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21XX、ダンジョンと冒険者  作者: らる鳥


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 四神討伐は冒険者側に大きな被害が出る事もなく、無事に成功する。

 呆気なく感じなくもないが、準備に準備を重ねた末の成果なのだから、それが上手く行って勝利するならこんな物だ。

 尤も赤塚・祥吾率いる八人のA級冒険者が担当した白虎と玄武に関しては、四神相手に加減が出来なかった祥吾が消し炭としてしまった為、その骸の回収は成らなかった。

 まぁ下手に加減をして味方に被害が出る事に比べればずっと良いのだけれど、白虎は兎も角、玄武は少し食べてみたかったが……、仕方ない。


 さて四神討伐と言う目的を達成した冒険者達がすぐには帰還せず、この場所に勢揃いしたのには理由がある。

 そう、四神の全てを討伐する事で開くと言う、ダンジョンの入り口を確認する為だ。

 浸食領域を生み出した元凶であるダンジョンが口を開いていると言うなら、一目でも見たいと思うのが人情だろう。

「よし、じゃあダンジョンが本当に開いたか見に行こうぜ」

 故に赤塚・祥吾のその言葉を、その場にいた全員が受け入れた。


 幸い多くのA級モンスターが、四神との激戦に恐れを感じて散っている。

 戻って来るにはまだ時間の余裕があるだろうし、残っている好戦的なモンスターも、これだけのA級冒険者が揃っていれば恐れるには足りない。


 激戦の余韻に興奮冷めやらぬ様子のA級冒険者達と、それ等に囲まれて場違いそうに肩を竦める大神・香苗と共に、俺達は京都タワーに足を踏み入れた。

 A級冒険者達からすれば、香苗も共に戦った仲間の一人と言う認識なのだろうけれど、彼女からして見れば周囲の全員がずっと格上の存在だ。

 気にするなと言っても無理な話である。

 しかしA級冒険者の中でも飛び切りの化け物、白虎と玄武を消し炭に変えた事を悪びれもしない祥吾が、香苗の事を気に入ったらしくしきりと話しかけているから、多分その内に打ち解けるだろう。

 祥吾は一見チャラ付いたチンピラ風だが面倒見は良いし、高い実力とは裏腹にあまり気配が強くない。

 他のA級冒険者が如何にも実力者と言った風情を出しているのに比べると、まだしも近寄り易い人物なのだ。

 実際には誰よりもモンスターを屠ってる化け物であるにも拘らず。


 ポータブルランタンの明かりを頼りに、総勢十六名の冒険者が地下への階段を下る。

 目標のダンジョンは地下三階、この場所に人が自由に出入り出来た頃には、有料の大浴場があった場所に存在するらしい。

 と言ってもダンジョン発生後は自衛隊がこの場所を接収して改築、管理していた為、廃墟となった今では商業施設だった頃の名残は全く感じられなかった。


 階段を下り切った俺達は、ダンジョンの入り口があると言う地下三階へと踏み込む。

 A級浸食領域には何度も訪れた俺だけれど、この場所に来るのは初めてだ。

 すぐ近くは何度も通っていたのに、不思議とここには近付く気がしなかった。

 ダンジョンの入り口があると言う話は聞いていたから、興味はあったのに。

 或いは、無意識にこの場所に危険を感じていたのかも知れない。


 けれども今は全ての四神が倒れたからだろうか、何の問題もなく、俺達はそこに辿り着く。

 剥き出しの土の地面の上に立つ、大きな大きな石の扉。

 扉の後ろの空間には、何もない。

 ただ部屋の中央に扉だけが在る。

 扉の上の飾り部分には、右に青、下に赤、左に白、上に黒の玉が填まり、薄っすらと光を放ってた。


 この玉は、倒した四神に対応しているのだろう。

 特に理由はないがそう感じる。

 そしてまるで俺達を待っていたかの様に、ゴトゴトと石の扉が独りでに開き始めた。

 その奥に広がるのは、石の天井、石の壁、石畳がどこまでも続く、……迷宮の道。



「ハハッ、誘ってやがるぜ。なぁ、亨、どうするよ?」

 何故か嬉しそうに祥吾が笑い、俺を振り返る。

 ……なんで俺に聞くのか。

 他にも冒険者は大勢居るのに。

 そもそも祥吾の傍らには、彼のパーティメンバー達が居るのだから、意見を聞くなら普通はそちらだろう。


 だが祥吾がそう言ったからだろう。

 皆が俺を見て、意見を言うのを待っていた。

 本当に、仕方ない。


 俺は続く迷宮の道の奥を見詰めて考える。

 そりゃあ当然、この先が気になるのは当たり前だ。

 誰だってそうだろう。

 冒険者は、自分のランクより一つ上までの領域に立ち入れる。

 つまりA級冒険者は、浸食領域の最上位であるA級浸食領域の更に一つ上、ダンジョンの中にだって何ら咎められずに入る事が可能だった。

 少なくとも建前上はそうなっているのだ。


 勿論その結果、ダンジョンの中で何が起きても自己責任。

 誰も助けてはくれないけれど、元々A級冒険者が他人をアテにしている筈もない。

 そんな事は何度も乗り越えた上で、全員がここに立っている。

 あぁ、俺が連れて来た香苗だけは例外だけれども。


 ……だからこそ、俺は首を横に振った。

「いや、入りませんよ。祥吾さん、そんな顔しても駄目です。付き合いませんからね」

 何故なら四神を倒せば入れる場所に、今すぐ急いで入る必要は特にないから。

 四神から得られる素材を使って装備をグレードアップすれば、更に容易に四神が狩れる様になるだろう。

 多分朱雀辺りなら、俺がもう少しスキルを鍛えたり、攻略法を確立すれば数名のA級冒険者を集めたら、狩りは随分と安定する。


「四神が溜め込んだ財物は、腹の中にあるんでしょう? その確認もしたいし、ギルドから討伐報酬も受け取りたいし、俺は早く朱雀と青龍を食べてみたい。このメンバーが集まれば四神は狩れるってわかってるのに、急ぐ必要ないですよね」

 朱雀と青龍を食べたいと言った辺りで香苗がぎょっとした顔をするが、そう言えば教えてなかっただろうか。

 俺が四神討伐に参加した理由は、四神を食べてみたかったからだ。

 ダンジョンの中に未知が、特に未知の食材が待っていたとしても、目の前にある四神を喰わずに行く理由はなかった。


 今居るメンバーを集めれば四神は狩れる。

 要するにダンジョンはいつでも開けるとの俺の言葉に、A級冒険者達は顔を見合わせた。

 ほぼ全員に、理解と納得の表情が浮かんでる。

 あぁ、祥吾はこれを言わせたくて、俺に話を振ったのか。


 中には、今すぐダンジョンに挑みたいと考えた者も居ただろう。

 A級冒険者は大抵の者が慎重だが、同時に未知への好奇心も強く持ってる。

 未だ見ぬダンジョンの内部は、その好奇心を強く刺激するから、そう考えるのも無理はない。

 けれどもその場所に行けるのが今だけでなく、これから先は何時でも可能なのだと理解したなら、入念な準備をしてからでも遅くはないと慎重さを発揮するだろう。


 恐らく四神討伐で浮ついた気分を現実に戻す為、祥吾は敢えてこの場所まで皆を誘導し、帰ると言い出すに決まってる俺に話題を振ったのだ。

 もしこの場所を見ずに先に帰還していたら、その後に誰かが先走った可能性は、決して低くない。


「じゃあ次にこの場所に来る時は四神を狩りまくって装備を整えてからで、皆も良いよな? 次はオレも、完全に消し炭にしない様に気を付けて狩るからさ」

 確認する様に言う祥吾。

 あぁ、やはり彼の思惑通りか。

 しかし後半の言葉はあまり信用出来ないから、白虎は兎も角、次は玄武は任せない。



 関西の浸食領域が冒険者によって攻略された。

 このニュースは日本中を駆け巡り、他に地域の冒険者達の戦意にも火を付ける筈。

 強大なボスであった四神の素材は、勿論関西で優先的に消費されるだろうが、一部は他の地域にも回る。

 装備のアップグレードは、他の浸食領域の攻略にも一役買う。

 または先んじて装備のアップグレードを行った関西のA級冒険者達が、派遣されて他の浸食領域の攻略を推し進めるだろう。

 今日、人類はダンジョンとの戦いの勝利に向かって、一歩前に進む。

 その一歩を担った一人が自分である事は、俺の誇りだ。


 後それから、朱雀は俺の好物ランキングに見事ランクインした。

 特に溜め込まれた財物が収まっていた砂嚢は、中身を取り出した後も砂肝として絶妙な味わいと歯応えを俺に提供してくれたし、心臓、ハートは一切れ食べただけで肌艶が明らかに変わる程のエネルギーを秘めてる。

 青龍はまぁ、味は好みじゃなかったが、武器や防具の素材としては良いんじゃないだろうか。


 そんな風に、今日も俺はそれなりに楽しく、冒険者として過ごしてる。



区切りが良いので終了です。


これを関西編として続きを書くかは、のんびり考えます。

続くとしたら九州編(地理がわからない)、関東編(地理がわからない)、他国編、異世界編(異世界転移のタグが要る?)でしょうか。


一先ず、ここまでのお付き合い有難うございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 続き読みてぇ
[良い点] やはり、らる鳥様の文章表現は最高です^^ 淡々と語られながらも話はズンズンと進んでいく。 私は烏の食への欲求に理解をしながらも彼のとんでもないスキルの活用法にワクワクでした~。 [気になる…
[一言]  設定もよく練られ話も上手くまとまった良い作品でした。  淡々とした語り口とディストピアな世界観もよく合ってました。  欲を言えばもっと読みたいです。
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