おわりに
粉は児童公園の木の下に集まり、人の形になった。時計の針が午後二時四十分過ぎから動き出した。
彼は自分で掘った穴のそばにカプセルを見つけた。そのチョコレート缶の下には色紙が敷いてあった。
仲間たちからの寄せ書き。熱い想いが込められたメッセージ。
彼はシャベルを使って穴を元通りにし、缶と色紙を持ち公園を後にした。
鯉泉高校での一年はあっという間に過ぎ、また首都での暮らしに戻ってきた。
彼は節電対策で暗いオフィス内でパソコンの画面を眺める。仕事があればマウスをせっせと動かし、キーボードを静かに叩く。上司に呼ばれればやりかけの作業を放り投げ用件を伺いに行く。仕事のミスで同僚に叱られればぺこぺこ頭を下げ、後輩から悪口を言われても聞こえないふりをする。
昼はもっぱら一人で食べた。最近のお気に入りの場所はコンビニのイートインスペースから公園に変わった。彼はトイレに近く人が少ないベンチに座り、ランチバッグから半額の弁当を取り出す。首都は昼間もカラスが多く、ギャアギャアと威嚇的な声を出す。彼は公園の乾いた砂を見下ろしながら弁当を食べる。ふと、手が止まり、箸が滑り落ちる。
雪の大晦日。バスに乗る振り袖姿の参拝客。あの人との会話。最後にかけた言葉。
「まさか……」
彼は発作的にスマホを取り出した。名前を検索するも、同姓同名の別人しか見つからず。次に「鯉泉」を検索。和食の店がいくつかヒットするだけ。
昼休みが終わりオフィスに戻った。午後は比較的ヒマだ。彼は備品のパソコンで地図サービスにアクセスし、鯉泉と条件が一致する田舎町を探す。駅、商店街、高校、自転車で行ける距離のショッピングセンター。一つずつピンを留める。何日も続けると、ピンが首都から全国に広がった。さらに、新幹線で首都と直結する駅から電車に乗り換え三十分ほどで着く町。候補はだいぶ絞られてきた。
彼は土日や三連休を利用し、それらの候補地を巡るようになった。帽子、靴、シャツ、バックパックなどに、必ず赤をワンポイント取り入れて。外れであっても気を落とさなかった。旅は心の慰めになったし、ピンが一つ減ればまた答えに近づけるからだ。
紅葉の秋。彼はついにここだと思える町にたどり着いた。似て非なる場所、だがどこか懐かしい。商店街に入ってすぐ揚げ物と温泉の匂いがしたからだ。
彼は会社を無断欠勤し、その町での滞在を続けた。足湯に浸かり、山から吹き下ろす秋の冷たい風を感じながら、商店街を行き交う人々を観察した。
あの人はいま何歳だろうか。彼と同世代かもしれないし、ずっと年上かもしれない。しかし彼はあの人がこの世界で生きていることを確信していた。
彼女が旅から戻ってくるのを待つならば、ここが一番ふさわしいことも。
桜の香りが染み込んだ色紙には、みんなから「きっとまた会える!」と書かれていた。




