アイドルの意地
光の弾幕がバグズを襲う。無数のノーツが山ほどいるバグズを塵に変え、徐々にだが着実にその数を減らしていく。辛くも弾幕から逃れ花音に接敵出来るバグズもいるが、一切の油断を見せることなく両手足に光を纏い徒手空拳で迎え撃つ。
「ギアアアアアア!」
「うっさい!」
武術の心得があるのか無駄のない動きでバグズの鉤爪を避けつつ舞うような動きで仕留める姿を遠巻きに見守るアリスは、善戦する花音とは裏腹に言葉で表せない不安に苛まれていた。バグズの数は戦う前よりも確実に減っている。だというのに、いくらバグズを倒しても増産バグズが現れる気配がまるで無い。その疑念は戦闘中の花音も等しく抱いていた。山ほどいたバグズも今や数十体、これだけ短時間で大量にバグズが倒されているというのに増産バグズどころかバグズの援軍すらも顔を見せない。
「こいつらなんかおかしい……ん?」
秋葉駅から遠く離れたビル群が立ち並ぶエリア。龍二とお松がバグズの目を引くために走り回っているであろう地点に、地鳴りと突風と共に、竜巻の様に渦をなすバグズの大群が現れた。
すぐさま花音は状況を理解する。思い返せばアリスを助けたときバグズは執拗にアリスを狙っていた。正面切って戦える花音を足止めし、反対に戦う手段の無いアリスを確実に仕留めるため龍二の運転する車を狙ったのだ。
「やられた、龍二とお松が危ない!」
目の前のバグズをノーツで倒し尽くすと、花音は隠れていたアリスを抱き上げ一気に跳躍してバグズの大群へと向かう。建物の影で視認出来ていなかったアリスもようやく状況を理解する。
「花音ちゃん、龍二さんとお松さんが!」
「分かってる、結構飛ばすからしっかり掴まっててよ!」
建物の屋上を高速で跳躍する。数分もかからずバグズの大群の付近まで辿り着くと、必死にバグズを掻い潜る龍二の車が見えた。いつもの様な余裕のある顔ではなく、焦りと緊張が滲み出る龍二と、震えて泣きじゃくるお松が車窓越しに目に入る。
「龍二はん! どういうこっちゃ、どないして増産バグズがこっちにおるんや!」
「知るか! あいつら今までこんな戦い方してなかったはずなのに、なんだって急に!」
「ああああ! すぐそこまで来とる! もうダメやあ‼︎」
車にバグズの鉤爪が届きそうな瞬間、のんとか紙一重で花音のノーツが間に合い難を逃れる。車の上に着地した花音を見た途端にお松は大粒の涙を流しながら喚き出す。
「花音はん! 良かった、ウチもう終わったと思ったで!」
「龍二、増産バグズはどこ!?」
「あの大群の真ん中だ! 奴さん突然現れたかと思ったら一瞬であの量のバグズを生み出して来やがったんだ。どうする花音!」
「あ、あの!」
考えあぐねる花音にアリスは声をかける。想定していた状況とは違う危機に流石に余裕が無いのか、ノーツを撃ちながら花音はこたえた。
「なに!?」
「私が……私が囮になりますから、龍二さんとお松さんだけでも安全な場所に!」
「ッ! ……そうだよね、少し焦ったけど元々そういう作戦だったもんね。龍二とお松はこのままテリトリーを抜けて、あとはアタシがやる!」
「すまねえ、頼んだぞ!」
花音とアリスは爆走する車から飛び降りるとバグズの大群と対峙する様に立った。バグズも動きを止め奇声を発しながら睨み合う。アリスの周囲にノーツを六つ漂わせると、花音は半歩前に出て深呼吸してバグズを睨みつける。
「花音、ここが正念場だ。絶対コイツら倒して世界を元に戻すんだ!」
自分に言い聞かせる様に呟くのと同時に竜巻の様に群れていたバグズが散る。バグズを生み出す元凶、増産バグズが不気味な咆哮を上げながらその姿を現した。




