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光精霊に転生した俺は悪役令嬢推しでした!  作者: のほほん


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第75話:新たな始まり

クラリスは長かった視察を終え、自身の邸宅へと帰還した。


屋敷の門をくぐると、一人の少年が出迎えた。


「クラリス様、お帰りなさい」


少年――アレンは、深々と頭を下げた。


「ただいま、アレン」


アレンは、クラリスの執事見習いとしてこれから正式に仕えることになっている。


以前までスラム街で暮らしていた彼は、クラリスの手によって救われた。

母親の病気も完治し、今は屋敷の使用人たちとともに別邸で暮らしている。


「新しい生活には慣れた?」


「はい、皆さんとても親切にしてくれますし、執事としての心得も少しずつ学んでいます」


アレンは礼儀正しく答えたが、どこか不安げな表情も見せた。


クラリスはそんな彼の様子に気づいたが、深くは追及しなかった。

今はまだ、新しい環境に慣れることが大事だからだ。


「そう、それならよかったわ。これからもよろしくね、アレン」


「はい! クラリス様!」


クラリスが微笑むと、アレンの表情も少し和らいだ。


しかし、その後すぐに執事が彼女に声をかけた。


「クラリス様、ご当主がお呼びです。書斎へお越しください」


「わかったわ」


クラリスは執事の言葉に頷き、父のもとへと向かった。


書斎の扉をノックすると、すぐに低く威厳のある声が返ってきた。


「入れ」


クラリスが扉を開くと、書斎の奥に座る父、エドワード・エルステッド公爵の姿があった。


「戻ったか」


「はい、お父様」


「ご苦労だったな」


父は手元の書類を整理しながら話を続けた。


「視察の報告はすでに受けている。概ね順調だったようだな」


「はい、市場や商店の状況も確認しました。問題点もいくつかありましたが、改善の余地はあります」


「そうか、それはよい」


父は頷いたあと、机の上にある一枚の報告書を手に取った。


「さて、本題だ。まずアレンについてだが……教会で属性検査を行ったところ、たしかに氷属性を持っていた」


「……やはりそうでしたか」


クラリスはすでに知っていたが、正式な検査結果を聞いて改めて納得した。


「アレンとその母親には、今後執事やメイドが住む別邸で暮らしてもらう。そしてアレンはお前の執事として育てることにする」


「ありがとうございます、お父様」


「礼を言うのはまだ早い」


父の声が少し硬くなった。


「アレンの出生についてだが……母親に尋ねたところ、頑なに口を閉ざしていた。どうやら何者かに口止めされている可能性が高い」


「……!」


クラリスは驚いた。


「ならば……アレンは貴族の血筋という可能性が?」


「十分にありえる。こちらで引き続き調査を進める」


父の言葉に、クラリスは複雑な表情を浮かべた。


アレンはただのスラム街の少年ではなく、本当は貴族の子供なのかもしれない。

だとすれば、彼の未来は大きく変わることになるだろう。


「いずれ真実は明らかになる。その時、アレンがどう生きるべきかを考えねばならんな」


「……はい」


クラリスは静かに頷いた。


しかし、父の表情はまだ険しいままだった。


「それよりも問題は、お前のことだ」


「え?」


「お前がアレンの母親の病気を治したことの方が、重要だ」


「……っ!」


クラリスは息を呑んだ。


まさか、この話をされるとは思わなかった。


「どういうことですか?」


「視察団の中にいた医師から報告を受けた。彼によれば、アレンの母親は通常の治療では治せない病だったはずだ。にもかかわらず、突然回復した」


「……」


クラリスは言葉を詰まらせた。


「まさかとは思うが……お前、何か特別な力を使ったのではないか?」


「…………」


クラリスは迷った。


どう説明すればいいのか――いや、そもそも説明すべきなのか。


「答えられないか?」


父の厳しい視線がクラリスに注がれる。


「……いいえ」


クラリスはゆっくりと息を吸い込み、言葉を選びながら話し始めた。


「たしかに、私はアレンの母親の手を握りました。そのとき、髪飾りが光り、魔力が流れ込んできたのです」


「……髪飾りが?」


父は眉をひそめた。


「ええ。私は光属性の資質は持っていません。それでも……あのとき、何かが起こったんです」


「……なるほどな」


父は腕を組み、しばし考え込んだ。


「その髪飾りは、ただの装飾品ではないのかもしれん」


「……お父様?」


「古い文献を調べれば、何かわかるかもしれないな」


そう呟く父の表情は険しく、慎重なものだった。


「ひとつ言っておく。お前のこの経験は、決して外部に漏らすな」


「え?」


「もしこの事実が知られれば、髪飾りの力を求めて危険な連中が動き出す可能性がある」


「……!」


クラリスは思わず息をのんだ。


「お前も十分に気をつけろ。決して、不用意に力を使うな」


「……わかりました、お父様」


クラリスは深く頷いた。


この力を不用意に使えば、思わぬ危険が訪れるかもしれない。


「今日はここまでにしよう。しばらくは屋敷で休むといい」


「はい、ありがとうございます」


クラリスは父に一礼し、書斎を後にした。


廊下を歩きながら、クラリスは深く考え込んでいた。


(聖女の髪飾り……これは一体?)


そのとき、ふと扉の向こうからアレンの声が聞こえた。


「クラリス様、これからもよろしくお願いします!」


「……ええ、よろしくね、アレン」


新たな生活が、今まさに始まろうとしていた。

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