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第21狂・シオン__決別の夜明け

透架の過去編、最終話です。






・過激なのでお気をつけて下さい。


(一部・暴力・流血シーンがございます)




苦手な方はブラウザバックを推奨、


ここからは自己責任にて閲覧をお願い致します。







 宏霧の、透架への見る目は変わって行った。


(同情せずには居られなくなるんだ)


薫に虐げられ、罵詈雑言、悪党雑言を言われ続けている彼女。

自らの存在と薫の陰謀により、人生のレールを引かれた哀れな少女がきて、9年が警戒していた。

透架を変えたのは自身と母親のせいなのは如実だ。



「僕、医師になる気になんて無いんだ」



生前、叔父は好きな事をして生きろと言っていた。

跡目は継がなくて良いから、その成長した、

夢に達成した姿を見せてくれと。


医師に拘こだわっていたのは、母親だけだった。

否。医者になる事を表向きで、自身の劣情を透架に向けているだけだ。

母親は未だにまだ“あの事に執着している”。



もし薫の本性を知り聞いてしまったら

透架は固まって、茫然自失するこだろうか。

自身の犠牲者となり生きている彼女的にとって、さらなるは絶望的な宣告を与えてしまうだけ。


けれども


(一卵性双生児でない限り、替え玉受験なんて有り得ないだろう?)


透架とは性別も生い立ちも何もかも違う他人だ。

だったら、透架のそのまま権利を譲るのは、筋だろう。


透架が、御影家の子女と知ってから

宏霧は、同情的な感情と少しばかり腫れ物に触るような扱いをする様になった。


 偉大な御影家。

その子女を、薫は虐げ、自分自身は見てみぬふりをしてきたのだ。


否。御影家の子女は関係なく

元々、全ての努力も透架のもので彼女は報われても良いと思うのだ。


「ねえ、」




薫は、煙草を吸いながら、此方に顔を向けた。




もうあの頃の面影はない。

場違いにも今の自分自身は一瞬、

薫の面影を消した透架を疎んでいたか。



「そろそろ透架を、追い出してよ」

「……………」


薫はまた決まって怪訝そうな面持ちを浮かべる。




「駄目よ。

まだ国家資格取得の合否が届いていないわ。

あいつの事だから大丈夫だろうけど、万が一の事があったら……」


「落ちてたよ」

「は?」


 わざと白けて軽蔑する面持ちを宏霧は浮かべた。


「国家資格の取得出来なかった。医師になれなかったんだよ」

「なんですって?」


薫の眉間の縦皺が濃くなっていく。


宏霧は嘲笑う様に愉しげに告げると、

役立たずだったね、とまるで挑発する様に告げた。

刹那に感情的な激情が薫の心に火が灯る。


(あの透架が、国家試験に不合格だった、なんて)

 

曰く付きの娘でも、役に立つならば、利用価値があるのならばと引き取って

医師免許取得させる為に時間も勉強も惜しまずやれ、

それが存在意義だと言い聞かせて来たのに。

なのに。


(恩を仇で返すなんて)

(曰く付きの娘は、出来損ないだった_____)



灰皿に煙草を押し付けると

ふら、と無意識に立ち上がり、地下物置部屋へと行った。



 ______地下室、物置部屋。




急にがちゃり、と乱暴に扉が開いた。

不意に視線を向けると其処には朝帰りの薫が、仏頂面のまま立っていた。


透架は、薫の名前を呼ぼうした刹那、

頬に強烈な衝撃が加わり、そのまま座り込む。


(不味いわ、こんな時に来こられてしまったら………)


しかし透架の華奢な身体を、

薫は持ち上げると、そのままマットレスに投げた。

壁に打ち付けられた衝撃が身体に(ほとばし)る。

そして薫は馬乗りになるとそのまま、透架の胸ぐらを掴んで引き寄せる。




思わず、透架は凍り付いた。

其処にあるのは鬼の形相、般若の形相。

煙草独特の吐息が、苦しい。

獣に遭遇した様に相手の身体は重たい。


「この出来損ないが。


やっぱり曰く付きの娘なんて引き取るんじゃなかった。

少しばかり頭が良いから利用価値があると思ったのに。

だから期待してあげて、面倒を見てやったのに」



透架は何が起きているのか、分からない。

地下物置部屋で薫の狂喜が荒れ狂う中で扉の外側に、ゆらりと青年の姿が見え、現れた。

軽蔑する様な、冷たい瞳。


「この役立たず。

医師免許を取得しなさいとあれだけ口を酸っぱく言って来たのに。

なのに不合格ですって? ふざけないで頂戴!!

あんたに期待をしたのが馬鹿だったわ、あたしの期待を裏切って

宏霧ちゃんの将来を潰した最低最悪の女!!」




透架の髪を引っ張りながら、薫は発狂する。

宏霧の将来を全て透架に委ねてきた薫の期待は打ち砕かれた。

それらの裏切りへの怒りの矛先も止まらない。


「“あの女”みたいに、あんたも、あたしを裏切った。

いいえ、あたしだけじゃない、あんたは宏霧ちゃんの将来に泥を塗って台無しにしたのよ!!


これを、どうしてくれるの!?」


透架は国家試験の合否について、

疑問符が浮かぶが、今、そんなの考える思考が回らない。

何度も張り倒される頬、引っ張られる髪。




「結局、あんたは曰く付きの娘___犯罪者の娘以外でも

何者でもないのよ!! ロクでもない奴でしかないわ。


人を不幸にしか出来ない女。

ねえ、あたし達の時間を返して!!」




嗚呼。


この舘に居座るのは間違いだったのかも知れない。

確定のない夢に、欲望の為に、生きてきたのは

お門違いで確証も、形もない将来に(すが)って。


(純架を、救えない………)


国家試験に落ちたのなら、純架を救えない。

最低最悪な女、と言われた刹那、純架のあどけない面持ちが脳裏に浮かんだ。


(結局、私は、妹を深く傷付けた、罪深い女__)


だったら。



もう、




どうでもいい。



薫は泣き喚きながら、透架を責め続けている。

張り手を何度も下し、透架を胸ぐらを掴んだまま揺さぶっていたが。


ぬるり、とした独特の嫌な肌触りを覚えた。

煙たい瞳で透架を見た薫は固まった。




「母さん、止めてくれ!!」




宏霧が薫を止めた。

暴れ馬の様にあれだけ暴れていた刹那、

薫は腰が抜けて動けなくなって、宏霧も顔面蒼白になり固まっている。

正反対に、両手をクロスする様に顔を隠し、

口角を上げながら、一筋の涙を伝わせる娘。




生気のない瞳。

マリオネットの様に軸を失い、乱れた姿。

いつの間にかその手に握られていたのは、鋭い挟。

白い腕が赤に染まり、それらは腕を伝い落ちて床を深紅色の海に染めている。


驚いたのはそれだけではない、


腕に浮かぶ何十もの線リストカットの薄い線の傷跡。

潜めた悲哀と狂気の傷跡に、薫と宏霧は戦慄しやが




「きゃあああああ____!!!!」



渋谷邸の地下室から、絶叫と悲鳴が響いた。


 

「この役立たず………裏切り者。

それも期待させて裏切ったから、タチが悪い。

あの悪女と一緒だった………。このあたしになんて屈辱を与えるの。


 ずっと恨んでやるわ!!この詐欺師!!」




 薫は般若の形相でそう叫ぶと、庭に透架自身と、

透架の荷物であるボストンバックを投げて、

その怒号を吐くとそのままきびすを返して家の中へ入っていく。


夜明け前。

まだ春先の朝の空気は冷たく、空っぽの心に隙間風を曝す。

透架は、無表情まま、無感情のまま、立ち上がる。


(私を何をしていたのだろう)




人様の将来を預かって起きながら、台無しにして。

純架を救う切符さえ自分自身でも掴み取れないまま、終わった。


医師にはなれない。

純架の生命を、救えやしない。


 テーピングした腕。

しかし鮮血は止めなく、包帯を深紅色に染めている。

自分自身を傷付けている時に、薫は乗り込んできて

不合格だと知ってから尚、また鋏を加えた。


(………もう、終わろう)

 

そう思っていた時だった。宏霧が飛んできたのは。



「……大丈夫?」

「…………」


視線だけ合わす。透架の瞳は虚ろだ。

そのまま項垂れた様に頭を下げると、宏霧は透架の肩を掴んだ。



「“_______嘘だよ”」


「………え」




人形の様になってしまった透架は、固まる。




「………本当は国家試験、受かっていた。本当に」

「…………」



(なら、どうして、薫は荒れ狂うのか。

私は不合格だった筈でしょう?)



「これが証拠だ」




賞状の様な形態には、確かに“御影透架”とある。



賞状の様な形態には、確かに“御影透架”とある。






“______国家資格に合格した事を認証し、




“______よってこの証を交付する”




「これを持って、早く出て」

「…………でも、これは、宏霧さん、の」


ようやく追い付いた思考で、覚束無(おぼつかな)

ぽつりぽつりと呟く。



「俺は医者になんてなりたくない。


能力もなかったけど、ずっとこれがプレッシャーだった。

だから気にするな。


ずっと昔からそうだった。俺には夢がある。

それに他人同士の替え玉なんて無理に決まってる。


 これは今までこの家に縛られていた分のご褒美だと思えばいい。早く行ってくれ、母さんに見つからない内に____」




やっと目が覚めた。




(…………そうだ。純架)


双子の妹を置き去りにしたまま、犬死になんて出来ない。

 

純架を呼び寄せて、純架を救う事。守る事。

ずっと目的であり目標だった。

今、その証が此所にある。


これで双子の妹への贖罪を果たさなければ、償いをしなければ。


自立しなければ。

一日も早く御影から、純架を離さなければ。





「…………ありがとう」


まだ完全に陽が昇らない内に、逃げる様にして、

透架は澁谷家から去った。







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