17、完全融合
一対二という数的有利をとってはいるものの、強さは互角といっていいだろう。今回は、乱州が一番前に出た(表面のサイコスト)。的射と由利は、的射が前になったようだ。
乱州が秋人のスピードを借りてダッシュする。的射はさまざまな属性の弾を発射している。俺は乱州に、武器の能力が、身体そのものに加わるようにしている。つまりは、ハンマーのような打撃力や、スティックのようにすばやく、みたいなものだ。的射はアサルトライフルと呼ばれる銃でエスパーを撃っている。・・・・・・昨夜の一件以来、的射のことが気になって仕方ない。表面が乱州だから闘也が的射を見ていることは誰も気づいていないんだろうが。
「巨大打撃腕打!!」
乱州がハンマーの能力を使う。だめだ、だめだ。今は戦闘中だ。関係のないことを考えてはだめだ。みんな真剣に戦っているのだから。乱州の上から氷の塊が降ってくる。
(乱州!上だ!ガンを使え!)
乱州が上を見上げ、手をピストルの形に変える。その指先から、弾が発射された。なんとか氷は砕けた。乱州は飛び散った破片を秋人のスピードで一つ一つ投げ返す。全て当たった。だが、あまり効いていない気がする。なぜだ。エスパーの融合は、確かに、一つの体にまとまりはするが、各所でそれぞれの特徴が出ている。やつらの場合は、頭と胴体はファーガ、左手はフーリュウ、右手はライラーダ、右足はウォール、左足はゴードのような状態だ。それぞれ、炎、風、雷、土、水の能力が得意と見れば・・・・・・。
頭の中がかなりの速さで回転する。秋人には分からないくらいの知識が思考の中で交差する。水をかければ炎は消える。炎は風で強くなる。風は土を巻き上げる。土は雷を防ぐ。雷は水を感電させる・・・・・・。
(乱州、雷技は右足に、風技は左足に、炎技は左手に当てるんだ!)
「え?なんでだ?」
(いいからそれをやってみろ)
「分かったよ」
乱州が炎を纏った腕を作り出し、左手に向かって伸ばした。ジャストヒットだ。かなりの大ダメージのようで、大きく怯んだ。お次は、一気に敵に近づき、風を帯びた小さな剣を二本作り出した。
「名づけて、双魂風剣だ!」
そして、それを左足に連続で切りつけた。左足が崩れ、右足で、ほとんど体重で支えている状態だ。
「さあ、いくぜ、雷腕打!」
雷を帯びた拳を右足に当てる。右足も崩れ、体は四つんばいの状態だ。だが、ほとんどの体重は右手で支えている。先ほど左手にも攻撃したからだ。
(乱州。的射と由利に伝えてくれ。右手に土の攻撃を、頭に水の攻撃をやれってな)
「え?ああ、分かった」
「遠藤!白鐘!闘也からの伝言だ。右手に土の攻撃、頭に水の攻撃をしろってさ」
「え?なんで?」
「いいから、攻撃しろって」
的射は銃を構え、由利の協力で、右手に土の属性をつけてもらい、それによって、土の弾を発射した。さすがに射撃の能力の能力なので、しっかりと命中した。右手の自由がなくなり、仰向けの状態になった。的射が水の属性をふんだんに詰め込み、頭に目掛けて発射。見事に命中。大きなうめき声が上がる。そのとき、さきほどの、たぶん四天王と思われるやつらが戻ってきた。
「まぁ、ソウリール様が気にかけるほどのことはあるな。八幹部!この程度でやられるとはな!我の中で、生きろ!クズが!」
その瞬間、融合していた八幹部は、小さな光の玉になり、四天王のトップと思われるやつの胸に刻まれた。
「それでは始めようか。我ら四天王、エスパーの誇りと自らのプライドを懸けて戦うことを誓う!」
その瞬間、四天王のやつらは、融合した。融合とはいっても、姿として見えるのはさっきからいろいろ喋っているやつだけ。だが、さっきまでは剣や盾、鎧等はなかった。となれば、前に出ている者以外は。
「そういえば、まだ名を名乗っていなかったな」
思い出したかのように話し出した。
「我は四天王で一番力を持つ、体神、ボルドー。いま剣になっているこいつは、二番目に力を持つ、剣神、ソリド。盾となっているのは三番目に力を持つ四天王、守神、ガシード。我の鎧となっているのは、防神、シライガ。我らがそろってこそ四天王だ!」
威勢のいいだけではない。本当に自信があるのだ。自分と仲間との結束によって、最強だと称したいのだろう。無論、それはこちらだって同じだ。普通に考えれば、四天王より上はもうソウリールしかいないはずだ。だからこそ、今ここで倒すしかない。ここで倒さないと、勝利はないかもしれない。乱州が、変わってほしいと頼んできた。瞬間的に分裂し、再度融合する。闘也が先頭になる。それぞれが身構える。
なぜかその瞬間、ふと、闘也の中である想いが頭に浮かんだ。
なんで戦っているんだ?
そんな想いを考えた自分にまた考えてしまった。でも実際そうだ。俺はなぜ戦っている?守るものがない自分がなぜ戦う?そうだ。思い出した。俺はなにかを守るために戦っているんじゃない。たった一つの目的のために戦っている。
ソウリールを倒す。
そうだ。ソウリールを倒すためだ。そのために、俺はもう後戻りはしないと決めたんだ。目の前の敵を倒すと決めたんだ。
「ダブルソウルソード!」
普通のソウルソードを同じ大きさで二本にする。これによって、それなりの速さで攻撃力の高いソードで切ることができる。
「はあぁぁぁっ!」
二本の剣を交差させて切りかかる。しかし、盾で防がれる。ボルドーは剣を振り下ろしてくる。乱州の覚醒能力を使い、なんとかガードする。剣を振り払い、距離をとった。ボルドーは剣を頭上に振りかざした。
「暗黒剣」
とたん、剣となっているソリドは黒くなっていく。正確には、黒というよりは漆黒の方が似合っている色合いだ。ボルドーは暗黒剣の刃先をこちらに向けてきた。それなりの距離はあった。ボルドーは、かなりの速さで闘也達へと突っ込んできた。このままだと串刺しになることは避けられない。しかし、的射が足に弾を発射し、進行を食い止めた。態勢がくずれている。叩くなら今しかないと飛び出した闘也だったが、振り下ろした剣はあっけなく盾で防がれる。やはり、向こうもそう簡単にはやられてくれない。一旦の距離を取って再度攻撃しようと試みた闘也であったが、距離を取る前に、暗黒剣に捉えられ、剣でつばぜり合いに持ち込む。しかし、すぐに力負けして地面に叩きつけられる。
「ぐっ・・・・・・」
叩きつけられると同時に的射が銃弾を放ったが、その鎧に弾かれ、不発に終わる。
闘也は、二つの剣を巨大な一つの大剣にした。身の丈ほどの大剣を両手持ちして、飛び出す。
「ビックソウルソード!」
振り下ろした剣が、ボルドーの持つ剣を弾く。その瞬間、引き剥がされたソリドが強制的に融合を解除され、単体になる。闘也はツインソウルソードに持ち替えると秋人の能力で一気に接近し、状況をよく理解できぬままのソリドを両断した。
再びビックソウルソードに持ち替えると、その鎧へと突き刺す。その鎧は剣を弾くが、接合部分に狙いを定めて突き刺す。しばらくの抵抗の後、鎧部分となっていたシライガが単体となる。的射が飛び出し、その銃口から高圧の水流を放出する。
「弾が駄目でも、こっちなら!!」
あっけなく、実にあっけなくシライガが切断される。
強制的に融合を解除された負担が襲い掛かり、ボルドーとガシードが分裂する。
「こいつを貰いなさい!!」
的射は先ほど放出していた水流をそのままガシードへと走らせ、ガシードを一撃の下に両断するが、その直後にボルドーが接近する。的射は銃弾を発射するが、大したダメージを受けている様子はない。そのまま的射達は、ボルドーの腕に吹き飛ばされる。先ほどの闘也達のように、地面に叩きつけられるまではいかなかったが、ごろごろと数メートル転がった。
「我は体神。鉛の銃弾など、恐れるに足らん!!!」
その言葉に偽りはないようだ。闘也がソウルガンから銃弾を発射するも、ボルドーは僅かな出血だけで、こちらへと突っ込んでくる。闘也は一言呟きながら剣を構えた。ボルドーはこちらを的射達の二の舞にしようと腕を振る。
「いくら銃弾が恐ろしくなくても――」
闘也は一瞬のうちにボルドーの腕を回避すると、ボルドーの首筋へと剣を触れさせた。
「首刎ねられたら終わりだろ」
闘也はそのままボルドーの首を突っ撥ねて切り抜けた。ボルドーは斬られる寸前になにかを叫んだ気がしたが、聞き取ることも、ましてや聞き返すことも不可能であった。なにはともあれ、これで残るはソウリールだけということになった。
四天王が闘也によって切り裂かれた時、ある廃墟ではその報告が、一人の男に対して行われた。
「ソウリール様、四天王、やつらによって全滅させられました!」
「四天王も地に堕ちたものだな。四天王のエスパーエネルギーを吸収しろ。三十秒だ」
「イエッサー。総員、エネルギーの回収を急げ!」
一人のエスパーが指示をだし、四天王のエネルギーを吸収している。すごい上から目線で、指示を出したのはもちろんソウリールだ。
「近いうちに、ここもやつらに知れるはずだ。全国各地のエスパー兵を、この地域に集結させろ!全てだ!そうでないと、やつらには到底勝てん!」
俺は、次の戦いに全てを懸けねばならん。全ての人類をひれ伏させる。サイコストは問答無用で殺し、仲間として、エスパーとして生きると決めたサイコストのみ、受け入れればいい。もう、私に家族などいらない。一人で生きる。もう自分の妻は殺した。いや、殺させた。あいつは無力だったからまだいい。しかし、まだ闘也がいる。日をおうごとにサイコスト反応が高くなっている。他のやつもかなりの上がりようだ。闘也はすでに、自分に追いつくまいとしている。なにが闘也をそこまで強くしたのだろうか。
ソウリールは奥の部屋へと入っていった。ここは、ソウリール以外は立ち入りを禁じている部屋だ。入ったものは、いかなる理由においても、抹殺する。そういう部屋だった。
ソウリールは部屋の鍵を閉めた。このドアについている鍵は一つではない。軽く数えて十五は鍵穴や錠前がある。まさに立ち入り禁止の部屋にはふさわしい。ソウリールは一つの立てかけてある額に軽くノックをした。そこから、一人の男の声がする。
「久しぶりだな。戦闘技術専門のソウリール様。しばらく会っていないが、元気にしていたか?」
「ああ。ピンピンしているとも。軍兵生産専門のニワーダ様」
ソウリールと、ニワーダはお互いに様付けで名を呼び、タメ口だった。ソウリールに向かって、ニワーダは問いかけた。
「ソウリール様。そちらの日本の侵略は進んでいるか?」
ソウリールは、満足しないかのように、首を横に振った。
「一部の地域では、占領が完了したという報告を受けたが、今私がいるこの炎天エリアはかなりの難所だ。例のやつらのせいでここ一帯のエスパー兵の大半を失った」
「闘也達か・・・・・・」
「ところで、」とソウリールが聞いてきた。
「そちらの、兵士の収集は進んでいるのか?いくら核を所有している北朝鮮だからといって、強い兵、しかも、エスパーがいるとは思えんぞ」
「そうなんだ。いても大抵はサイコストだ。それで、今ゲルガー様と協力して、ある作戦を計画している」
「生態研究専門のゲルガー様か。それで?一体どんな作戦なんだ?」
「我々の命を削らずに、人工的にエスパーにするのだ」
「何!そんなことが可能なのか!?もしそれが成功すれば、我々の勝利も夢ではないな」
「なにを言ってるソウリール様。最初から我々の勝利は確定しているようなものだ」
ニワーダの言葉に、ソウリールは「それもそうだな」と、僅かな苦笑を漏らして続けた。
「もし作戦が成功したらなるべく早く兵をこちらに送ってほしい。通訳もつけてよこせよ」
「分かっている。では、また会おう」
そこで会話は終わった。ニワーダは、額の中に、また入っていった。この額からは、ニワーダの部屋に繋がっている。実際に部屋がとなりにあるわけではなく、簡易空間移動装置を取り付けて、ニワーダの部屋と繋げてある。勿論、向こうにもそれがある。そして、額をノックすれば、ニワーダの脳内に、誰からノックされたかが分かるようになる。
「四天王もやられてしまうとはな・・・・・・」
兵士の前、あのような言葉を発したものの、あまりにあっけなく四天王が敗れたのには、正直ソウリール自身も驚いていた。
これ以上じぶんたちの命を削ってまでエスパー兵を生み出すわけにはいかない。そのためには、作戦を成功させねばならない。はやいうちに作戦を成功させてくれよ、ニワーダ様。
そのとき、大きな地震が起きた。いや、地震にしては短い。ただ揺れただけだ。ソウリールは、部屋のドアを開け、ちょうどよく飛び込んできた側近に事情を聞いた。
「ソッ・・・・・・ソウリール様! 一大事です! 闘也達が、基地のすぐ前に!」
すぐに作戦室まで戻り、窓をのぞくと、五人の少年達がいた。