第38話 ヒカリの主張と証明
お茶会の場から少し離れた場所で、ヒカリは真剣な表情で語り始めた。
「俺さ、ずっと思ってたんだけど……精霊って、こうあるべきだ! っていう常識が俺の中には無いんだよな」
カインは腕を組みながら問いかける。
「どういうことだ?」
ヒカリは自信たっぷりに説明を続ける。
「俺たち精霊は魔力の塊みたいなもんだよな? でも、人間は魔力回路を持っていて、そこを魔力が流れることで魔法を発動するんだ」
ルーファが頷く。
「確かに、人間の魔法は魔力回路を通して発動するものね」
「だよね? でも俺たち精霊は体そのものが魔力だから、そもそも魔力の循環なんて考えなくてもいいはず。だから、魔力を操作できれば魔法も使えるんじゃないかって思ったんだ」
エルは戸惑いながら言う。
「で、でも……僕たち精霊は契約者に魔力を供給するのが役目で、基本的には自分で魔法を使わないよ……?」
「それは、ただの習慣じゃない?」ヒカリは自信満々に言った。
「契約者と精霊が契約すると、人間が保持できる魔力量が増えて、精霊の魔力も使えるようになる。でも、それって契約者に依存する考え方だよね?」
カインは少し考え込む。
「……確かに、俺たち精霊は契約者のために魔力を提供する存在として考えられてきた。だが、それが唯一のあり方だとは限らない」
「そう!」ヒカリは笑顔で続ける。
「俺たちは魔力の塊だから、魔力が尽きたら消えてしまう。でも、自然に魔力が集まるから、完全に消滅することはほぼない。だったら、自分で魔力を操作して魔法を使っても問題ないはずなんだよ」
ルーファは驚きの表情を浮かべる。
「でも、それを証明するのは難しいんじゃない?」
「いや、簡単だよ!」ヒカリは自信満々に言った。
「実際にやってみせるから」
カインが警戒したように声をかける。
「おい、ヒカリ、まさか——」
だが、ヒカリはすでに魔力を放出し始めていた。
「体から魔力を対象に流す感じで……放出することで魔力操作を覚えて……そして、魔法のイメージをしっかり持てば——」
ヒカリは手を前に突き出し、強く念じた。
「対象を守る盾を作る……!」
その瞬間——
「やばっ!」
ヒカリの叫びと同時に、クラリスの周りに光り輝く魔法の盾が現れた。
「えっ?」
クラリスは驚きつつも、すぐにヒカリを睨んだ。
「こら! ヒカリ、いきなり魔法を使わないでって言ったでしょ!」
ヒカリは慌てて両手を挙げ、申し訳なさそうに言った。
「ごめんよ……クラリス」
エル、ルーファ、そして遠くからお茶会を見ていたセシリアとエリーナも、その異常な光景に驚き、言葉を失っていた。
セシリアは目を見開いたまま、エリーナにささやく。
「ねえ、エリーナ……クラリス様って、火属性だったわよね?」
「う、うん……でも、今の魔法、どう見ても光属性よ……」
クラリスはため息をつきながら、ヒカリを見つめた。
「ヒカリ、前にも言ったけど、せめて私に一言言ってから魔法を使ってよ……」
「いや、その、つい勢いで……」
しかし、この様子を見ていたセシリアとエリーナには、ヒカリの姿が見えていない。
エリーナが目を見開いたまま呟く。
「ク、クラリス様……今の魔法……」
セシリアも困惑している。
「……今の魔法、どう見ても光属性だったわよね?」
クラリスは少し焦った表情で答える。
「え、ええっと……」
カインは呆れたようにため息をつく。
「お前は本当に……いつも考えるより先に行動するよな」
ルーファはまだ信じられないという表情でヒカリを見つめる。
「精霊が自分で魔法を発動させる……そんなことが本当にできるなんて……」
しかし、ヒカリは自信満々に言い放つ。
「ほら、言ったとおりでしょ? 俺たち精霊も、魔力をちゃんと操作すれば、魔法を使えるんだよ!」
カインは少し考え込みながら言う。
「……たしかに、お前の言うことには一理ある。精霊が魔法を使わないのはただの慣習であって、絶対のルールではない現に俺も魔法を使えるようになったからな」
ルーファはまだ信じられないという表情でカインを見て言った。
「え?カイン、あなたも魔法を使えるの?」
カインは堂々と頷く。
「ああ、ヒカリの影響でな」
エルは戸惑いながら呟く。
「ぼ、ぼくも初めて見た時は驚いたよ……精霊が魔法を使うなんて……」
ルーファは難しい顔をしながらヒカリとカインを見た。
「でも、じゃあ……もし精霊がみんな魔法を使い始めたら、契約者の存在意義はどうなるの?」
ヒカリはしばらく考えた後、ニッと笑った。
「それはそれ、これはこれ! 俺たちが契約者を必要としないって話じゃない。契約者と一緒にいることで俺たちはもっと強くなれるし、逆に契約者が困っているときは俺たちが助けることもできる。お互いに支え合う関係になればいいんじゃない?」
その言葉に、ルーファ、エルはしばらく考え込んだ。
「……新しい考え方、ね」
ルーファはぽつりと呟いた。
クラリスはヒカリの言葉を聞きながら、小さく微笑んだ。
「まあ……ヒカリが何を考えてるのかは大体わかったけど、次からはもう少し落ち着いて実験してくれると助かるわ」
「了解!」ヒカリは元気よく答えた。
遠くからその様子を見ていたセシリアとエリーナは、改めてクラリスの魔法に驚きを隠せなかった。
「クラリス様……どうやって光属性の魔法を……?」
セシリアがそう呟くと、エリーナも小さく頷いた。




