表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
イケメン上司とボク  作者: 夏目 碧央


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/26

誓い

 会社には辞める意向を伝え、引継ぎを始めた。また誰かが俺の後釜に「出世」してくるのだろう。俺の代わりなんていくらでもいる。それよりも、自分の人生を思ったように生きなければ。

 会社を退社出来たのは夏だった。8月のお盆の前に、やっと引継ぎが終わったのだ。俺は久しぶりに実家に帰省する事にした。関東なのだからいつでも実家に帰れると思っていた時にも、結局ほとんど帰らなかった。九州勤務になってからは全く帰っていなかった。だから、ちゃんと泊りがけで帰る事にした。

 仁さんとは一緒に住む算段を付け、俺の引っ越し荷物は新しい家に運び込んだ。まもなく仁さんも実家を出て一緒に住むようになるだろう。その前に、俺の実家に仁さんを招待した。

「わあ、いい景色だな。」

電車とバスを乗り継ぎ、降り立ったところは畑が見渡せる高台だった。

「暑いっすけどね。」

相変わらず内陸部は暑い。

「でも清々しいよ。海の近くとは違って。」

仁さんが言った。だけど、仁さんの白い肌が炎症を起こすのでは、と気が気ではない。

「仁さん、日傘差しましょう。」

仁さんが日傘を持っている事は知っている。俺はもうすっかり日焼けしているからキャップで充分だが。

 青い日傘を差した仁さんと、坂を下って実家へと向かう。セミの鳴き声がうるさい。ああ、夏だな。

「ただいまー。」

玄関をくぐると、母親が台所から出てきた。

「お帰り。暑かっただろ。」

エプロンで手を拭きながらそう言う母。そして後ろを伺っている。仁さんが日傘を閉じ、後ろを向いて畳んでいた。

「あ、仁さん、母です。」

そう声を掛けると、仁さんが振り向いた。

「こんにちは。お邪魔します。」

「まあ、べっぴんさんねえ。初めまして。いつも準一がお世話になっております。なんて綺麗な方なのかしら。」

母は片手を頬に当て、ぼうっとしている。

「仁さん、どうぞ。」

俺が上がるように促すと、母は慌ててスリッパを出した。

 子供の頃は土間があり、木造の平屋だった実家。今はすっかり立て替えてしまって普通の家だが、それでも都会の家とは違って広いし、瓦屋根の木造だ。

 建て替えたので、もう俺の部屋はなかった。使われていない居間に荷物を置き、リビングに入った。

「すみません、あまり落ち着ける感じじゃないですけど。」

「そんな事ないよ。家からも眺めがいいね。」

仁さんはリビングに入ると、窓からの景色に感動している様子だった。

 父や兄夫婦、そして甥っ子姪っ子がやってきて、かわるがわる挨拶をした。そしてみんなで食事。ワイワイガヤガヤと賑やかだった。

「まあ、一杯どうぞ。」

父が仁さんに日本酒を勧める。当然仁さんは……飲むわな。そして母が近くに来て言った。

「準一はね、小賢しいけど誠実な子だから。」

「え?あ、あはは。そうですね。」

仁さんは戸惑ったような声を出した。


 食事も終わり、ちょっと外へ散歩に出る事にした俺と仁さん。また仁さんは日傘を差し、俺はキャップを被った。

「なあ、成海。お母さんはなんであんな事を言ったんだろう。」

仁さんが言う。

「あんな事って?」

「誠実な子だからって。それってなんか、結婚する時みたいな言い方じゃないか。」

「だって、結婚するじゃないですか。気持ちとしては。」

俺が言うと、仁さんは目を見開いた。

「そういう事になってんの?ご家族には、もう色々バレてんの?なんか、俺、そんな気してなくて普通に友達みたいな感覚で来たのに、違うの?やだな、なんか恥ずかしいな。俺やらかしてなかったか?どうしよう。」

うろたえる仁さんを見て、思わず噴き出した。

「大丈夫ですよ。俺も別に、結婚するなんて家族に言ってないです。ただ、一緒に住む事にしたって言っただけです。」

「ああ、そうか。ん?でもそれってやっぱり……。」

そう、それで家族は、少なくとも母は理解したようだ。俺の特別な、大事な人が来るのだという事を。

「ただの友達ではないって、思われたんだよな?」

「はい、多分。」

「そして、反対されなかったという事かな?」

「そうですね。しかも、今日仁さんを見てみんな喜んでましたよね。綺麗な人だって。」

俺が笑顔を向けると、少し赤い顔をしていた仁さんは、増々赤い顔になった。

 「あれ?成海じゃん?うそー、久しぶり。」

歩いていたら、前から数人の男女がやってきて、俺に声を掛けた。

「知り合いか?」

仁さんが囁く。

「え、ああ、久しぶり!」

俺は大きな声で返し、仁さんには小声で、

「中学時代の同級生たちです。」

と言った。

「お前、ずっと実家に帰ってなかったんだろ?マジ久しぶりだなあ。何なに?ずいぶん綺麗な人連れてきたじゃんか。」

そう言われて、俺は鼻の下を擦った。

「へへ、まあね。」

「聞いとるよ、東京で会社を立ち上げるんだって?」

「成海君は昔からこの田舎には収まり切らん器の子だったもんね。」

口々に言われ、俺は頭をかく。そして、田舎の情報回りの速さに改めて驚く。どれだけの人が知ってるんだか。そして今日仁さんを連れていた事も、きっと瞬く間に広がるのだろう。

「じゃあ、またな!今度飲みに行こうぜ!」

そう言って別れた。やれやれだ。

「いいのか?俺の事あんな風に言われたままで。大騒ぎになるんじゃないのか?」

仁さんが言った。

「いいんですよ。俺はね、この田舎には収まり切らん器なんです。だから、普通の嫁さんをもらうなんてあり得ない。みんながアッと驚くような人を連れてくる、それが俺の夢でもあったんですよ。」

俺がそう言うと、仁さんはアハハと笑った。


 居間に布団を並べて敷いた。仏壇のある和室だ。

「ベッドじゃなくてすみません。」

俺がそう言うと、

「いいって、布団で寝てみたい。なあ、もっとピッタリくっつけて敷こうぜ。」

仁さんがそう言うので、二人でそれぞれの布団をギュッと押した。そして二人でいそいそと布団に入り、頭をくっつけて寝た。

「おやすみなさい。」

「お休み。」


 翌朝、いきなりふすまがバッと開いた。

「キャー!!」

仁さんが悲鳴を上げた。俺は眠い目を必死に開けた。

「おはようさん。朝ごはんできたよ。」

母がニコニコして立っていた。

「あ、おはようございます。すみません。」

仁さんが消え入りそうな声で言った。


 二人の未来は明るい。みんなの祝福を得て、幸せになれる。言霊を信じて。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ