第74話:苦悩は続く
ミリアの苦悩は終わらなかった。
光精霊、聖女の髪飾り……本来なら自分が手に入れるはずだったものが、ことごとくクラリスの手に渡っていた。
「なんで……なんで私のものが全部クラリスのものになってるのよ……!」
男爵の養女となったミリアは、貴族としての勉学と聖女の役割に必死で取り組んだ。
「私はヒロイン……絶対にこのまま終わらせない……!」
そう誓いながら、彼女は自らの地位を築くために努力を重ねた。
12歳になったミリアは、聖女巡礼に同行することになった。
「ここからが本番……」
彼女は焦っていた。
本来、ゲームが始まるのは学園編から。それまでの出来事はただのあらすじに過ぎなかった。
(つまり、今私はゲームのあらすじの中にいるってこと……)
そして、そのあらすじの中で重要な出来事があった。
「……氷の貴公子」
ゲームが始まるとき、氷の貴公子アレンが執事見習いとしてヒロインのそばにいた。
(たしか……ヒロインが聖女巡礼で訪れた町で、アレンと出会い、母親の病気を治した……そこからアレンがヒロインの執事見習いになったのよね)
「町の名前は……カサンガ!」
巡礼の途中、偶然にもその町を訪れることになったミリアは興奮した。
(ここなら……アレンがいるはず! 彼を見つければ、ゲームのルートに戻れる!)
希望を抱きながら、ミリアはスラム街へ向かった。
「アレン……どこにいるの?」
ミリアはスラム街を歩き回り、少年の姿を探した。
(このスラムに住んでいたはず……)
通りすがりの人々に尋ねてみる。
「ねぇ、このスラム街に住んでいるアレンという少年を知らない?」
「アレン……? ああ、あの子か」
「!!」
ついに手がかりを見つけたミリアは、期待に胸を膨らませる。
「どこにいるの? 会わせてほしいの!」
しかし、次の瞬間、返ってきた言葉は彼女の期待を打ち砕いた。
「あの子なら、もうここにはいないよ」
「え……?」
「1年前に母親の病気が治って、ここを出て行ったよ」
「……嘘……」
ミリアは耳を疑った。
「ちょ、ちょっと待って……母親の病気が治った? どういうこと!?」
「さぁな、詳しいことは知らないが、貴族様が面倒を見てくれたらしいよ」
「…………っ!」
ミリアの目の前が真っ暗になった。
(そんな……だって、アレンの母親の病気を治すのはヒロインの役目のはず……!!)
頭が混乱する。
(じゃあ……誰が治したの!?)
「アレンが……いない……?」
ゲームの流れが完全に狂っている。
(だめ……このままじゃ……私がヒロインになれない……!!)
震える手を握りしめながら、ミリアは必死に現実を受け入れようとした。
だが、その現実は、ミリアにとってあまりにも残酷すぎた——。




