第39話 考え方と魔力操作
お茶会の場から少し離れた場所で、ヒカリはルーファとエルに向かって語り始めた。
「いい?魔力の操作ってのはこんな感じでやるんだよ」
ヒカリは手を軽くかざし、そこからふわりと光の粒子が舞い始める。
「まず、魔力を流す対象を決める。それから、その魔力をどんな形にするかをイメージするんだ。さっきの魔法は、魔力をクラリスの周りに送り込んで、『彼女を守る盾』のイメージを与えたから、あの光の盾ができたってわけ」
ヒカリはまるで当たり前のことのように説明するが、それを聞いていたルーファとエルは困惑していた。
ルーファは少し戸惑いながら言う。
「……でも、それは本来主が行うことよね? 精霊が魔力を操作して魔法を使うなんて、普通は考えられないわ」
エルも頷く。
「僕たち精霊の役目は契約者に魔力を供給すること……それ以上のことは……」
カインが腕を組みながら言った。
「だからこそ、ヒカリの考え方は本来の精霊にはない発想なんだよ」
「どういうこと?」ルーファが眉をひそめる。
カインはゆっくりと説明した。
「俺たち精霊は、主を守るために契約を結び、主に魔力を提供する。でも、主が窮地に陥ったとき、俺たちは魔力を供給することしかできない。目の前で主が傷ついても、俺たちはただ見ているだけの存在だ」
ルーファとエルは、その言葉を聞いて考え込む。
カインは続けた。
「だが、ヒカリはそれに納得できなかった。だからこそ、自ら魔力を操作し、魔法を使う手段を編み出したんだ。自分の力で主を守るためにな」
ヒカリは得意げに胸を張る。
「そういうこと! 俺はただ、クラリスを守る手段を増やしたかっただけだよ」
ルーファとエルは互いに顔を見合わせた。
(たしかに……もしセシリアやエリーナが窮地に陥ったら、私たちは何もできない。ただ見ているだけしか……)
(それで本当にいいのか……?)
精霊としての考え方が少しずつ揺らぎ始める。
カインはそんな二人を見て、静かに言った。
「……お前たちも、自分の主を守るために何ができるのか、考えてみるといい」
ルーファとエルは再び考え込んだ。そして、ゆっくりと顔を上げる。
「……私も、セシリアを守るために何かできることを考えてみるわ」
ルーファがそう呟くと、エルも小さく頷いた。
「うん……僕も、エリーナを守るために考えてみる」
ヒカリは満足そうに微笑む。
「いいね! その意識があれば、きっとお前たちも魔力操作を覚えられるはずだよ」
カインは呆れたようにため息をついた。
「お前、本当にどこまで行くつもりなんだ……」
「さあね!」ヒカリは笑いながら答えた。
こうして、精霊たちの新たな可能性が開かれようとしていた。
ルーファとエルは、ヒカリの言葉を噛み締めながらも、まだ納得しきれずにいた。
「……でも、ヒカリ。私たち精霊が魔力を操作するなんて、本当にできるの?」
ルーファが疑問を口にする。
エルも不安げに続く。
「エリーナに魔力を渡すことはできるけど、それを自分で制御するのは……」
ヒカリは少し考えた後、ニッと笑った。
「試してみればいいんだよ!」
「試す……?」ルーファが目を瞬かせる。
「そう。まずは魔力を放出するところからやってみるんだよ。主に渡すんじゃなく、自分で外に出す。そこから始めれば、きっと魔力操作の感覚が掴めるはず!」
ルーファとエルは顔を見合わせた。
「……本当にできるの?」エルが不安げに呟く。
「できるかどうかじゃなくて、やるんだよ!」ヒカリが胸を張る。
カインが呆れたようにため息をついた。
「お前、やることが本当に突飛だな……まあ、どうせなら見届けてやるか」
ヒカリはルーファとエルに向き直り、ゆっくりと説明した。
「まずは、体の中にある魔力を意識してみて。主に流そうとするんじゃなくて、自分の周りに広げるんだ」
ルーファとエルは緊張しながら目を閉じ、自らの魔力を意識し始めた。
「次に、その魔力を少しだけ外に出してみるんだ。周囲の空気や水と混ざるように、ゆっくりと……」
エルがそっと手を前に出すと、彼の周囲にふわりと小さな水の粒が現れた。
「……!」
ルーファも同じように手を伸ばすと、微かに風が流れ始める。
「やった……?」エルが驚いた声を上げる。
「おお、いい感じじゃん!」ヒカリが満足そうに頷く。
カインは腕を組んで二人を見ながら呟いた。
「……なるほどな。俺も最初はヒカリに無理矢理やらされたが、確かにこうやって意識すれば、精霊でも魔力操作は可能なのか」
ルーファは驚いたまま、手のひらの上で揺れる風を見つめていた。
「こんなこと……今まで考えたこともなかった……」
エルもまた、小さな水の粒が消えていくのを見ながら呟く。
「エリーナに魔力を渡すことしかできないと思ってた……でも、違ったんだ……」
ヒカリは満足そうに微笑んだ。
「ね? 俺の言った通りでしょ?」
カインが苦笑しながらヒカリの頭を軽く叩く。
「お前の考え方は普通の精霊とは違いすぎるが……まあ、結果的に悪くはないのかもな」
ルーファとエルは、それぞれの契約者であるセシリアとエリーナの顔を思い浮かべた。
(もし……彼女たちが危険に陥ったとき……私たちは、この力を使って守れるのかもしれない)
(……僕たち精霊も、変われるのかもしれない)
二人の中に、新たな決意が芽生えていた。




