繰り返すキス
成海を連れて階段を上がり、自分の部屋のドアを開けた。電気を点け、成海を先に中へ入れ、自分も入ってドアを閉めた。成海は部屋の真ん中に突っ立って、こちらを見ている。ちょっと複雑な表情で。
「あの、仁さん、何か怒ってます?」
成海が言った。俺は真顔で成海を見つめた。俺は怒っているのだろうか。誰に?
「いや、怒ってない。」
そう言って、成海に抱き着いた。
「仁さん?」
俺が黙っていると、成海はそのまま背中に腕を回してくれた。そして、そっと頭を撫でてくれる。そうしていると、だんだん心がほどけて行った。
「なんであんなに、凛のこと見てたんだよ。」
思わず言った。俺、やっぱり成海に怒っていたみたいだ。
「え、そんなに見てました?」
「見てたよ。」
「それは、仁さんと似てるなーと思って、つい。」
「それは、そうだろうけど。」
そうだろうけど、それでも気に食わない。
「怒らないでください。もう仁さんの事しか見ませんから。」
成海が言う。
「そんなの……」
無理だ、と言おうとして顔を上げると、成海が顔を近づけてきて、キスをした。黙るしかない。すると、もう一度キス。顔の向きを変えてまたキス。キス、キス、キス……キスの嵐。何度も唇を重ね、だんだんと唇を吸われるようになり、それと同時に成海が俺の背中を撫でさする。俺も夢中になって成海の背中をさすった。チュッ、チュッとリップ音だけが響く。胸がドキドキする。こんな感覚は初めてだ。これが、恋、なのだろうか。これが愛のあるキス、なのか。
気づけば、成海は俺の唇から頬に、そして首筋にまでキスを繰り返している。クラクラする。もうダメだ。倒れそう。そう思ったら、成海がギュッと俺の腰を引き寄せた。
「ちょ、ちょっと待った……。」
と俺が言ったその時、部屋のドアがトントンとノックされた。ビックリ。
「あ、はい。」
急いで成海から離れ、ドアを開けに行く。だが、俺が開ける前にドアがガチャっと開いた。
「よお!」
そこに立っていたのは兄貴。
「仁、お前男連れ込んでんだって?どんな男だ?」
いきなりそう言って首を伸ばし、後ろを見ようとする。
「ちょっと、その言い方!」
だが、兄貴は俺の言葉を無視し、部屋に入って来る。
「何か楽しい事やってたらしいんじゃん。知らせてくれないんだもんなー。知ってたらもう少し早く帰って来たのに。」
そして成海の前に立ち、
「どうも。成海くんだっけ?」
兄貴がそう声を掛けると、成海は、
「あ、はい。成海準一です。えーと。」
と、俺を伺う。俺は諦めてドアを閉め、
「兄の正義。」
と、紹介した。
「初めまして。」
成海が深々とお辞儀をした。
「いやー、下でお父さんとお母さんが盛り上がってたよー。成海さん、凛のお相手にピッタリだわーとか、仁さんのお墨付きなら人柄には問題ないはず、むしろあの子が仲良くできる男性は珍しいんだからーとか。」
兄貴が母の言い方を真似て言った。俺が仲良くできる男性が珍しいって?だから人柄に問題ない?それは俺たちの関係を知った上での画策ではないという事か?
「へえ、仁の好みはこういう男だったのか。」
兄貴は俺のベッドにドシンと腰かけた。俺たちが立ったままなのに。
「どういう意味だよ。」
俺は思わず兄貴を睨む。そして成海を見ると、成海は心なしか顔を赤くしている。先ほどのワインのせいではないだろう。
「やっぱりご兄弟、似ていますね。」
成海が言った。
「どこが?」
思わず、兄貴と声を揃えて言ってしまった。すると成海がクスクスと笑う。
「雰囲気というか……冗談で笑わせようとするところかな。顔も似ていますよ。」
成海が言う。
「顔は似てないだろう?」
兄貴がそう言うと、
「似てますよ。確かに目鼻立ちは妹さんとの方が似ていますが、笑い方とか、仕草とか、お兄さんとの方が似ています。」
成海が穏やかな笑顔で言った。
「そうかねえ。ま、俺は邪魔だから退散するよ。」
兄貴は立ち上がり、ドアに向かって歩き出した。そしてふと立ち止まり、俺の方を向いた。
「お前が気を許すのも分かるな。こいつ、いい奴だな。」
兄貴は親指で後ろの成海を指し、そう言って出て行った。
「なんか、不躾でごめん。兄貴はデリカシーがないんだよな。冗談がキツイというか。まさか俺もそうなのか?」
俺が言うと、
「あはは、そんな事ないですよ。フレンドリーでいいじゃないですか。好みの男って言われた時はなんか……ちょっと嬉しかったんですけど。」
成海はそう言って照れたように頭の後ろに手をやった。
「あれは兄貴の冗談だから。別にカミングアウトもしてないし、全くの冗談なんだよ。」
俺が言うと、
「そうなんですか?危うく真面目に答えてしまうところでした。」
成海が目を丸くして言った。本当に、うちの家族は……。




