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 暫くするとD級モンスターの氾濫も始まり、出撃して行ったC級チーム達の活躍を中継付きで暢気に楽しむ。

 しかし雨の冷たさが難点だ。

 この冷たい雨さえなければ、もう少しのんびりと自分の出番を待てるのだけれど、……だが雨が降らなければわざわざ援軍に来る必要がそもそもない。


 俺の防具であるロングコートには、頭部保護の為のフードも付いているから雨避けにもなるが、隣で寒さと戦う紅・真緒は、随分とイライラが募っている様子。

 以前にもこの任務に参加した事があるなら、寒さ位はわかっていただろうに、何故準備を怠ったのか。

 チラチラとこちらを見る視線が実に物欲しそうなので、俺はストレージから予備のコートを取り出して彼女の頭に被せた。

 流石に戦闘を前にして、メインの防具を剥ぎ取られてしまっても困る。


「ありがとー! 三野はやっぱり優しいわねー。はー、早く出番来ないかしらね?」

 どうやら真緒は、出番になったら炎の魔法を放ちまくって周囲の気温を上げる気らしい。

 実に怖い。

 どうして同じ船の配置になってしまったのか。

 今からでも真緒用の船を用意して貰えないのかと問おうとした時、不意に船が動き出す。 


―浸食領域内でのC級モンスターの移動を確認。間もなく氾濫するわ。二人とも、頼むわね―

 そして脳内に届く『地図屋』、高坂・恵の声。

 俺の思い付きは少しばかり遅かった様だ。

 ま、まぁ、真緒とだって何度も組んで戦った事はあるのだし、その実力だって承知している。

 恵のナビゲートによって俺の位置は常に知らされるのだから、巻き込むような攻撃はしないだろう。



「そう言えば、三野はA級いけそ?」

 動き出した船の上で、不意に問い掛けて来る真緒。

 俺はその問いに少しだけ考え、頷く。

 先日、攻略に手間取っていたサラマンダーへの対抗手段は手に入れた。

 他にも攻略法を考えなければならないモンスターは居るけれど、もう少し修練を積み、装備を揃えて行けば、A級浸食領域での安定した活動が可能になる筈だ。

 つまりは、そう、既にA級に至る道筋は見えている。


 A級冒険者に昇格する為に必要な物は、A級浸食領域での安定した活動実績のみ。

 複数のA級モンスターを討伐し、その骸を持ち帰る。

 それを繰り返し積み重ねる事が出来る実力の持ち主にのみ、A級冒険者の称号は与えられた。

 要するに実力のみが冒険者のランクを決める要素で、ギルドからの信用やら人格やらの評価は、全く関与はしないのだ。


 勿論ギルドからの信頼を積み重ねておけば、装備の発注や情報の提供等で便宜を図って貰えるから、それ等を軽視して良いって話じゃない。

 例えA級冒険者でも普段の行いが悪ければ、やはり相応の扱いを受ける事になる。


「そっかー、アタシはちょっと手詰まり中。やっぱりソロは厳しいねー」

 真緒の姿をちらと見れば、オークキング討伐の時には身に付けていなかった幾つかの装備が確認出来た。

 恐らく彼女なりに、装備を整えてA級に昇格する筋道を考えているのだろうけれど……。

 A級浸食領域には特定の属性が通じなかったり、或いは魔法自体の効きが悪いモンスターも出現する。

 それ等はあまりにも、真緒との相性が悪過ぎた。


 彼女とて、A級を目指そうかと言う冒険者だ。

 魔法に頼らぬ戦闘技術も幾らかは持ち合わせているけれど、C級以下なら兎も角、A級のモンスターにそれで挑める筈がない。

 結局、真緒がA級を目指すなら、誰かとパーティを組むのが一番正しい方法だった。


「三野もソロじゃ難しいって感じだったら、組みたいなって思ってたけど……。ソロで行けるって言うなら、それを見たいなって思うのよねー」

 そろそろ戦場が近い。

 こうして雑談に興じれる時間も、後僅か。

 俺は黙って、真緒の言葉に耳を傾ける。


「ほら、三野が無事にA級に昇格して、まだアタシがソロだったら、その時は良かったら組んでみようよー。お互いの実力は知ってるんだし」

 まぁA級に昇格して一区切り付いた後なら、それも良いかも知れない。

 元々ソロで居続ける事に、深いこだわりがある訳でもないのだ。


 自分一人なら引力スキルを使えば移動が手早く済んだ事。

 失った仲間を思うと、再び親しい仲間を作って、それを失うのが怖かった。

 折角ここまで一人でやって来たのだから、Aランクには独力で到達してみたいと言う軽い意地。


 それ等が混じり合って、今まで俺はパーティを組む事を避けてたのだろう。

 けれどもA級浸食領域をメインに活動するなら、更にボスの四神を倒して本当の意味でダンジョンに挑むなら、仲間は絶対に必要になる。

 休息時の見張りが交互に出来るだけで、体力回復が飛躍的に効率が良くなるのだ。

 真緒の言葉は、良い切っ掛けだと素直に思えた。

 故に俺は黙って頷き、刀の柄に手を掛ける。


 さぁそれでは、任務の時間だ。



 琵琶湖に押し寄せてくるモンスターの種類だが、E級モンスターで主となるのは、口先が突出して槍の様な吻を形成している突撃魚や、狂暴な噛み付き魚等、体長が一メートル前後の魚型モンスターが主となる。

 他にも三十センチ程のサイズだが、水面から飛び出て吻を突き刺して来る矢魚等、E級モンスターとしては戦い難い相手が多い。

 次にD級モンスターで主となるのは、マーマンと呼ばれる半魚人の類だ。

 マーマンはオークと同じく知能の高い人型モンスターで、やはりファイターやマジシャン、アサルトやグレネーダー等の種類が居る。

 尤もアサルトの持つ銃は、水中ではあまり役に立たず、マーマンアサルトは水面から顔を出しては、水上にアサルトライフルを乱射して来る為、実は水中の方が倒し易いらしい。


 グレネーダーはマーマンの場合でもやはり特に危険な相手で、彼等の投擲弾は水中だろうと問題なく爆発する。

 ……が、その衝撃が水中を伝わる際、他のモンスターや、或いは自分自身をも巻き込んで気絶してしまう場合も多いとか。

 勿論その衝撃は冒険者も巻き込むので、危険である事には間違いがないけれど、どうにもマーマン達は、学習したダンジョンに与えられた武器を使いこなせていない印象を受けてしまう。

 遠方で大きな爆発が起きているけれど、あれは位置情報から察するに、恐らくC級チームである魔女の集いのメンバーが、魔法でマーマングレネーダーを誘爆させた物だ。


 さて、最後にC級モンスターだが、こちらは中型から大型のモンスターが殆どになる。

 髭を震わせると水中や、空中にも振動を放つ大鯰や、下半身が複数の犬で上半身が裸の女性であるスキュラも全てを合わせれば数メートルサイズの中型だ。

 湖底をのっそりと歩き、水面にまで首を伸ばして獲物を丸呑みにする亀、グラトニータートルは大型。

 そんなC級モンスターの中でも最も巨大なのが、体長ニ十メートルを超える大水蛇。

 ここが海ならば大海蛇、シーサーペントと呼ばれるのだろうが、琵琶湖は淡水であるが故にその蛇はレイクモンスターと呼ばれていた。


 俺は四神のダンジョンに属するC級モンスターは、滅多に出現しない特殊個体を除けば、殆どが討伐済みだ。

 だがその殆どに含まれない僅かな例外の一つが、このレイクモンスターである。

 このレイクモンスター以外は、多分琵琶湖に出現するモンスターは全て狩った。

 噂だけで存在が確認されないマーマンの上位種や特殊個体、ジェネラルやキングが本当に居るなら話は別だが、確認されてるモンスターはレイクモンスター以外はコンプリートしている。

 だったら、そう、今日のこの機会に、何とかレイクモンスターを狩りたいと思い、今俺はこの起重機船に乗っている。



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