りたいオーラを感じ取ってくれたのだろうか。

 えらい、会長。


「さて、じゃあ俺たちも行くとしますか……って、あれどうかしたの二人とも」


 会長の後をいの一番に着いていこうとした俺――を見て、何故か藍とつぼみんは動こうとせず、何か言いたげに佇んでいた。


「い、いや……別に何でも、ないんだけど……」


 今日……というかちょっと最近ぎこちない俺と藍――二人の間では、会話があまりなかった。

 まぁもともと仲は最悪で、会話なんて数える程しかなかったんだけど……あの再告白以降というか、卵焼き以降というか……とにかく今は凄く変な関係だった。


「そ、そう……?」


 そのせいだろうか。

 端的に言って、なんだか微妙に……いや、すごく気まずいのだ。

 変な話、邪険にも扱えないし、かといって好きでもないし。

 なのに彼氏彼女として公認の関係なんだから始末が悪い。


「で? つぼみんはどうかしたの?」


 俺は逃げるように……というか、こっちもさっきから気になってたから逃げでもないんだけど、さっきからずっと目を見開くように驚いていたり、唸っていたりしてたつぼみんに会話を移した。

 一体どうしたんだつぼみん。


「……んーん。大丈夫。気にしないで」


「……そ、そう?」


 あれ、何だか目が怖い気がするのですが……。


「さ、じゃ行こっか。藍ちゃん」


「……あ、うん」


 俺の前を歩き出した、何だか気まずい藍と、変なつぼみん。


 これは……なんだ。

 うん、まぁ……なんか…………。


 とにもかくにも……思うことは一つ、かな。



「早く帰らせてください……会長……」



 俺は、誰にも聞こえない声でそう呟いた。



 ――そして。


 マリー会長、俺、藍、つぼみんの四人で過ごしたこのアフタータイムは、「早く帰らせてください……会長……」と俺が再び呟くことなくお開きとなった。

 その理由はズバリ、会長が敏腕すぎて気が付いたときには終わっていたからだ。


 えらい、会長。


 まじえらい。


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