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イケメン上司とボク  作者: 夏目 碧央


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選択肢

 仕事は面白かった。やりがいがあった。でも、仁さんと次にいつ会える、という約束ができない状況が続き、時々ふっと寂しさがよぎった。

 仕事が面白いのは、一から十まで自分で出来るからだ。それは、ここでしかできないのだろうか。この九州でしか?もっと言えば、この会社でしか?

 一から十まで自分でやりたいなら、独立するという方法もあるのではないか。俺は徐々にそう考えるようになった。独立して一人でやるなら東京の方がチャンスはある。会社を辞め、東京で会社を興すか?

 そう考えたら急に心拍数が上がった。手に汗を握る。しかし、何の為にその選択をするのだろうか。仁さんの近くにいる為か?それなら、もし仁さんが東京から遠く離れた場所に転勤になったら?

 仁さんと一緒に会社を興すという手もあるだろうか。それは、仁さんがそうしたいと思ってくれれば、という前提条件付きだな。とにかく仁さんに相談しなければならない。


 「今週末は会えそうか?」

木曜日の夜、仁さんから電話があった。

「それが……ちょっと立て込んでいて。あ、でも俺、仁さんと話したい事があって。できれば会って話したいけど、電話でも。1時間くらい。」

俺がそう言うと、仁さんが突然大きな声を出した。

「えー、電話で1時間なんて嫌だよ。また俺がそっちに行くよ。そうすれば夜だけでも一緒に居られるだろ?そこで話せばいいじゃん。」

うう、また仁さんにばかり負担をかけてしまうのか。

「えーと、じゃあ、待ってます。」

だが、それもあと少しだけかもしれない。あの話がまとまれば……。


 そして翌日金曜日の夜、仁さんが博多にやってきた。交通費もバカにならないだろう。今回は新幹線で行くと言われ、博多駅まで迎えに行った。

「おお、成海、来てくれたのか。」

「当たり前じゃないですか。あ、荷物持ちます。」

仁さんの、少し大きめなリュックを受け取った。

「一日分の着替えしか持ってきてないぜ。」

仁さんが笑う。確かにリュックは大きい割に軽い。

「ホテルは取っておきました。行きましょう。」

俺たちは近くのビジネスホテルへと向かった。

 「それで、話って?」

まず甘い時間を、と思っていたのだが、仁さんにそう切り出された。確かに、あの話をしなければ、と思っていると没頭できないかも。だが、意見が決裂した場合、その後に仲良くイチャイチャできるだろうか……。

「何?怖いんだけど。まさかお前、別れようとか言うんじゃないだろうな。」

「え!?ち、違いますよ。まさか、そんな事全然考えてないですって。」

慌てた。

「良かったー。俺、わざわざ来てふられるのかと思ったよ。」

仁さんは大げさにベッドに倒れた。

「あ、じゃあ、先に話しますね。」

俺もベッドの1つに腰かけた。ツインの部屋だが、あまり広くない。それぞれのベッドに向かい合って座り、俺は例の話をした。今、やりがいを持って仕事をしている事。でも、仁さんの近くにいたい事。やりがいのある仕事なら、ここでなくてもできるのではないかと考えた事。そして、独立しようかと考えている事。

「すごいじゃん。驚いた。確かに独立すれば、好きな場所で働けるし、お前の言うやりがいのある仕事がずっと出来るだろうな。」

仁さんが感心したように目を見開いて言った。

「あ、仁さんはどう考えてました?」

「え、何が?」

「つまり、この離れている状況というか。どうしたらいいかな、とか。」

「俺は……また成海がいずれ東京本社に戻って来るだろうと思って、それまでは交通費がかかるけど、頑張って会いに行こうって思ってたよ。」

そうか。いずれ本社に戻れるかもしれないのか。だが、それはいつだろう。

「3年か、5年くらいかな、お前が戻って来るのは。」

仁さんがさらっと言った。

「え……。」

そんなに先までこの状況か?

「でも、その間に仁さんが転勤なんて事は?」

「もっと九州に近いところに転勤もあるかも。」

仁さんが笑う。

「でも、逆に北海道とかもあるのでは?」

俺は青くなった。今の状況でも、交通費は痛すぎる。宿泊費もかかるのだ。

「あの、それでもし、俺が独立したとしますよね。そうしたら、仁さんは……その、俺と一緒に会社をやる気はないですか?」

一か八か、言ってみた。仁さんはキョトンとしている。

「あの、いきなり過ぎましたかね?」

恐る恐る聞いてみる。仁さんは少し考えてから言った。

「そうだな……。とりあえず最初はお前が独りでやってみる方がいいんじゃないかな。俺は会社にいて、二人で共倒れするリスクを避けよう。軌道に乗ったら俺も一緒にやる。ああ、ずるく聞こえるかもしれないけど、お前が失敗したら、俺がちゃんと助けるっていう事だからな。借金するなら連帯保証人になるし。」

仁さんにそう言われて、俺は涙が出た。

「おいおい、そんな顔するなよ。」

仁さんが笑う。

「仁さん!俺と結婚してください!」

頭を下げた。

「は?」

仁さんが大きな声を出す。だが、俺は頭を下げたまま、返事を待った。

「分かったよ。なんか、よく分かんないけど、返事はOKだ。」

俺は顔を上げた。

「東京に戻ったら、一緒に住んでくれます?」

上目遣いで聞くと、仁さんはくすっと笑った。

「博多に通うより、東京で部屋を買う方が経済的かもな。いや、東京は高すぎるから、神奈川かな?」

俺は幸せを噛み締めた。さて、こうなったら独立に向けて色々考えなければ。そして、今の仕事を上手く切り上げる算段をつけなければ。


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