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第89話 一時帰宅

王城での王妃教育と騎士団での鍛錬に励んでいたクラリスとアレンは、一時的に公爵家へ帰ることとなった。

馬車が公爵家の門をくぐり、静かに止まる。クラリスとアレンが降り立つと、懐かしい屋敷の景色が目に入った。


「やっぱり、落ち着くわね……」


クラリスが小さく息を吐きながら呟く。アレンもまた、公爵家での日々を思い出しながら、静かに頷いた。


「さあ、お父様にご挨拶しないと」


クラリスとアレンは公爵の執務室へと向かった。扉をノックし、クラリスが声をかける。


「お父様、クラリスです。ただいま戻りました」


「入れ」


公爵の低く威厳のある声が扉の向こうから響く。


クラリスが扉を開け、部屋に入ると、公爵は書類に目を通しながら二人を見やった。


「うむ、王妃教育は大変だろうがこれからも精進するように」


「はい」


クラリスは背筋を伸ばし、しっかりとした口調で答えた。


公爵は頷き、次にアレンへと視線を向ける。


「アレンも、より精進して立派な騎士になるために努力しろ」


「はい! お嬢様を守れるように頑張ります!」


アレンの力強い返事に、公爵は満足げに微笑んだ。


「うむ、二人とも休むといい。しばらくはここで英気を養うがよい」


「ありがとうございます、お父様」


クラリスは深く礼をし、アレンもそれに倣う。


挨拶を終えたクラリスとアレンは、まっすぐ修練場へ向かった。


「アレン、やっぱり鍛錬するの?」


クラリスが尋ねると、アレンは頷いた。


「はい。王城では基礎訓練が中心でしたから、ここでしっかり実戦的な訓練をしておきたいんです」


クラリスは微笑む。


「ふふっ、アレンらしいわね。じゃあ、私は見学させてもらうわ」


修練場に到着すると、そこにはすでにフロストが待ち構えていた。


「おぬし、遅かったのじゃ!」

フロストが嬉しそうに飛び跳ねながらアレンに駆け寄る。


「フロスト、久しぶりだね」


「うむ! 我はこの間、鍛錬を続けておったからの! かなり上達したぞ!」


フロストは誇らしげに胸を張る。


「そうなんだ。じゃあ、俺もどれだけ成長したか見せないとね」

アレンも自信に満ちた笑みを浮かべる。


「では実際にやってみるのじゃ!」


「よし!」


アレンは集中し、魔力を練り始めた。


アレンの中で魔力がスムーズに流れ出し、まるで川の流れのように全身を巡る。

さらに、フロストからの魔力供給も加わることで、その力は増していった。


「アレンに流す魔力をコントロールしてね」

ヒカリがフロストに言うとフロストは頷く。

「わかっておるのじゃ!」


フロストは慎重に魔力を調整しながら、アレンに供給し続ける。


アレンはその魔力を氷の槍へと変換しようと試みる。


(……いける!)


目を閉じ、イメージを固める。冷気が腕を伝い、手のひらの上に氷の粒子が集まる。

次第に形をなし、鋭い槍へと変わっていく。


「氷槍――!」


アレンが声を上げると同時に、氷の槍がその手の中に現れた。


「おお! すごいのじゃ!」


フロストが驚きの声を上げる。


「さすがアレン、しっかり魔力を制御できてるみたいね」

クラリスも感心したように微笑む。


「でも、まだここからが本番だ」

アレンは槍を持ち上げると、目の前の標的へと狙いを定めた。


「行くぞ――!」


ヒュンッ――!


鋭く氷の槍を投げると、それは一直線に飛び、標的を正確に貫いた。


「おお! 命中率も上がっているのじゃ!」

フロストがさらに興奮する。


「よし、次は複数の槍を同時に作る練習をしてみる!」


アレンは新たな挑戦へと進もうとしていた――。


その後もアレンとフロストの鍛錬は続き、より高度な技術を習得するために試行錯誤を繰り返した。


「アレン、休憩はしなくていいの?」


クラリスが心配そうに声をかけるが、アレンは汗を拭いながら微笑む。


「もう少しだけやります。今は、すごくいい感じなんで」


「そう……なら、無理はしないでね」


クラリスは心配しつつも、アレンの強い意志を尊重する


そしてフロストは満足げに胸を張り、自信に満ちた笑みを浮かべていた。


「アレン、次は我の成果を見せるのじゃ!」

フロストはそう言うと、自分の魔力を操作し始めた。


アレンは目を細め、じっとフロストの動きを観察する。


(フロストも成長したんだな……)


ゆっくりとフロストの魔力がその小さな手のひらに集まっていく。


その流れは以前と比べて格段にスムーズで、乱れがない。


(なるほど、魔力の操作精度が上がってる……)


アレンが感心していると、フロストは次の段階へと移った。


「見よ! 今度はこの魔力を氷の刃へと変換するのじゃ!」


フロストは魔力をさらに凝縮し、冷気を帯びた青白い光が手のひらで揺らめく。


やがて、その光が収束し、美しく輝く氷の刃となった。


「どうじゃ! 我の成果は!」


フロストは誇らしげに氷の刃を掲げる。


アレンは目を見開いた。


「すごい……! フロスト、本当に上達したね!」


「ふふん! 当然なのじゃ!」


フロストは鼻高々に笑いながら、さらに魔力を込めようとする。


だが、次の瞬間――


「油断大敵!」

ヒカリの鋭い声が響く。


(えっ?)


フロストが一瞬戸惑ったその時、突然、魔力の流れが乱れた。


「えっ、な、なんじゃ……?」


フロストの手のひらから、暴走した冷気が勢いよく溢れ出す。


「まずいのじゃ……!」


フロストの魔力が大きく揺れた。


手にしていた氷の刃が不安定に震え始め、やがて制御を失い、周囲の空気を急激に凍らせていく。


氷の粒子が空間に散りばめられ、修練場の温度が一気に下がった。


「くっ……止まるのじゃ!」


フロストは必死に魔力を抑えようとするが、暴走は止まらない。


(このままだと……!)

「シャインプリズン!」


ボフッ――!


突如、純白の光がフロストの体を包み込む。


ヒカリの声が響くと同時に、フロストが光の牢獄に捕らえられた。


暴走していた冷気が一気に収束し、フロストの体から漏れ出していた魔力が拡散する。


「またやってしまったのじゃ……!」


ヒカリはため息をついた。

「だから油断大敵って言ったよね……」


フロストは、さらにしゅんと肩を落とす。

「うぅ……」


アレンは凍りついた空気を感じながら、ゆっくりと息を吐いた。


「フロスト、大丈夫?」

アレンの優しい声に、フロストはうなずく。


「すまぬ……つい調子に乗ってしまったのじゃ……」


「でも、すごく成長したよ。暴走さえしなければ、完璧だった」


アレンはそう言って、フロストの頭を優しく撫でる。


「おぬし……」

フロストは感動しながらも、少し恥ずかしそうに顔をそらした。


「むぅ……次こそは暴走せずにやってみせるのじゃ!」


クラリスはその様子を見守りながら、静かに微笑んだ。


(アレンもどんどん成長してるわね……)


自分も負けていられないと、クラリスは改めて心を引き締めた。


こうして、一時帰宅中の鍛錬は続いていく。

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