3.悪役令嬢の秘密
「秘密を知られたからには、ただで返すわけには行かないわね。何か言い残すことはあるかしら?」
「え、ちょっと待って、俺はどうなるの? お前に社会的に抹消されるの? やべえ格好した『悪役令嬢』に暗殺されるの?」
「大地……人の命って結構安いのよ……縁があったら来世で会いましょう」
「冗談ですーーー!!! ノックもせずに開けてすいませんでした!!」
俺は部室の床に正座させられて延々と嫌味を言われていた。いや、こんなところでコスプレなんて正気じゃねーよ。痴女か、お前? って思ったが口に出すと倍の罵倒がきそうだったので自重する。というかノックしても着替えるの間に合わなかったよね。
「それで……私はあなたに弱みを握られてしまったのだけれど、どうすればいいのかしらね。あなたに襲われそうになったって職員室にかけこむか、あなたのスマホを奪って恥ずかしい検索履歴を知られるかどちらがいいと思う?」
「選択肢ぃぃぃーー!! もっとまともな選択肢はねーのかよ!! 何選んでもバットエンド直行じゃん。てかそんな恰好で職員室行ってみろよ。お前の方が指導室行きだよ」
「着替えるに決まっているでしょう、私だってそのくらいの常識はあるわよ」
部室でコスプレするのはおかしいっていう常識も欲しかったな。それにしてもおかしい、俺の良く読む同人誌とかだとここからエッチな展開になるのに、むしろ脅迫されているんですけど!! まあ、どのみちエッチな展開になっても意味はない。なぜなら俺のエクスカリバーは三次元の女性には反応しないからだ。聖剣が認めた人間にしか反応しないように、俺の聖剣は二次元にしか反応しないのである。自分で言ってて悲しくなってきたぞ。まあ、そんな事はどうでもいい。この窮地をどうやって脱出するかだ。
「だって、あなたの弱みを握っておかないとみんなにばらすぞって脅すでしょう?」
「俺とお前は仮にも半年も文芸部員としてやってきたのに、その程度の信頼もないの!?」
「え……だって、私の読んだ本だとこの後エッチな展開が待っているのばかりなんですもの」
そういうと黒薔薇は少し顔を赤らめて目を逸らした。こいつ普段どんな本読んでんだよ、俺と趣味あいますね。あとでおすすめを教えてください!!
ちなみに俺と黒薔薇は同じ文芸部員である。部員は二人しかいない。最初は黒薔薇目当ての新入部員がいたんだけど、ほとんどが黒薔薇の本性を知ってやめてしまったのだ。入部したての頃はあと一人先輩がいたのだが受験勉強で忙しいと最近は来てくれない。それ以降部長が黒薔薇、俺が副部長で時々部誌を出したりして細々とやっている。ちなみに俺達が名字ではなく下の名前で呼び合っているのも仲が良いというわけではなく、部の方針である。
「それにしてもお前コスプレやってるんだな、びっくりしたわ」
「やってるって程じゃないわよ……その……衣装着て自撮りして満足しているだけですもの」
「なるほどねー、まあ、満足してるんならいいんじゃない」
「あんた今馬鹿にしたでしょ。やったことないからわからないと思うけど結構楽しいのよ」
ジト目になった黒薔薇に俺は何も答えずスマホにある封印されしフォルダーを解き放つ。そのフォルダーには青い髪とピンクの髪の双子の女の子のキャラが映っている、俺はそれを黒薔薇の目の前に差し出した。
「何よこれ、あんたの推しコスプレイヤーってやつ? 二人とも結構可愛いじゃない」
「これのな、ピンクの方俺です……」
「は……はぁーーーーー!? 全然顔が違うじゃない」
「写真加工とメイクの力ってすごいよな」
俺の言葉に黒薔薇はスマホの画像と俺の顔を何度も見比べて信じられないとでもいうような顔をしている。まあ、今の俺と全然違うのは当たり前である。最近は写真を加工して綺麗にみせるのが当たり前になってきたし、姉さんにメイクもしてもらったしな。元々薄い顔だからか化粧し甲斐があるって喜んでいたが。俺は泣きたくなったよ。
「それにしても意外ね、あんたもコスプレするの?」
「いや姉さんがコスプレイヤーなんだよ、それで付き合わされたんだ」
「へぇー、美琴さんにそんな趣味が……」
俺の言葉に黒薔薇は意外そうな顔をする。言い訳をさせてもらうが俺に女装癖はないしコスプレの趣味もない。姉さんに無理やりつきあわされたのだ。弟はね、姉というなの暴君には逆らえない生き物なんだよ。あれ、俺は黒薔薇に姉さんの名前言ったっけな? まあいいや。
「まあ、俺の秘密も知ったんだからこれでおあいこって事でいいだろ。そろそろ帰るわ。黒薔薇もコスプレするときは鍵は掛けといたほうがいいぞ」
「ええ、そうね……ねえ、大地……」
俺が帰ろうとすると彼女は何かを言おうとして悩んでいるようだった。なんか歯切れ悪いな? うーんどうしたんだ。ああ。こいつは俺に借りを作るのが嫌なのかもしれない。
「コスプレ趣味に、興味あるなら姉さんを紹介しよっか?」
「え……でも、悪いわよ」
「気にするなよ、姉さんも仲間を欲しがっていたしな。それに黒薔薇がやってくれれば俺は女装をしないですむようになる。今日は姉さん家にいるけど来るか?」
「ならお言葉に甘えようかしら」
俺の言葉に彼女は嬉しそうに微笑んだ。こいつ本当顔だけはいいな……話はまとまり、黒薔薇がうちにくることになったので姉さんに連絡をすると速攻で返信が来た。
『今日、コスプレに興味があるって言う同級生の女の子を連れてくるけど大丈夫?』
『おお、大地が女の子を連れてくるとは彼女候補ですかな?』
『違うよ、時々話すでしょ。同じ部活の悪役令嬢だよ』
『おお、お嬢様を狙うとは流石我が弟ですな。婚約破棄をされぬよう気を付けるのですぞ。歓迎しますぞ』
ラインでは頭のおかしい口調の姉だが、実際喋るときは普通である。いや、まあ当たり前なんだけどね。かちゃりと鍵がかかる音と共に虫の鳴くような声の一言が俺の耳に聞こえた。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「何で小声で言ったのに聞こえてんのよ!!」
「それは理不尽じゃないか!? 知ってる? 言葉って相手に自分の気持ちを伝えるために言うもんなんだよ!!」
恥ずかしいのか顔を真っ赤にする黒薔薇に俺は文句を言う。じゃあ、お礼何て言うなよと思うが、彼女の性分なのだろう。意外といいやつだな。それにしてもすまないな。あいにく俺はラブコメにありがちな難聴系主人公ではないんだよ。
そうして俺達は一緒に下校することになった。なんだかんだこいつと一緒に帰宅するの初めてだな。
プロローグを追加したので、読んでいない方は読んでくださると嬉しいです。
次回の更新は明日になります。
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